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「防犯設備を作れるようになった」

『……すか……聞こえますか?』


 眠りの狭間で声が聞こえる。


『あなたにスキルを与えた者です。『防犯装置』がアンロックされました』


「アンロックってなに……」


 そこで意識は途切れた。


 朝早く、まだシャーリーも起きていないような時間だったので、何故あんな夢を見たのか気になった。


『防犯装置を作りますか?』


 部屋の入り口を見ているとそんな声が響いてきた。どうやらアレはただの夢ではなかったらしい。作るように意志を固めると制作が始まった。


『防犯装置を制作します』


 ドアの上にリング状の物が出来てピタリと固定された。何だろうこれ?


「お兄ちゃん! おはようのキッスをうぼわあああああ!」


 飛び込んできたシャーリーの上にある輪っかから網が生成され下に落ちた。それに絡まったシャーリーはジタバタしているものの逃げ出せないようだ。


「お兄ちゃん、なにを作ってるんですか!」


「防犯装置、作れるようになったみたいだから試しにな」


「それは大変結構なのですが私を実験台にするのは辞めて頂けませんか? 私はお兄ちゃんに悪意など持っていませんよ? むしろ好意しか持っていません!」


「その格好で飛び込んでくるのが悪い」


 薄着に馬鹿みたいに短いスカートと下着が見えるような格好をしてきている。もう少し恥じらいというものを知るべきだな。


 俺は網をとってやり、これが防犯装置として使えることをしっかりと理解した。


 よく見ると、それまで無かった内鍵もドアについている。今回は鍵をかける前にシャーリーが飛び込んできたから用を為さなかったものの、これを使えばしっかりと防犯が出来そうだ。


「お兄ちゃんのベッドにきわどい服で飛び込むのは妹の権利でしょう?」


「お前まったく反省してないな? もう一回網にかかるか?」


「お兄ちゃんのケチ……」


 そう言ってシャーリーは自室へと帰っていった。さすがに再度あの格好で来ることは無いだろうから壁にあるスイッチを押し下げた。多分これが防犯装置のスイッチだろう。いかにもそうですという形をしているからな。


「お兄ちゃん! 新作について詳しく!」


 ちゃんとした服を着たシャーリーが飛び込んできたが、今度は防犯トラップが作動することはなかった。やはりアレがスイッチなのだろう。


「説明もなにも、突然寝込みを襲ってくる奴を捕縛したり出来るみたいだぞ、さっき経験したとおりだ」


 シャーリーはうんうんと頷いて販売の算段をつけている。全部分かったという顔をしているが、俺でさえ唐突に作れるようになってわけがわからない状態なのにコイツが理解出来ているはずがないだろう。


「今回のはきちんと需要がありそうな設備ですね、なかなか気の利いた進化をするスキルですね!」


 スキルは生き物ではないと思うのだが、確かにどんどん成長していくあたりは生き物みたいだなと少し思った。


「お兄ちゃん! これを売り出しますよ! 怪しげな商売をしている人に刺さりそうな商売が出来ますよ!」


「堂々と後ろ暗いことがある人に是非とは勧めづらくないか? というかそういう人たちに売り込むのは俺が好きじゃない」


「しょうがないですね、クリーン路線で行きましょうか」


 渋々といった感じでため息をつくシャーリー。スキルは俺の物だし、俺が作業するのになんでそこまで自信満々に俺に指示を出せるのだろうか……?


「とりあえず朝ご飯にしましょうか」


「そうだな」


 結局俺たちは腹が減ったので朝ご飯を食べようということになった。何にせよ食事をしないと頭脳が働いてくれないからな。


「今日の朝は何にしたんだ?」


 シャーリーはキッチンからカゴを持ってきた。


「じゃーん! フルーツの盛り合わせです! 手軽に食べられて美味しい! 片付けも捨てるだけ! お手軽ですよ!」


「おお、バナナまであるじゃん、結構高かったろ?」


「私たちの家計からすれば微々たる支出ですよ」


 断言するシャーリー、無茶な買い物ではないのだろうし構わないかな。この前も井戸で稼いだことだし、多少の贅沢は許されるだろう。


 俺はオレンジの皮に指を突き立てながら考えた。防犯装置が役に立つところとはどんなところだろうか? 金持ちの家? 金庫の部屋? 子供部屋? 考えているうちにオレンジの皮がむけたのでそれを食べていると考えがバラバラに散って思いつきもしなくなった。


「さて、どんな商売の方法がありますかね?」


「飯食ってるときに商売の話はやめろよ。金を食ってるような気分になるだろうが……」


「商売人たるものいつでも商売のことを考えているべきだと思います! ついでにお兄ちゃんなら常に妹のことを考えているべきだと思います!」


 無茶苦茶な理論を堂々と発表するシャーリー。


「じゃあ妹なら常に兄のことを考えているべきって事になるだろうが、無理を通そうとするのはよせ」


「え? 私はいつもお兄ちゃんのことを考えていますよ?」


 なんだコイツ……本気で言っているのか?


「とりあえず防犯設備は使い道が多そうですね。お金持ちほど注文してきそうなところはよいですね。まあお金を持っているけれど怪しい人が注文してきそうではありますが……」


 分かってんじゃん、怪しい奴に食い物にされそうな気がするんだよなあ……


「まあそこは町で身元のはっきりしている人に売り込むってことにすればいいですね」


 スッパリ貧乏人と怪しい奴を切り捨てるシャーリー、コイツは商売にとことん向いているのだろうな。人間として冷たいとは思うが、底の抜けた桶に水を注いでもしょうがない。どこかで諦める必要があるのだろう。


「メロンもらうぞ、切ってあるのな」


「その場で食べられるのがウリらしいですからね、どうぞ」


 俺はシャーリーに差し出されたメロンをかじり、ぼんやりした頭を覚醒させる。かじりきったところでようやく眠気が覚めてくれた。


「なあシャーリー、別に今の商売でも困っていないんだから、このままでもいいんじゃないか?」


 デカく一発儲けられるわけではないが、地道に商売が出来る、それで我慢してもいいのではないだろうか。


「そうはいきませんね、お兄ちゃんと私の理想の生活をするためにはお金が必要なんです、と言うわけで防犯装置の宣伝文を考えてきますね」


 そう言ってシャーリーは部屋にダッシュで帰っていった。俺は残りのフルーツをチマチマ食べながら商売の難しさについて考えていた。

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