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「不可侵条約」

 コンコン


 ドアがノックされたのでシャーリーが元気よく玄関に向かった。最近勇者様達の話を聞きたいという人が子どもだけではなく大人までやってくるので俺はうんざりしていた。シャーリーは喜々として語るのでその対応はシャーリーに任せることにしていた。しかしその日の訪問者はいつもとは違う様子だった。


「お兄ちゃんに用事がある人ですよ?」


「俺に!?」


 俺も勇者と言うことになっているが多くを語らないのでシャーリーほど人気にはなっていなかった。だからシャーリーの話で我慢できなくても俺の方が話術に優れているわけではないので俺に話を聞こうという人はほとんど居なかった。


「はいはい、何ですか……」


 玄関には白髪の老人が立っていた言い知れぬ迫力があったのだが敵意は感じなかった。しかしまた、英雄譚を聞きに来た様子ではなかったので建設依頼かと思って家に上げて茶を出した。


「それで、本日は何のご用でしょうか?」


「あなたがギースを倒した者か?」


「は? ギースって誰です?」


 老人はため息を一つついて言った。


「この前我々の中でも過激派だった者がこの村を襲っただろう、それがギースだ」


 その言葉を聞いて緊張が走った。その条件に該当する者はたった一匹しか居ない。そう、この前のドラゴンだ。


『衛星レーザーはロックされています』


 クソ! 肝心なときに使えない!


「そう硬くならんでくれ。ワシは和平を結びに来ただけじゃ」


「和平?」


「そうじゃ、このワシ、ドラゴンの長たる『エンシェントドラゴン』が直々に不可侵条約をこの村と結びに来たのじゃ」


 老人は迫力はそのままにとんでもないことを言い放った。


「おっと、ギースを殺したスキルを使うのは勘弁してくだされ、この老いぼれには致命傷になるかもしれませんからな」


「聞きたいことは山ほどあるんですが、そもそも何故ドラゴンがここを襲ってきたんです?」


「最近人間が調子に乗っておると怒っておる連中がおってのう……ワシも無駄に血を流すなと言っておったのじゃがここ最近はワシの言うことを聞かんものが出てきたんじゃ」


 老人は遠い目をして言う。


「ワシは言った、『人間を追い詰めると危険』じゃとな、しかし連中は聞かんかった。そしてついに実力行使に出た。それが……」


「それがこの前のギースというドラゴンですか?」


「そうじゃ……愚かじゃったがやはり仲間の死というのは悲しいものじゃ……ワシはもう人間と争って仲間が死ぬのを見たくないのじゃよ。そこで『不可侵条約』というわけじゃ」


 俺はそもそもの疑問を問う。


「そういうのは王様とか偉い人と結んだ方が良いのではないですか? 俺はただの町人ですよ?」


「お主はギースを倒した、お主の君主にもそれは可能なことかのう?」


「それは……無理でしょうね」


「ドラゴンは強者に付き従う。貴族じゃろうと王じゃろうと実力の無いものと結んだ条約などいずれ無視されるものじゃ、じゃからワシは……」


「俺と契約に来たと言うわけですか?」


 老人はカッカッかと笑って俺に言った。


「どうじゃ? お主もまたあのような連中に襲われたくはなかろう? ワシも仲間の死を見たくないのじゃよ。お互いの利益になるじゃろう?」


「確かに、あんなのが何度も敵になるとか考えたくはないですね」


「うむ! ならば構わんな? 条約締結じゃ」


「分かりました、その代わりこの村には絶対に襲ってこないと約束してください」


 老人は驚いた顔をしてから言った。


「なにを言っておるんじゃ? 最大の実力者を相手に不可侵条約を破るほどドラゴンは愚かではないぞい」


「俺が実力者?」


 老人は何を言っているのだという目で俺を見る。


「当たり前じゃろ、他に誰がおる? 言っておくがこの老いぼれでも王の国軍ぐらいなら滅ぼせるんじゃぞ? お主の力は国軍よりよほど強いわい」


「俺が……軍より強い?」


「そういうことじゃ、神のやることは分からんのう……ギースもこんなところにドラゴンを打ち倒すやつがおるなど信じておらんかったじゃろうな」


 話がぶっ飛びすぎていて理解が追いつかない。とりあえず分かったのはドラゴンが襲ってくることはもう無いということだけだ。


「ま、お主の力をどう使おうと自由じゃがの……ドラゴンに襲いかかるのだけはやめてもらうだけじゃ。お主は好きにするが良い」


 そう言って老人は玄関を出て……その瞬間真っ白なドラゴンになって飛び去っていった。町の人たちは不安がったが、俺が『もうドラゴンが襲ってくることは無い』と言ったので納得してくれた。シャーリーはドラゴンとの不可侵条約を王様に報告しましょうと言ったのだが、不必要に目立ってシャーリーと引き離されるのもいやだしな……『向こうが襲ってこないって宣言したんだからもういいだろ』と言って話は終わった。


 こうして無事この町は守られ、ドラゴンの侵攻という脅威は無くなったのだった。


 その後しばらく俺が英雄呼ばわりされてしまったのは言うまでも無いだろう。しかし俺のシャーリーと二人で静かに暮らすという夢に割り込もうとする、勇者と賢者の間に入ろうと考える人はおらず平和に過ごせたのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんで戦車やミサイルをすっ飛ばして衛星なのかと思ったけれど、あくまで町の守りだから外へ攻めていける戦車や何百キロ先でも攻撃出来るミサイルは制作出来ないと?
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