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「食料保管庫に防犯設備を付けた」

 コンコンと朝食中にドアがノックされた。本日は防犯設備を警戒したシャーリーが突っ込んでこなかったので平和な朝を迎えられた。そしてコレはいつもの朝食中のできごとだった。


「お客さんですかね? 私が出てきますね!」


「たまには俺が……」


「お兄ちゃんはがめつさが足りません、交渉に弱そうなので初対面は私が圧をかけますのでお兄ちゃんは建築の方をお願いしますね」


 やんわり断られ、俺は朝食に向き直った。アイツなら交渉で負けることは無いだろう。議論で負けそうになるとゴネるタイプなので負けようが無い。相手に自分の意志をゴリ押すという点では非常に優秀な妹だ。その点に関しては完璧な信頼感を妹に持っている。


「でも……それは……」


「しかしですね……」


「しょうがないですね……じゃあこの金額で……」


「高すぎませんか?」


「……ですよ……断っても」


「……ました……それで……」


「よろしい!」


 妹の一言で価格交渉が終わったようだった。食事を終えた俺が、終わってしまった交渉を見に行くと、パリッとした身なりの男が汗をかきながらシャーリーと話し合っていた。


「シャーリー、こちらの人は?」


「アポロさんですか? 私は役場のジョンと申します」


「はあ……また大きなものを作って欲しいんですか?」


 ジョンは首を振って答えた。


「私は防犯設備を希望でして……この前作って頂いた穀物倉庫に防犯設備をつけていただきたいと思い来たのですが……」


「ですから、防犯設備は別料金になります! 当時は防犯設備抜きの価格で作ったんですから新規で作るならお金が必要に決まっているでしょう?」


「それは理解しますが……多少の割引があっても……」


「ダメです! 全部込みの値段設定なので別のものを作るなら別料金に決まっています!」


 シャーリーの言葉が正論のような気はする。まあ高い金をかけて建ててもらったものに後日別サービスが付くことが決定したなら文句の一つも付けたくなるか。


「申し訳ないですが建物は建物としてそれなりに安かったでしょう? 野菜や鉱石が日によって値段が動くように建物だって同じですよ」


「仕方がない、その値段で発注しますので穀物倉庫への防犯設備をお願いしますぞ」


「任せなさいって! 完璧なものを作りますよ!」


 断言するシャーリーに、俺は一抹の不安を覚えた。一体いくらふっかけたのだろうか? アレだけ渋るということは役場に予算がロクに無いのかシャーリーがかなりぼったくったかのどちらかだ。でなければ新規設備の設置であそこまで揉めたりはしないだろう。


 ジョンさんが出て行ったあとでシャーリーに一体いくらで受けたのか訊いてみた。


「金貨五十枚ですよ?」


 そりゃあ渋るわなと納得の金額を提示したので、役場もなかなか大変なんだなと思わされた。


「さて、食糧倉庫へ行きましょうか!」


「分かったよ、金額については一考の余地があるが、それが通せるなら文句はないよ」


 かなりの暴利だが実際それを回収出来るなら問題は無い。ちょっぴり人の恨みを買うかもしれないという程度だ。


 そうして食料保管庫に行くと衛兵らしき人が二人で入り口を守っていた。おそらくこの二人を配置転換してここは自動防衛に切り替えるのが目的なのだろう。


「こんにちは」


 俺は衛兵の二人に声をかける。二人ともピクリともせず『こんにちは』と答えた。こういうお堅い人たちは苦手なんだよな……


「ええっと……ここに防犯設備を取り付けに来たのですが……」


「はっ! お話は伺っております! ここを無人化する計画を立てていることは存じておりますので」


「それでですね、防犯設備というざっくりとした依頼しかされていないのですが、どういったものがご希望ですか?」


「どういったもの……と仰いますと?」


「侵入者を射殺するようなものから、入ろうとしたら気が付くものや、扉を登録した人以外通れないようにするものまでいろいろあるんですよ」


 この食料保管庫は今のところ中身は入っているもののそれが活用されるような切羽詰まった事態は来ていない。だから今のところは過激な防衛は必要無いだろう、しかしいざ必要となったときには人が押しかけるような事態になりそうなので、それなりの防犯は必要だろう。


「あまり過激なのはちょっと……町民の方が利用されるので穏当なものにしてくれと聞いております」


「なるほど、アラームくらいではちょっと弱いでしょうか?」


 防犯装置のアラームでは大挙して押し寄せられたときなどに対処出来ない。無難にい行くならドアロックだろうか?


