第二十三話 身勝手な悪意
■コルエ視点■
「……つまんない! つまんないつまんないつまんなーい!!」
自室のベッドの上で手足をバタバタさせながら、あたしは部屋の中に不満をぶちまけていた。
だって、最近面白い事が全然無いんだもん! 欲しい物は簡単に手に入るのはいいけど、やっぱり欲しい物はお姉様から奪ってこそ面白くなるんだよ!
それに、最近お母様が凄く忙しそうで、全然構ってくれないの! 本当につまんない!
「コルエ様、紅茶の準備が出来ました」
「はぁ!? あたしはコーヒーが飲みたいの! そんなのいらないわ!」
「で、ですが……先程コーヒーをご用意した時、紅茶がいいと……」
「気分が変わったの! ていうか、王女のあたしに逆らう気!?」
メイドの態度に腹を立てたあたしは、思い切りメイドの頬にビンタをした。乾いた音と、手に残る感触、そして赤く腫れ上がったメイドの頬を見ると、少しだけ退屈が解消される気がするの!
でも、あくまでそれは少しの間だけ。根本的な解決にはなってない。あーあ、何か面白い事でも起きないかしら?
「あたしの旦那様も、あんまり構ってくれないし……ダメ元でお母様の所に行ってみよっと」
そうと決めたあたしは、お母様の部屋に入ると、そこでは面倒臭そうに書類とにらめっこをしているお母様の姿があった。
うわぁ、何この書類の山。さすが国のトップ……お母様くらいの人になると、こらくらいの仕事をやらなきゃいけないんだ。あたしが同じような立場になったら、絶対にこんな事は下の人間にやらせよっと!
「お母様、大変そうね」
「コルエ、部屋に入る時はちゃんとノックをしなさい」
「ごめんなさーい。それで、何をしてるの?」
あまりにも書類が多いから、ちょっと気になって聞いてみると、お母様は凄く疲れたような表情で、大きな溜息を漏らした。
「最近税金を増やしたら、馬鹿な国民達が騒がしくてね。それ関連の書類が山ほど溜まってるのよ。さすがに対処するのが面倒だわ」
「あー、そういえば増やしてたね。そのおかげであたし達の生活が豪華になったけど、その分面倒も増えたと」
国民なんて、あたし達王族が国を管理してなければ路頭に迷うっていうのに、ちょっと税金を増やしただけでギャーギャー騒いじゃって。うるさいったらありゃしないよ。
「最近は城に直談判する輩も増えてるし、税金を重くしたのに、私達のお金も潤沢とは言えないし、あぁ嫌だわ」
「ふーん……あ、良い方法があるよ! お姉様みたいにすればいいんだよ!」
私の言った事がよくわからないのか、お母様は首を傾げていました。こんな簡単な事がわからないくらい、お母様は疲れているんだね。
「直談判をしてきた連中を、不敬罪とか適当な理由で捕まえるんだよ! それで捕まえた連中を、お姉様の時みたいに奴隷商人に売るの! そうすれば、一々反発する国民を減らせるし、売ったお金であたし達が贅沢が出来て、一石二鳥だよ!」
「……その考えは無かったわ。さすが私の娘ね」
ふふん、さすがあたし! まさに天才ね! お母様にも褒められちゃったー!
「ふふ、考えただけで愉快になってきたわ。散々私に抗議してきた連中を、地獄よりもつらい場所へと送ってやるわ」
「お母様、あたしにも何体か奴隷を分けてよ! 最近退屈で仕方ないから、奴隷で遊びたいの!」
「まあ可哀想に。最近構ってあげられなくてごめんなさいね。もちろんあなたの欲しいだけの奴隷を見つけるわ」
「やったー! お母様大好きー!」
あたしは嬉しさのあまり、お母様に強く抱きついちゃった。
本当にお母様は優しくて素晴らしい人だよ! あたし、お母様の子供で本当によかった! だって、こんなにワガママし放題な環境、他には無いよ!
