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6話

遅くなってすみまめん。

 俺とガランは、先生に拳骨された頭を抱えていた。


「お前らなー……。このままなら中止にするぞ、どうする?」


「いって〜。やりますよ」


「ぐっ……。やるに決まってるだろ」


 と言ってガランは俺を睨んでくる。


「はぁー……。お前ら実践でも喧嘩する気か?」


「んー。するかもしれないですね」


「する」


「するな! ったく。次やったら中止だからな!」


「はーい」


「ふん」


 先生は疲れた顔をして、「はぁー」と再度溜息をつき、フィールド外へ出て行く。

 それを、俺とガランは背中で見送り、所定の位置に着く。


「では、はじめ!」


 開始の合図と同時に、転移の魔法陣が光りはじめる。


「おい、邪魔だけはするなよ? 早漏お兄ちゃん」


「こっちの台詞だ。ゴブリン愛好家」


 こいつ協力する気ないな。

 まぁ、俺もだけど。

 勝手にやるとしますか。


 次に出てきたのは、ゴブドール4体と、ゴブアーチャー4体の合計8体だ。


 出てくると同時に、後ろのゴブアーチャー4体から、矢が山なりに放たれる。

 矢は、俺とガランの間を中心にして降ってきたので、それを俺は左、ガランは右にとんで避ける。


 ゴブドール達は4体ずつ俺達の方を向く。内訳はゴブドール2体のゴブアーチャー2体だ。

 うまくパーティーを分断したつもりなんだろう。

 が、俺達にしたら好都合だ。

 個別に戦えるからな。


「風よ、包め」


 きれていた風魔法をかけている間に、ゴブドール2体がこちらにドタドタと走ってくる。


 俺は木剣を構え、ゴブドールに向かって駆け出すと、ゴブドールは真っ直ぐ俺に向けていた足で、2体それぞれ左右にとぶ。


 すると、その間からゴブアーチャーの放った矢が飛んでくる。


 俺は「ちっ」と舌打ちをして、左手を前に突き出し、魔法を発動する。


「突風!」


 矢が落とされると、先程左右に分かれたゴブドールが、棍棒を振り下ろそうとしてくる。

 左のゴブドールは、棍棒が振り下ろされる前に左足で蹴り飛ばし、右のゴブドールの棍棒は木剣で受ける。


 ゴブドールのレベルが少し上がってるな。

 さっきよりも矢ははやく、棍棒を振り下ろす動作も速くなっている。

 まぁそれでも腰裏の短木剣を抜くまでもないか。


 と考えながら、ゴブドールを棍棒ごと力任せに突き飛ばす。

 そこにすかさず、矢が飛んでくる。


 それを、右で転がっているゴブドールの方へ、駆け出す事で避ける。

 そのまま、ゴブドールの胸に木剣を突き刺して倒す。


 すると、俺側のゴブアーチャーがいる場所とは、違う場所から1本の矢が飛んでくる。

 はっ!?と驚きつつも、咄嗟に左へとんで避ける。


 こっちの方角には……。


 チラッと横目で矢が飛んできた方を見ると、ガランがニヤッとした顔で見ていた。


 クソ、あいつか。

 弓の射線状に俺が来るような位置取りをしたな。


 とガランに憤っていると、今度は俺側のゴブアーチャーから2本の矢が飛んできたので、それを木剣で叩き落とす。


 ふんっ。師匠の矢に比べたら、だいぶ遅いな。

 ガランがその気ならこっちだって……。


 俺は左で起き上がり、こちらに向かって来ている、ゴブドールをフルスピードで斬り伏せる。そのまま俺側のゴブアーチャーとの距離を一気に詰める。勢いをつけた木剣の腹で、1体をガランがいる方へ飛ばす。