「お兄ちゃん! ここは私たちの実力を見せるために侵入者をぶち殺すような完璧なシステムを取り付けましょう!」


「お前話聞いてた?」


 バリバリ過激派の意見を言うシャーリーを放置しておいて設備の選択を考える。人を傷つけないものだとドアロックになるかな。


「特殊鍵でいかがでしょう? 暗証番号を入れないと入れないものから、許可された人の顔を判断してロックを開けるものなどもありますよ」


 俺の言葉に衛兵は唸っている。どうやら設備としてなにを取り付けるかは一任されているようだ。あるいは防犯設備が複数種類あることを聞いていなかったのかもしれない。


「普通の鍵もあるのか?」


「もちろんありますよ、偽造に強い魔力錠になりますね」


 正規の鍵に魔力を使って認証情報を書き込みそれ以外では入れなくなるという代物だ。ただし……


「物理鍵は盗難の危険があるのでお勧めはしませんよ」


 そう、いくら鍵の偽造が不可能に近くても、本物の鍵を盗難されてしまえば元も子もない。


「ふむ……そう上手くはいかんか……」


「私にも話させてください! 捕縛ネットで動きを止めて自動砲でぶっころ! コレで誰も近寄りませんよ!」


「お前、間違って入ったりしたら死ぬようなシステムにする気か?」


「罪人死すべしですよ!」


 過激派のシャーリーの言葉は無視して話し合う。ドアロックで大体の意見は統一されたのだが、ロックの認証方法で議論が始まった。


「顔を見て認証でいいのでは無いですかね? 実際ここにはいる人は限られているんでしょう?」


 俺の意見に衛兵はここの事情を話し出した。


「ここは左遷された人が担当していますからね……同じ人であっても次の日には突然やめているということが普通にあるんですよ。なので魔法鍵の方が良いかと思っています」


「そんなに辞めるんですか?」


「ああ、ここの管理は飢饉にでもならないかぎり役目がないからね。日がな一日貯蔵量の変わらない書類にサインをしてばかりだと嫌気がさすらしいんだ」


 思った以上に闇が深いようだ。


「じゃあ魔法鍵で作ってしまいましょうか。他にはアラームくらいをつけておけば構いませんか?」


 物理的に鍵があるなら辞めるときに取り上げるだけで終了だ。セキュリティ的に悪くない選択になる。しかし左遷先になっているなんて世知辛いものだな。


「そうですな、アラームもつけて頂けると非常時に駆けつけることが出来ますしな」


 ということで、ここにつけるのは魔法の錠前と探知アラームになった。


『魔法鍵を作成します』


『検知式アラームを設置します』


「コレで完成ですね」


「もうですか!? アポロさんはすごいと聞いていましたが本当に早いですね」


「どうです? お兄ちゃんの凄さが分かったでしょう?」


 自分は何もしていないのに自慢気にしているシャーリーを置いておいて、鍵を生成して衛兵に手渡す。


「コレが鍵になります。偽造の心配は無いのできちんと上役に渡しておいてくださいね」


「は! 確かに鍵を受け取りました!」


 元気よく鍵を受け取る衛兵さんに報酬をくださいと申し出た。


「はい、今すぐお持ちします! おい! 預かっている金を持ってこい」


 部下に命じて報酬を取りに向かわせた衛兵さんと話をした。


「中の方は無事ですか? 中身が傷んだり腐ったりはしていないですか?」


 この倉庫の中身にどれほどの恩恵があるのか分からなかったのでそれについて聞いてみた。


「不思議なことに一切傷んだものがないんですよ。明らかに傷みやすいものを運び込むときは反対したんですがね、未だにそれはまったく傷んでいないのです」


「そうですか、ならば注文通りになっているようですね」


 俺が満足していると、部下の衛兵が金貨の入った袋を持ってきた。


「こちらが報酬になります」


「見せてください!」


 シャーリーが袋をひったくって内容物を確認する。過不足無く金貨が入っていることを確認して満足げに抱えた。


「ではお兄ちゃん、帰るとしましょうか。今晩はご馳走を作りますので期待していてくださいね!」


 そう言って太陽のような笑顔を俺に向ける。その日の夕食はパンと野菜と肉と魚と果物という買えるものは大体のものを買ったという立派な夕食になったのだった。

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