第二十二話 報われた努力
「んっ……」
私の唇に、カイン様の唇の感触が直に伝わってきます。いつもはされる側だった上に、驚きであまり覚えていないのですが……自分ですると、こんなにも感触や熱を感じるものなんですね。
うぅ、嫌というわけではないのですが……この何とも言えない恥ずかしさ、そして胸の奥の熱とムズムズした感覚は、何度経験しても慣れません。
ですが、これもカイン様を救う為です。その為なら、この感覚にも耐えて見せます! 耐えて……耐え……や、やっぱり恥ずかしいです!!
「ぷはっ……まだ顔色が良くないですわ……恥ずかしいですけど、もう一度です!」
さっきとは別の所を噛んで更に血を出してから、私は再びカイン様と口づけをします。
カイン様は、私を助ける為にこんなに苦しんでいるのです。恥ずかしさに悶えている場合ではありません! もっと、もっと血を分けなければ……!
「どうにも上手くいきませんわ……恥ずかしがらずに、もっと強くしなければ……」
こうして、口に溜まった血をうまくカイン様の口の中に……ひゃあ!?
びっ、ビックリしましたわ……少しでも血を送ろうと躍起になってたら、誤って口の中に舌を入れてしまい、カイン様の舌に当たってしまいましたわ。
でも、さっきよりかは血を分けられたはずですわ。これで良くなるといいのですが……足りないなら、もう一度!
「……うっ……」
「カイン様!? お気づきになられましたか!」
三回目の口付けをしようとした瞬間、カイン様はゆっくりと目を開きました。まだ少しボーっとしていますが、意識を取り戻した事が、何よりも嬉しいですわ!
「……どうしたんだ、そんなに取り乱して……口から血が……まさか、また症状が!?」
驚いた表情を浮かべるカイン様は、なんとか起き上がって、私が無事かを確認しようとしますが、私にやんわりと止められてしまい、再びベッドに横になりました。
「これは自分で口の中を噛んだのが原因ですわ。それで、実は……」
カイン様を変に勘違いさせないように、セバス様に診てもらって血が足りなくなっていた事と、私が口づけで血を分けた事を話すと、カイン様は気まずそうに顔を俯かせました。
「そうだったのか……それは申し訳ない事をした。嫌だっただろ?」
「いえ、そんな事はありませんわ。恥ずかしかったですけど、カイン様だからこそ出来た事です」
「……あ、ありがとう」
あれ、なんだかカイン様の顔が赤いような……また熱が出てしまったのでしょうか!? 意識を取り戻したとはいえ、まだ完治したわけでもないですし、血が足りてるとも限らないです! 油断してはいけませんわ!
「その、体の方はどうですか?」
「体に力が入らない。やはり血が不足しているようだ。マシェリーこそ体調や口の傷は大丈夫かい?」
「体調は問題無いですわ。口は……ちょっとビリビリします」
「そうか……ところで、申し訳ないけどまだ血が足りてなくて。もう少しだけ分けてもらえないか? 出来れば口から」
「あ、その……わかりましたわ」
意識が戻ったのだから、首からでも良いと思うのですが、カイン様がそうお望みなら……そう思った私は、寝たままのカイン様に唇を重ねました。
「んっ……ふぁ……!」
「…………」
先程のように、私から血を流し込むようにするつもりが、カイン様の舌が私の口の中に入り、そっと動き始めました。
それ駄目です……くすぐったいようなこの感覚……頭がボーっと……。
「……ふう。ありがとう、だいぶ楽になったよ」
「それは……何よりですわ……」
カイン様の舌が引っ込んだタイミングで、私はカイン様から顔を放すと、その場に座り込んでしまいました。
口付けだけでも色々と凄くて死んでしまいそうなのに、舌まで……ああもう、これもカイン様の為ですわ! だからしっかりしなさい私!
「カイン様……あまりこういう事をされたら、身が持ちませんわ……血が欲しいのなら、首とかからでも出来ますし……」
「ああ、すまない。でも口の中は楽になっただろう?」
言われてみれば、確かに先程感じていた口の中の痛みは無くなっています。ボーっとしてしまっているせいで、痛みを感じないだけかもしれませんが……。
「確かにそうですわね……カイン様のお力で治してくれたのですか?」
「そうだよ。俺の為に怪我をした君を治すのは、当然の事だろう?」
それはそうなのかもしれませんが、調子が悪い状態で他人の心配が出来るなんて、本当に凄いと思いますわ。
このような騎士の心といいますか、人を思いやれる気持ちがあるからこそ、ヴァンパイアの血というハンデがあるにも関わらず、騎士団長になれたのでしょうね。
「その果物は、君が用意してくれたのか?」
「いえ、実は騎士団の方が何人かお見舞いに来てくれたんですよ。その時に持って来てくれたんです」
「騎士団……? なぜ俺の見舞いに……?」
「いつもたくさんお世話になっているから、日頃の感謝と仰っておりましたわ」
「そう、か……そうなのか……一つ貰えるか?」
「もちろんですわ」
先程向いたリンゴを手ごろなサイズに切ってから、カイン様の口元に持っていくと、小さな口で食べてくれました。
「……甘いな……でも、なぜか少しだけしょっぱくも感じる。不思議なリンゴだ……」
「ふふっ、そうですわね。きっと世界に一つだけのリンゴですわ」
リンゴを深く噛みしめるように目を閉じるカイン様の目からは、キラリと宝石のように輝く雫が流れ落ちました。
きっとリンゴの甘さとしょっぱさは、カイン様の今までの努力の味なのでしょう。たくさん頑張ったのだから、報われて当然ですもの。
「良かったですわね、カイン様」
「ああ……ありがとう、マシェリー」
「っ……!」
カイン様の嬉しさが前面に出た笑みを見た私は、今まで感じた事がないくらいの胸のドキドキを感じておりました。
……なるほど、そうだったのですね……最近カイン様を目で追うようになったり、口付けをしても良いと思った理由が、ようやくわかりました。わかってしまえば、なんて事はありません。
私は、彼に恋をしていたのですね――
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