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5話


「おい! "マリお姉ちゃん親衛隊"いないのか?」


 頭の中が真っ白になって放心状態でいると、再度名前を呼ばれる。

 だが、今出て行っていいのだろうか。

 隣の男も顔を引き攣らせて、笑える顔になっている。

 このままここで出て行けば、は〜い、俺達がマリお姉ちゃん親衛隊で〜す。と名乗りを上げるようなものだ。


 ん? 待てよ。

 何で俺達はこれが俺達のパーティー名だと思っているんだ?

 実は他にもパーティーがいて、待っていたのかもしれないだろう。

 きっとそうだ! そうに違いない!


「"マリお姉ちゃん親衛隊"! Dクラスのガランとハオトはいないのか?」


 はい、俺達でしたー。

 ご丁寧にクラスまで言ってくれました。

 まぁそうじゃないかとは思ってたけどね、逃避したくもなるさ。

 よく考えてみれば自分からあんな名前付ける奴はいねーよ。


「あのクソババァ……」


 もう爆発寸前のお隣さんから怒りを含んだ声が聞こえる。


「どうやら今なら、お前と気が合いそうだな、ガラン」


「ふっ、そうだな。今すぐにでも暴れたい気分だ」


「なぁ、それならこうしないか。――――」





「良いな。その案にのろう」


 いつもならここで言い合いの1つや2つ始まるのだが、今回だけはスムーズに話が進んだ。


「今日は欠席か? "マリお姉ちゃん親衛隊"はいないか?」


 と、先生が最後に確認しておこうというような大声で恥ずかしいパーティー名を口にしている。


 さっきから周りの生徒のザワザワとクスクスが凄い。


「パーティー名やばすぎだろ」

「マリお姉ちゃんって理事長の事か?」

「あの転入生、姉が好きとか言ってたけど、理事長にも手だそうとしてんのか」

「良い所に目をつけたでやんすね。僕達の夏休みの調査結果では、理事長はDか良くてE! それをこの数日で気付くとは! 流石でやんす。やっぱりパーティーに欲しいでやんすね」

「ぷーくすくすっ。理事長は姉って歳じゃないでしょ」


 最後の奴は長生きしないだろうな。うん、ご愁傷様です。

 後、何か変な視線を感じてゾワっとした。


 さてと、そろそろ出て行くか。


「はいはい、いますよっと」


「ちっ、大声で呼ぶな。鬱陶しい」


「はぁ。いるんならさっさと出てこいお前ら。俺だって、呼びたくて呼んでるんじゃないんだ。……まぁいい。位置につけ」


 大変嫌そうな顔をした先生に言われた通り、俺達は訓練場のフィールド内へと歩いて行く。


 位置に着くと早速、先生から開始の合図が聞こえる。


「では、はじめ!」


 すると、ゴブドール2体分の転移魔法陣の光が正面に見える。

 が、そんなの関係なしに俺はガランと先程の案を実行しようとする。


「さてと、最初の順番でも決めますか」


「まぁ当然、俺が勝つがな」



 …………




「よし! 俺の勝ちー! まずは俺からだな」


「クソが!」


 よっしゃー! ジャンケン勝ったどーー! 