「ちっ!」と大きな舌打ちと同時に、ガンッとゴブドールを斬り付ける音が聞こえてくる。


 どうやら、飛ばしたゴブドールは、ガランによって戦闘不能にされたようだ。


 まだまだ。


 俺側のもう1体が矢を放つ準備をしているので、俺は俺の後ろにガランが来るような位置取りをする。

 そこに予想通りの矢が飛んできたので、今度は叩き落とさず、左にとんで避ける。


 後ろを見ると、ガランがそれを平然と避けていた。


「てめぇっ!」


 すると今度は、舌打ちではなく、木剣を持った鬼の形相のガランが、こっちに向かってきた。


 何をしに来るのかは、予想出来ていたから、俺は木剣を正面に構える。


 予想通り、ガランは俺に、木剣で斬りかかってきたので、こちらも木剣で受ける。


 ガッと木剣同士のぶつかる音が会場に響く。


 ガランの方が力が強かった為、俺は後ろへとばされる。とばされると言っても予想出来ていたので、ガランの振り抜く力に合わせて自分からとんだというのが正しい。

 なので、ダメージは殆どない。


 ゴブアーチャーは、ガランの方と合わせて残り2体。

 それを無視して、俺はガランと対峙する。


 観客席にいる生徒から見たら、俺とガランが対峙していて、それぞれの後ろに、ゴブアーチャーが1体ずついるという不思議な構図になっている。

 ちなみに、みんな一直線上に並んでます。


 俺&ゴブアーチャーVSガラン&ゴブアーチャー的な感じだ。


 さぁ、俺のゴブアーチャー頑張ってくれよ。

 いや、お前は今からゴブ姉だ!


 ……やっぱり、ゴブ姉だとちょっとゴツい感じになるからやめよう。


 うーん……。アーチャー、アチャー、よし! アチャ姉にしよう!


 そうと決まれば、アチャ姉! 俺と一緒にあのロリコン野郎をボコボコにするぞ! 俺たちならやれる!


 と新しい姉が出来ると、ガランが横にずれるのが見える。

 そして、ガランが先程いた所からは、ゴブアーチャーが俺目掛けて(本当はガランを狙って)放った矢が飛んでくる。

 俺は、それを横にズレて避けると、後ろからも矢が飛んできたので、木剣で叩き落とす。



 ――――――――ここから下はハオトの妄想です――――――――



「おいおい、アチャ姉。フレンドリーファイヤーは勘弁してくれよ?」


 俺は正面を向いたまま、姉である弓使いのアチャ姉に文句をたれる。


「ご、ごめんね。初めての実戦で緊張しちゃって。次は絶対、敵に当てるから!」


「緊張じゃしょうがないね。後方支援は任せたよ」


「うん! 任せて!」


「でも、フレンドリーファイヤーはお仕置きだったよね」


「そ、そんなの聞いてないよ!」


「うん、だって今決めたし。これもアチャ姉を思っての事なんだ! 許せ、アチャ姉」


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――


 俺は妄想から帰ってきて、直ぐに後ろのアチャ姉に、お仕置きと言う名の風魔法を、お見舞いしてやった。


「はい、突風」


 アチャ姉はそれに対応する事が出来ず、後ろへ倒れるように転がってしまった。


 すると、今度はガランが突っ込んで来た。

 俺はアチャ姉に向けていた左手を、ガランに向け、風魔法で対応する。


「突風!」


 俺とガランがズレたことによって、ガラン側のゴブアーチャーにも突風が襲いかかり、後ろへ倒れる。

 だか、ガランは木剣の腹を突風に向け、そのまま振り抜いた。


「ふんっ」


「おいおい、まじかよ」


 耐えるどころか、木剣で後ろに逸らしやがった。

 師匠にも良くやられたなー。うん、懐かしい。


「2度も通じると思うなよ。最初は急だったから対応しきれなかっただけだ」


「突風!」


 俺は突風を逸らしたことに、少し驚きつつも、もう1度風魔法を放つ。


「通じないって言ってんだろ」


 ふっ。どうかな。

 普通の突風で足りないなら……。


 俺は左手に、木剣を持った右手も加え、両手を前に突き出す。


「これならどうだ! 2倍(にべぇ)だぁ!」


「なっ! くっ!」


 2倍で放てばいい。(ばい)じゃない。(べぇ)だ。


 さっき、後ろへ倒れたゴブアーチャーが立ち上がった途端、今度は後ろに吹っ飛んでいった。


「2倍……だと? 2倍どころじゃ……な……いだろ……。この威りょ……くっ」


 はっはっは。その通り。

 言い方を変えるだけで、威力はさっきの3倍になる!

 2倍と言えば、3倍になるのだ!

 凄いだろ!


 これが詠唱変換の凄い所。

 俺が気持ちの乗る言葉を言えば、言葉の意味に関係なく威力が上がる。

 なので、魔力さえ有れば、まだまだ強くできる。

 例えば、そうだな……。

 よし! この2倍の突風に名前をつけるとしよう。

 俺の気持ちが乗る名前だ。

 そして、その名前を叫ぶ。


突風波(とっぷうは)ーー!!」


 これだけで威力が少し上がった。

 ガラン側のゴブアーチャーはフィールド壁まで吹き飛ばされ、そのまま戦闘不能になった。


「く……そ……」


 ガランは木剣の腹を正面にし、両足を地面につけたまま、ズザザザァと盛大に後ろへ滑って行く。


 そして、そのまま体勢を崩…………さなかった。


「がぁ!!」


「んな! まじかよ!」


 耐え切りやがった!

