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「軍事設備を作れるようになった」

『スキル進化により軍事施設を作れるようになりました』


 物騒なスキルを平和な朝食の中にぶち込むのはやめてくれないかな……そんなもの作っても使い道が無いだろうに。


「お兄ちゃん、また何か作れるようになったんですか?」


 さすがシャーリー、どこまでも鋭い奴だ。


「軍事施設が作れるようになったみたいだ」


「随分と物騒なものを作れるんですね」


 俺は少し考えてから答える。


「確かに庭に作ったら大問題になりそうだな……」


「さすがに売り込むところがないですね……下手に作ると領主に反抗的と取られかねないですし」


「そうだよなあ……」


 自分の領地に突然ガチガチに軍備を固めた町が出来たら侵攻を疑うだろう。何の理由も無くそんなものを作るとケチがつくのは明らかだ。何よりあの見栄っ張りの町長がとても嫌がるところしか想像出来ない。


 勝手に作るのもリスクがあるし、当面は金に困っていないので今作れるものだけで食べていけるだろう。わざわざドラゴンの尻尾をくすぐるような真似はするべきではない。軍備なんて領主の私兵達に任せておけばいいだろう。領民を守るのは貴族たる領主の務めだ。


「しかしスキルの方も来るところまで来たって感じですね。そのうちお城だって作れるようになるんじゃないですか?」


「土地がないだろ。このスキルはこの町の中でしか使えないみたいだしな」


「そうですねえ、『町作り』ですもんねえ」


 シャーリーも諦め気味にそう言った。軍備など個人で勝手にしていいものではない。もう少しマシな物を作れるようにしてくれればよかったのに。


「とりあえず外回りしようぜ、結構有名になったし運がよければ依頼されるかもしれないだろ? 飯の種なんてどこにころがっているか分からないものだよ」


「お兄ちゃんは気楽ですねえ……まあお金は十分あるのですし気楽になった方がいいのかもしれませんね」


 シャーリーも納得してくれたようなので町に出た。そこで気づいたのだが町の空気がピリピリしていた。そこで俺を見て駆け寄ってくる人がいた。


「アポロさん! 防犯設備を大量に作ってください! 代金はきちんと支払いますので」


「何ですか急に! お兄ちゃんへの依頼は私を通してくれないと困りますね」


「こちらの方は?」


「妹でマネージャのシャーリーです」


「マネージャさんでしたか、実は急に防衛設備が必要になりまして……」


 なんだか話が不穏な方向へと向いている。この不穏な空気はまるで領主が戦争を企てているときのようだ。空が曇っているのも不穏な感覚を強くしてきている。


「実は私は役場のものなのですが、監視所から魔物の大量発生が観測されまして、徐々にですがこの町を目指して侵攻してきているそうなんです! 魔物の駆除に冒険者や傭兵を集めていますがやはり数が足りないんです!」


 コレは……あれか? 新しく作れるようになった軍事施設を作れと言うことか? あまりにもタイミングがよすぎる。しかしただの町が独立した軍備を持つなんて聞いたことも無い。領主に任せているところばかりのはずだ。


「あの……領主様に派兵を頼まれればいいのでは?」


「領主様はゴブリン程度なら自警団でなんとかなるだろうという姿勢なんだ」


「あー……敵はゴブリンですか」


「お兄ちゃん! 何を呑気にしているんですか! 今こそ町作りスキルの本領を発揮する場面じゃないですか!」


 シャーリーはものすごく乗り気だが、何が出来るか分からないというリスクは大きい。もしかしたら領主どころか国王の脅威となる物が出来る可能性すらあるのだ。安直に便利だからという理由で作るのは危険だろう。


「なにか防衛に役立つものが作れるのですか!? でしたら是非お願いします!」


「どうなるか分かりませんよ? 責任だってとれませんし……」


「何が作れるんでしょうか? 少しでも戦力になるならお願いしたいのです!」


「軍事施設……です、何が作れるかはまだ試したことがないので分かりません。本当に何が出来るか分からないギャンブルですよ?」


 何が作れるかも分からないものに頼るのはリスクが高すぎるだろう。正気の沙汰とも思えない、向こう見ずの博打でしかない。


 役人は少し考えてから俺たちに頭を下げた。


「緊急事態です、責任は町が取りますので設置をお願いします」


 正気か? 出たとこ勝負にしたって限度ってものがあるだろう。俺の予感がこのスキルからは超兵器でさえ作りかねないと告げている。下手をすれば私兵よりよほど強いというヤバすぎる物が出来る可能性がある。


「リスキーですけど、本当に構わないんですか?」


「お願いします! 町の北から観測されているのでそちらに軍備を固めてください!」


「ちなみに代金は?」


 シャーリーはどこまでも商売人だった。金にならないことはしない、そう言う方針を採る意志は鉄のように固いようだ。


「ゴブリンの討伐数に応じて報酬が出るのでそれで賄って頂けると……」


「実績主義というわけですか……まあいいでしょう」


「いいのか?」


 シャーリーにしては珍しく後払いの上不透明な計算の報酬を認めている。いつもなら大量の金貨と引き換えに渋々俺に設置させるところだろう。


「何が出来るか分かりませんしね、確かにへぼい物が出来ればお金になりませんが、すごい物が出来たら一攫千金ですよ?」


「博打打ちの発想だな……」


 ロクな考え方をしていないシャーリーだが、このまま待っているだけでは町に大きな被害が出る可能性もある。幸い責任は町が取ると言ってくれているのでリスクは町が持ってくれる。


「分かりました……制作してみます。安全の保証は出来ませんからね?」


「今は誰にだって頼りたいところだ、是非頼む」


 こうして俺たちは町の北まで野道を急いだ。

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