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第十九話 平穏から一転

 誘拐事件から数カ月が経った頃、私は久しぶりにお城にやって来て、カイン様が行う騎士団の稽古の見学に赴いておりました。


 今日は、この国の王であるエドワード様に御用があったんです。とは言っても、近況のご報告をしただけなんですけどね。


「……最近、おかしいですわ……」


 稽古をボーっと眺めながら、私はぽつりと呟きました。


 おかしいというのは、私の体調や行動の事ですわ。誘拐事件の数日後に起きた発作以降、一度も調子が悪くなっていないのです。


 体調が改善されているのは良い事なのですが、症状が出るようになってから、ずっと良くならない所か、悪くなる一方だったのが急に良くなるのは、少々不気味に思ってしまいますわ。


 気のせいかもしれませんが、カイン様に血を分けた日は、特に調子が良いんですのよね……。


 それと、もう一つ変わった事……行動についてですが、これは些細な事ではありますが、確実な変化ですの。


「ラスト一周! これが終わったら休憩を挟んで筋トレを行う!」

「今日も頑張ってますわね……」


 これが変化といいますか、なんというか……最近、気が付くとカイン様の事を見ていて、いらっしゃらない時は彼の事を考えてしまいます。


 それだけではなく、カイン様を見ていたり考えていたりすると、ソワソワしますし、自然とだらしない顔になってしまいます。不思議な感覚ですわ。


「モコ、この不思議な現象の原因って何だと思います?」

「……ふぁ~……」

「ちょっとモコ、聞いてますの!?」

「はふぅ」


 これは、絶対に聞いてないですわ! 私の事よりも、眠い方が優先だなんて、モコはいつからそんな薄情になってしまったんです!?


「まあいいですわ。それよりも、そろそろランニングも終わる頃ですし、カイン様にお声をかけましょう」


 ふふ、実は今日はサプライズでクッキーを焼いてきたんですのよ。たくさん焼いたので、騎士団の方々にも配る予定です。


 初めての試みなので、屋敷のコック様に教えていただきながら作ったんですの。味見をしたので、恐らく大丈夫だと思うのですが、感想を聞くまで不安なのは否めません。


「あ、カイン様! お疲れ様ですわ!」

「……うん」

「カイン様? なんだか顔色が優れませんが……」

「え、そんな事は無いよ」

「それなら良いのですが……あの、今日はクッキーを焼いてきたんです! 休憩中に皆様で食べていただきたくて、コック様に教えていただいたんです!」

「…………」


 あ、あれ? 反応がありませんわ……どこか上の空といいますか、目線が明後日の方を向いているといいますか……。


「大丈夫ですか?」

「あ、うん……クッキーだったよね。ありがとう、みんなで一緒、に……ごほっ!!」

「え、カイン様!?」

「ごほごほっ!! くっ……ごほっ!!」


 何かを言う前に、カイン様は咳き込みながら、その場で倒れてしまいました。その姿があまりにも衝撃的で、私は彼の名を呼びながら、口に両手を当てる事しか出来ませんでした……。


「た、隊長!? あの、なにがあったんですか!?」

「わかりませんの! 突然倒れて……! とにかく病院に!」

「はい、自分がすぐに手配をします!」


 私の元に駆けよってきた騎士団の男性が、慌ただしくその場を去っていく中、私はカイン様の体を揺すりました。


 顔色が悪いですし、凄く体が熱い……かなり熱があるようですわ! どうしてこんな事に……カイン様、死なないでください……!



 ****



「カイン様……」


 病院で検査をして貰ったカイン様に付き添っていると、いつの間にか外が夕暮れ色に染まり始めていました。


 お医者様が言うには、ただの風邪と疲労だろうと仰っておりました。しかし、相手は普通の人間ではないから、もしかしたらヴァンパイア特有の病気の可能性もあるとの事でしたわ。


 いつから調子が悪かったのでしょう? 最近は血も分けていましたから、とても元気そうでした。今朝だって、至って普通でしたのに……。


「失礼致します」

「セバス様……」


 静かにカイン様を見つめていると、セバス様が病室へとやって来ました。急いで来てくれたのか、額には汗が沢山流れております。


「医師から話は伺っております。命に別状がなくて安心しましたぞ」

「はい、ですが……熱が全然下がらないんです。もしかしたら、ヴァンパイア特有の病気かもと聞かされたので、私不安で……」

「……そうでしたか」


 簡潔に説明をすると、セバス様は何故か気まずそうに顔を俯かせました。それは、なにか私に隠しているようにも見て取れましたわ……。


「あの、そういった病気ってあるんですか? セバス様ならご存じでは?」

「種族特有の病というのは、確かに存在致します。しかし、ヴァンパイアは日光やニンニクが苦手といった明確な弱点はあるものの、基本的には体が頑丈な種族です」


 それなら、なにか病気で倒れたというのは考えにくいですね。なら、どうして急に倒れたのでしょう……皆目見当がつきません。


「ところでマシェリー様、最近体の調子はいかがですかな?」

「私、ですか? はい、とても好調ですわ。正直、少々不気味さを覚えるくらいには」

「そうですか……」


 どうしてセバス様は、私の体調など心配するのでしょう? 今は私の事よりも、カイン様の方を気にかけるべきだと思うのですが。


「実は、あなたに隠している事がございまして。あなたと坊ちゃまの体調に関してです」

「私とカイン様の? どういう事ですか?」

「ワタクシは、お二人の体調の変化の原因を知っております」


 知っているとは、どういう事でしょうか? もしかして、カイン様は元々持病をお持ちで、それをセバス様がご存じだったとか?


 でも、それだと私の事まで知っているのはおかしな話ですわ。


「以前から、マシェリー様は坊ちゃまに血を分けておりましたよね?」

「ええ、ヴァンパイアとして人間の血が無いといけないのでしょう?」

「仰る通り。実はこの時に……あなたの体から、血と共に毒を吸い出していたのです」

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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