 これにはさすがの俺もビックリだぜ。


 師匠には燃費悪いからやめろって言われそうだから使わなかったが、まさかガランが耐えるとは。


 俺はもう突風波は使えない。

 速度を上げる風魔法を、使いっぱなしとすると、残りの魔力では突風2回が限度だな。

 本当に燃費悪いな、突風波。

 でも気に入ったから、今後も使っていきたい。


「はぁ……。はぁ……。すぅー……。ふぅー……」


 俺が残り魔力を計算していると、ガランは、息を整えて再度こちらに駆け出して来た。


 俺はガランが駆け出したのを見ると「アチャ姉今だ!」と心の中で叫び、横にズレる。


 すると、アチャ姉の放った矢は俺がさっきまでいた場所を通りガランへと飛んでいく。


 ナイスタイミングだぜ、アチャ姉。

 まぁタイミング測ってただけなんだけどさ。


 だが、ガランはそれを簡単に木剣で叩き落とす。



 ――――――――ここからはまたハオトの妄想です――――――――


「ねぇ見た!? 今度はちゃんと敵に飛んでったよ! タイミングもバッチリだったしね。ふふんっ」


 と言ってドヤ顔を見せるアチャ姉。


「おいおい、何言ってんの? タイミングは俺が合わせてあげたんだよ? 何も分かってないなー、アチャ姉は」


 と、俺。


「え、えー! そうだったの? 完璧に出来たと思ったのに。じゃあ、またお仕置きかぁ」


 ショボーンと肩を落とすアチャ姉。


「安心して、アチャ姉。敵に飛ばせただけ、さっきより成長してたよ。それに、ミスした訳じゃないんだから、お仕置きはなし! それともなに? もしかして、お仕置きが欲しとか?」


 と、俺はニヤニヤ。


「そ、そんな訳ないでしょ! もう、ハオトったら、何を言ってるのかしら。ほら、もう敵が近くまで来てるわよ」


 と、顔を真っ赤にして、まくし立てるアチャ姉。


「ほんと可愛いな、アチャ姉は」


「もう! 何言ってるの! ちゃんと集中しなさい!」



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



 この間、1.3秒。


 ガランとの距離はまだ少しある。

 俺は木剣を下段に構え、ガランとの距離を詰める。


 そして、ガランを木剣の届く範囲に捉え、逆袈裟に斬り上げる。


 だが、それは空振りに終わった。


 ガランは俺の木剣を避けつつ、そのままのスピードで俺の横を通り過ぎて行った。


 慌てて後ろを振り向くが、ガランは俺に斬り掛かる事なく、もっと奥へ走って行った。


 なんだ、あいつ。何がしたいんだ? 

 とうとう頭おかしくなったのか?

 あいつが走ってった方には何も無いは……ず……。


 いや! ある! 

 ちくしょう! 最初から狙いはそっちか!


 俺は焦って、ガランを追いかける。

 が、時既に遅し。


 そこには木剣を振り終えたガランと、胴から真っ二つになったアチャ姉の姿があった。


「これで邪魔者はいなくなったな。サシでケリつけるぞ」


「あ、あ……。そん、な……。アチャ姉ーーーー!!」


「うおっ! 急に叫ぶな! というかアチャ姉? お前、大丈夫か? って元々ダメだったな。くっくっく」


 そんな嘘だろ。

 さっきまで、あんなに顔を赤くしてはしゃいでたのに。

 今はもう、ただの木人形にしか見えない。


「うぅ……。お前だけは、お前だけは許さねーぞ! ガラン!」


「何かよく分からんが、やる気になったようだな」


 ゴブドールとゴブアーチャーが全滅した為、フィールド内に魔法陣が浮かび上がる。

 ゴブドール達の残骸が、光に包まれどんどん消えていく。


 さよなら……アチャ姉。


「最初から全力で行くぞ」


 俺はそういうと、腰裏にある短木剣を左手で引き抜く。


「おいおい、そんなオモチャが全力だってか?」


「どうだかな」


 ゴブドール達が全て消え、魔法陣も消える。

 その中心で、俺とガランは両手を下に下げたまま、睨み合っていた。


 構えていないのに、隙がない。

 構えていない事こそが、構えだ。


 一見、隙全開のこの構えは、無駄な力が入っていないので、全方向からの攻撃に対処する事が出来る。


 まぁ神経を研ぎ澄ませる必要があるから、終わった後は疲れがどっと押し寄せてくるけどな。


 久しぶりだな。この感じ。


 俺の感覚はどんどん研ぎ澄まされていく。


 フィールド内には、俺とガランともう1人しか居ない。


 ん? もう1人?