「さて、税金問題はそれで良いとして……国の資源や食糧が不足してる問題をなんとかしないと。そうじゃないと、私達の生活が悪くなるわ」
「資源と食糧かぁ。強制的に国民を働かせて何とかならないの?」
「ならないわね。資源には限りがあるし、食糧もすぐに生まれるものでもないから」
それもそうだよねー……なんか良い方法ないかな? お姉様みたいに、近くから奪える対象がいれば楽なんだけどね。
「うーん……資源は税金みたいな感じで、国民からは奪えないもんね……」
「そうね……待って、税金……奪う……なんだ、わかってしまえば簡単な事じゃない」
「何か案があるの?」
お母様の考えに期待を膨らませながら聞くと、お母様は口角を上げながら答えた。
「隣国のエルピス国から奪えばいいのよ。今は友好関係を結んでるから、まさか攻撃されると思ってないでしょうし……奇襲を仕掛ければ、対応出来ないはずだわ」
他国から奪う? 確かにそれならすぐに手に入るけど、相手が素直にそれを受け入れるとは全然思えない。そうなると……。
「それって、戦争って事だよね? 凄く面白そう! あたしもやりたい!」
「駄目に決まってるでしょう。あなたも私も、安全な城にいるのよ。戦争なんて、兵士や国民にやらせればいいの」
戦争なんて、歴史の中でしか知らない大きな出来事なんだから、あたしだって参加してみたいのに! 国民達を指揮して、相手をバッタバッタ倒してみたーい!
「さっそく兵士や武器を集めないといけないわ。また忙しくなってしまうけど、これも私達の生活の為ね」
「お母様、あたしに手伝える事ある?」
「もちろんあるわ。人出は多ければ多いほどいいもの」
「やったー! えへへ、楽しみ! あ、でもノア様には気づかれないようにしないと駄目だよね? あの人の性格だと、多分反対しそう!」
「大丈夫よ。私の嘘を信じ込んで婚約破棄をしたくらい馬鹿な男だもの。所詮ただの若造よ」
「そっかー!」
どんな事でも、初めてってワクワクドキドキするものだね! お姉様一人から奪うのですら、かなりの快感があったのに……大国から奪うだなんて、一体どれくらい楽しいのかな!
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■ノア視点■
「はぁ……はぁ……!」
城の廊下を風のように速く走っていた僕は、誰もいない自室の中へと飛び込んだ。そして、その場で力なく座り込んでしまった。
……とんでもない事を聞いてしまった。たまたまイザベラ様にご用があって部屋に伺ったら、お二人がとんでもない話をしていたのを聞いてしまった。
「戦争だって……? 先祖達が長い時の中で作り上げた隣国との繋がりを、あんなくだらないものの為に犠牲にするのか!? それに、僕は騙されていたのか……!?」
話を聞いてしまった以上、放っておく事は出来ない。だが、僕は所詮は宰相になって間もない、未熟な男。僕にはイザベラ様の決定を覆すほどの力は……無い。
「力が無いからなんだ? 僕は昔、父と約束をしたじゃないか……父の跡を継いで、立派な国王と共に、国と民を守っていくと……その誓いを絶対に果たすんだ! それに、こんな所で立ち止まってたら、騙されて追放してしまったマシェリー様に、申し訳が立たないじゃないか!」
そうと決まれば、行動をしなければ。目立った事をすれば、イザベラ様にバレて投獄されてしまう可能性もある。そうなってしまったら、この事を知っている人間がいなくなる。それだけは避けなければ!
「……仕方ない。あくまで妨害をする程度に……」
だが、妨害するだけでは意味が無い。バレないように、エルピス国に危機を伝えなければ。それに、イザベラ様の悪事の証拠も手に入れなければならない。
「そうだ、戦争をするには準備が必要だ。その準備を、なるべく大々的にやれば、エルピス国の方々が異変を感知してくれるかもしれない! その間に、僕は悪事の証拠を手に入れよう!」
こんな事しか出来ない自分が情けないが、何もしないよりは絶対に良いはずだ。全てはグロース国とエルピス国の為に、そして民達の平穏と幸せの為に……!
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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