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「厩舎を作れるようになった」

 その日、お風呂に入って給湯器を使用していると天の声が降りてきた。


『スキル使用により『厩舎』を作れるようになりました』


 うーん……イマイチ使い道の思いつかない建造物だな。この町には馬車の定期便はたまには来ているのであまり多くの家が個人で馬車を持っていない、需要が少ないので役に立たないような気がする。


「おにいちゃーん? 出てこないなら私も入りますよー?」


「今出る」


「お兄ちゃんは私のことが嫌いなんですか?」


「好きだぞ、好き好き……」


 それからシャーリーは『心がこもってない』などと不平を言っていたが俺は服を着て部屋に戻った。


「なあ、新しく作れるものが増えたんだが……」


 シャーリーは風呂上がりの格好でグイグイ来た。


「なんです? なんなんです? お金になりそうなものですか?」


「いや、金になるかは怪しいものだな……」


「何が建てられるようになったんです?」


「厩舎」


「馬小屋……ですか……それは立派な物が出来るんですかね?」


「どうなんだろ? 作ってみないと分からんな」


 シャーリーはあまり金にならないと判断したのだろう。『明日作ってみましょう』と言ってベッドに向かった。


「そっちは俺の部屋だぞ」


「ちっ……お兄ちゃんは細かいです!」


 渋々自分の部屋に帰っていくシャーリーを見送りながら、どんな厩舎が建てられるのか興味が尽きることはなかった。


 翌日……


「お兄ちゃん! 朝ご飯ですよ!」


「今行くから……なんでお前はベッドに忍び込もうとしているんだ……」


「お兄ちゃんがびっくりして起きるかと思って……?」


「今さらそのくらいで驚くわけないだろ、はいはい、出た出た」


 昔のことを思い出すとそもそも同じベッドで寝ていた兄妹が今さらそのくらいで驚いてたまるかっての……


 眠い目をこすりながらキッチンに向かうとパンと……何故かニンジンのグラッセが一緒に置いてあった。


「何故ニンジン?」


「お兄ちゃんが厩舎を建てられるようになったというので馬繋がりで……」


 安直だなあ……朝から市場でニンジンを買ってきたのか。しかし朝食に甘いものがあるというのはありがたい。砂糖を取ると頭がよく働いてくれるからな。


 席についてパンをちぎって口に入れ、フォークでニンジンを刺して口に運ぶ。


「美味しいですか?」


「ああ、美味いな……」


 とはいえこれで厩舎の使い道を思いつくようなこともないわけだが……


 馬車と馬を持っている家庭は当然厩舎も持っている。敢えてそこに売り込むわけにもなあ……


「お兄ちゃん、食べ終わったら庭に厩舎を建ててみませんか? ものは試しと言うでしょう?」


 俺は少し考え頷いた。


「それもそうだな、それが一番手っ取り早いな」


 俺はパンを噛みながらそう答えた。


 食事を終えると俺たちは庭に出た。今まで建てた建物は全部破棄してまっさらな状態にしてある。すっかり庭も実験場と化しつつあるな。


『厩舎を作成します』


 スキルを使うと地面から素材が浮き上がってきてあっという間に木造の馬が一頭飼えるだけの厩舎が出来上がった。何度見ても馬鹿げたスキルだ。


「一頭用のシンプルなものですね……床がコンクリートですけど」


「いまいちかなあ……ガンガン作るような需要のあるものでもないしなあ……」


「そうですねえ……品質は良さそうですが、早々建て替えるようなものでもないですしねえ……」


 そう、品質は良さそうだ。小綺麗だしおそらくスキルで製作したので頑丈さは保証出来るだろう。問題は馬小屋を壊れてもいないのに建て替える物好きがいない事だ。


「建て替えますって割安でやってみるか?」


「買い叩かれそうな売り方ですね……多分それは悪手ですよ」


 そうだなあ……弱みを見せると『建て替えてやるから金の方は勉強しろよ』と言われかねない。厩舎だけならそれでもしょうがないのだが、それ以外の井戸や小屋まで買い叩かれる可能性がわいてくる。手堅い商売をするならコレは見なかったことにするべきだろう。


 いずれまた、誰かの馬小屋が壊れたときに建て替えを提案するくらいに控えておいて見なかったことにするのが賢い判断だろう。


「しかし考えようによってはもったいないですねえ……せっかく立派なものが建てられるというのに……」


「そもそも当たりスキルかどうかも怪しいんだから、こういうイマイチ使い道のないものも作れたりはするだろうよ、愉快ではない話かもしれないがな」


 シャーリーは忌ま忌ましいものを見るような目で厩舎を見ているが、俺は新しいものが作れるようになって言っていることに少し心が動いていた。この調子でいくと一体何が作れるようになるんだろうな。


「スキルはこの辺にして昼飯にしようぜ、そのうちまた何か思いつくだろ」


「お兄ちゃんは気楽ですねえ……」


 こうして俺たちは昼飯にしようとしたのだが……


「お兄ちゃん、この厩舎を破棄して道からよく見える場所に建てておいてくれますか?」


「構わないけど何か意味があるのか?」


 シャーリーはドヤ顔で言う。


「良い宣伝にはなるでしょう?」


「ハハハ、違いない」


『厩舎を破棄します』


 馬小屋をバラバラにして道に面したところに新しく作る。


『厩舎を作成します』


 こうして数日間は町の人たちにどこよりも立派な馬小屋に馬が入っていない様を見せることになったのだった。

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