 ガランも気付いたようだ。

 俺とガランはほぼ同時に、同じ方向を向く。


「お前らー。俺が言いたい事は、分かるよなぁ?」


「あ、あれ〜? 先生じゃないですか。ほら、次! 次のレベルお願いしますよ」


「…………」


 ガランは黙るスタイルでいくらしい。

 だけど、汗は黙れてないぞ。残念だったな。


 かく言う俺も、冷汗が噴き出していた。

 いつもよりも、汗が気になる。

 ベトベトとした感触が、ジワジワと身体中を侵食していくのが分かる。


「次? あー、次な」


「そうですよー。もしかして、先生忘れてたんすか? おっちゃめ〜。………………と、ところで先生。どうしてそんなに笑顔なんですか?」


「んー? それはもちろん嬉しい事があったからだよ」


 満面の笑みの先生は、これでもかと言うほど、表情筋を使っている。


「う、嬉しい事ですか。それは良かったですね。は、ははははー」


「本当に良かったよ! はっはっはっはっ! はーっはっはっはっ……………………」


 ま、まずい! 

 この流れはまずい!

 まずいって事が分かるくらいにはまずい!

 俺の本能がそう言っている!


 こうなったら最終手段だ。

 出来れば使いたくはなかったが、背に腹は変えられない。


「せ、先生。さっきの戦闘中に、また喧嘩してすいませんでした!」


 秘儀! 「怒られる前に謝れば勝ち!」作戦!


「……………」


 くそっ……。手強い……。

 だったら……。


「元はと言えば、最初にガランが襲い掛かって来たんですよ! 俺は喧嘩する気なんてまっっっったく、無かったです!」


 秘奥義! 「人のせいにしちゃえば勝ち!」作戦!


「おい! 汚えぞ!」


 おーっと、ここで入ってくるとは、諦めの悪い坊やだねぇ。

 大人になれば、みんな汚れちまうんだよ。ひぇっひぇっひぇ。


「お前だって、ゴブドール飛ばしてきただろ! 後、ゴブアーチャーに名前付けて遊んでたじゃねーか!」


「言い掛かりはやめて下さい。ゴブドールがそっちに飛んでったのは偶々ですぅー。遊んでなんか居ません、至って真剣でしたぁー」


「…………」


 先生は変わらず黙ったままだ。


「ゴブアーチャーと徒党を組んで、俺狙ってたじゃねーか! 何か気持ちわりぃ名前つけて」


「はぁ? アチャ姉のどこが気持ちわりーんだよ! 言ってみろ!」


「…………」


「主にお前が気持ちわりーんだよ! このゴブリンの弟が!」


「はい! 今、全世界のゴブリンを敵に回しましたー。謝っても許されませーん!」


「…………」


「うるさい! そんな事はもうどうでも良い! 我慢なんかしてられるか! 今すぐ叩きのめしてやる!」


「望むところだ! かかってこいや、変態ロリコン野郎」


「どうやら、さっきの木人形と同じ末路を辿りたいらしいな」


「木人形、だと? アチャ姉の事かぁ!!」


 俺はもうガランと決闘する気満々になっていた。

 そう忘れていたのだ。

 自分が置かれている状況を。


「はっはっはっはっ!」


 俺とガランは、ビクッとして、笑い声の持ち主の方へと振り返る。


 するとそこには、阿修羅がいた……。


 確かに顔は、満面の笑みを浮かべている。

 なのに……どうしてだろうか……。

 俺には角と牙が見えるよ。あははははー。


「お前らこの後、俺の部屋に来い。分かったな?」


 俺とガランは無言で、ぶんぶんぶんと、素早く首を縦に振った。いや、振らされた。



 その後、部屋では…………いや、やめておこう。

 言えることは、ただ1つ。









 先生は………………










 2回も変身を残していたよ。



この回は書いてて楽しかった。


評価、感想宜しくお願いしまぁぁぁあす!

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