第二十話 私の体調
まるで予想もしていなかった回答に、私は目を丸くして驚きました。
だって、私の体に毒だなんて、全然意味が分かりませんもの。一体どうして私の体にそんな物が? いつ盛られたのか? 考えても、さっぱりわかりません!
「順を追って話しましょう。初めてあなたから血を貰った時、坊ちゃまはあなたの体に、遅効性のある毒が存在している事に気が付きました。この毒は珍しい物で、現在治療薬がありません」
「…………」
「そんな中、坊ちゃまは血を貰う際に、血とは別に、自らの意思で一緒に毒を抜いてしまおうと考えました。このやり方なら、血を貰うという大義名分を掲げながら、あなたを救えます」
そんな、何から何まで信じられません……いや待って、そういえばカイン様に血を分けた時は、いつも体調が改善されておりましたわ。それも、日を追う毎に元気になってました。
そうか……そうだったんですね。全てはカイン様のおかげだったのですね……そんな事も知らずに、私は呑気に血を渡して、カイン様の力になれたと思って……!
「でも、それだとカイン様の体に毒が残りますよね?」
「ちゃんと体の外に出しております。ですが、完全には抜けきれず、こうして体調を崩してしまったのです」
完全には……という事は、今まで何度も血を分けた時に積もりに積もった微量の毒が、こうしてついに顔を出したという事ですか?
「本来なら言うべきではないと思いましたが、こうなってしまった以上、ちゃんと説明をするべきだと判断致しました」
「それで、治す事は出来るんですか!?」
「薬はありません。ですが、先程お伝えした通り、ヴァンパイアの体は頑丈です。しばらく寝込むと思いますが、安静にしていれば完治はするかと」
「そうですか……」
その言葉を聞けて、ひとまず安心は出来ました。ですが、この胸に感じる罪悪感だけは、消える気配がありません。
「病院では、これ以上出来る事は無いので、屋敷にお連れします。ですので、マシェリー様は先にお帰りになって休んでくだされ」
「わかりました……あの、カイン様が帰って来たら、看病は私に任せてもらえませんか? 散々ご迷惑をおかけしてしまったので、せめて看病くらいは……!」
「わかりました。坊ちゃまも、あなたがいれば安心するでしょう」
「はい……ありがとうございます。ではお先に失礼します……」
……安心。果たしてそうなのでしょうか? 元はといえば、私が原因だというのに……私のせいで……。
「モコ、私……」
「くぅん」
ずっと足元にくっついて離れなかったモコを抱きあげながら、私は自責の念に堪え切れず、一筋の涙を零しました――
****
先に屋敷に帰って来て準備をした私は、後から帰って来たカイン様のおでこに、濡れタオルを置きました。
意識を失ってから、カイン様はまだ目を覚ましません。それに加えて、時折苦しそうに顔をゆがめていて……見ていて不安ですし、胸が締め付けられるような悲しみを覚えますわ。
「…………」
「モコ、どうしたんですの?」
「……ふんっ」
モコは鼻から息を漏らすと、カイン様の枕元で丸くなりました。
カイン様の事があまり好きじゃないモコにしては、とても珍しいですわ……きっとモコなりの、カイン様への気遣いの形なのかもしれません。
「……うぅ……ここは……」
「カイン様、目を覚ましたんですか!?」
「マシェリー……あれ、ここは俺の部屋……そうか、俺は倒れて……すまない、迷惑をかけたようだね」
「何を仰ってるんですか!? 元はといえば私が……!」
「もしかして、倒れた原因を知っているのか?」
小さな声による問い掛けに、私は首を縦に振って見せると、カイン様は小さく息を漏らしました。
「いずれは知られると思ってたけど、思ったよりも早く気づかれてしまったね」
「カイン様は、私から毒を……」
「ああ、その通り。おおよその事情は聞いたか?」
もう一度首を縦に振ると、カイン様はフッと笑いました。その笑みにどんな意味が込められているのかは、私にわかる術はありません。
「どうしてこんな事をしたんですか?」
「どうして? 目の前で苦しんでいる人がいて、俺の力で助けられるとわかっていた。ここまで条件が揃っているんだから、助けるのは当然だろう?」
「当然じゃありませんわ! だって、下手したら自分の身が危なかったのですよ!」
いくらヴァンパイアの体が頑丈とはいえ、自分の体に毒を入れるだなんて行為、危険以外の何物でもありません。私なんかの為に、そんな危険な事をする必要なんてありませんもの。
「まあそうかもしれないね。でも……俺の事情を聞いても深入りせず、それどころか歩み寄ろうとした姿が嬉しくてさ。だから、助けたいってあの時は思ったんだ。今は違うけどね」
「今の理由はお伺いしても?」
「あー……まあそれはまた今度」
話をはぐらかすカイン様のお顔は、ほんのりと赤みを帯びていました。
もしかして、また熱が上がったのかもしれませんわ! 早く濡れタオルと氷枕を取り換えないと!
「つめたっ……ありがとう、マシェリー」
「礼なんて言われる資格はありませんわ。本当に……ごめんなさい……」
「どうして君が謝るんだ?」
「だって、私のせいでカイン様が……」
「……ところで、調子はどうだい?」
「……ええ、好調です」
「ならよかった。君の元気な姿が見れただけで、俺は全て報われたよ」
こんな時でも優しいカイン様。少々常識はずれな事をするカイン様ですが、本当にお優しくて……気づいたら、私は目からキラリと輝くものを流しながら、カイン様の手を握りました。
「俺の事は心配いらないよ。こうなるのは想定内だからね。しっかり休んで、また一緒に食事をしたり、庭を散歩しよう。だからそんな顔をしないで、笑っていてほしい」
「っ……!! は、はい!!」
今まで一緒に過ごした中で、一番優しくて素敵な笑顔を浮かべるカイン様に頷きながら、私はとても強い胸の高鳴りを感じておりました――
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