 まぁ案と言うのは、1人ずつ戦おうぜって事だ。

 俺達は、強制的に組まされただけで、連携も何も出来ないだろう。むしろ、同時に戦えば邪魔し合う可能性もある。

 だったら最初から、別々に戦えば良いという事だ。


 その順番を、ジャンケンで決めてたってわけ。


 そんな事してる間に、もうゴブドールが姿を見せていたので、俺も戦闘態勢に入る。


「風よ。包め」


 詠唱変換した風魔法で、自分の体を風で包む。こうする事で速度を上げられる。

 最初の頃は制御するのに何度も転んだり岩に突っ込んで、ふぎゃ! とか変な声を出してしまっていたが、今では完全に制御する事が出来ている。


「ふぅーーーー。…………」


 木剣を下段に構え、体の中の空気を7割ほど外に出し、息を止める。

 そして、ゴブドールを見る。

 するとゴブドールはこちらに走って来ようと足をバタバタさせていた。


 が、それも束の間。

 俺は走り出すと、トップスピードのままゴブドール2体の間を通り過ぎる。


 ふぅ。ちょっとスッキリした。


 振り返るとゴブドールは2体とも上半身と下半身に分かれて地面に倒れていた。


 いっちょ上がりっと。


 さっきまでパーティー名で笑っていた生徒達が口を馬鹿みたいに開けたまま、真っ二つのゴブドールを見ていた。

 その間に俺は最初の位置まで戻っていく。


「おい、交代か?」


「いや、はえーって。憂さ晴らしは始まったばっかだろ」


「さっさと終わらせろ」


 そう言って、ガランはフィールド内の1番後ろに戻る。

 俺がこんだけ溜まっるんだから、あいつもやばそうだな。

 まぁ、まだ順番は譲らないけどな。


 なんて考えていると、ゴブドール4体が出てくる。


 風魔法は、そのまま維持。

 4体が、順々とこちらに向かってくるのを確認して、こちらも木剣を下段に構え、動き出す。

 1体目は、先程と同じように全速力で、駆け抜け様に逆袈裟に斬り上げて倒す。

 そのまま、2体目が棍棒を振り下ろす前に、斬り上げた木剣を振り下ろす。

 すると、残りの2体が左右同時に棍棒を振り下ろして来たのでそれをバックステップで躱し、即座に左のゴブドールとの距離を詰め、棍棒を構え直す前に首を落とす。

 そこで集中を切らさず、右から再度振り下ろされた棍棒を木剣でそらして、そのまま胴を斬りつける。


 ゴブドールだと手応えないな。

 まぁこれからもっとストレス発散できるか。

 本当はクソ理事長に直接発散したいが、今回はゴブドールで我慢しよう。まだまだ楽しませてくれよ、くっくっく。


 俺は邪悪な笑みを浮かべながら所定の位置に戻る。


 それから、8体、16体、32体と順調に憂さ晴らしという名の訓練をこなしていると後ろから苛立ちの込められた声がかかる。


「おい、そろそろ俺にやらせろ」


「へいへい。それじゃ、きつくなったらいつでも言えよ」


「お前の出番は当分来ないと思え」


 ガランはそう言いながら木剣を持って、俺の横を通り過ぎて行く。


 体力的には、まだ余裕はあったが、ガランが爆発寸前だったので譲ってやった。


 やっぱり、ゴブドールじゃ物足りないな。


 俺は木剣を持ったまま、先程、ガランがいた場所まで下がる。


 すると、64体のゴブドールが、次々に魔法陣の中から姿を現していた。


 ガランはというと、ゴブドールが出てくるや否や、真ん中に突っ込んで行った。

 直ぐに、周りがゴブドールに囲まれて、ガランの姿は見えなくなるが、宙を舞うゴブドールの隙間からガランの様子が少し見えた。

 その表情は、やっと会えた親の仇を、この手で葬れるといわんばかりの、歪んだ笑顔だった。


 訓練場の周りを見渡せば、その姿に引いている同級生の姿があった。


 まぁ、あれは俺もちょっと引くわ。

 って俺もあんな感じだったのか?

 ん、んなわけないよな〜。…………ないよな?


 あの様子なら今回は出番はなさそうだな。


 と、本格的に腰を落ち着けて、リイカという少女について考える。


 リイカは中等部時代から、"金色の薔薇"に所属していた事もあり、親しい友人と呼べる人はいなかった。

 強いていうのなら、そのパーティーメンバーなんだが……。

 この3日間、どうにか話を聞きに行こうとしても、取り巻きのような連中に、尽く阻まれてしまった。


 うーん、どうしたものか。

 ここは、人気のお兄様に頼るしかなさそうだな。



 と、考えてるうちにガランは64体のゴブドールを倒したらしい。


「レベル1クリアだ、おめでとう。驚いたな。ガランが強いのは知っていたが、転入生がここまでやるとはな」


「はぁ。はぁ。はぁ。……御託はいい。次を用意しろ」


「おいおい、俺は一応先生なんだがな……。まぁいい。少し休憩したら、レベル2を開始する」


 俺は、なんだかんだ息が上がっているガランと頭をボリボリと掻きながら、苦笑する先生の会話に入っていく。


「いや、すぐに始めてもらっていいですよ。次は俺がやるんで」


「お前ら……。一応、この授業はパーティーの連携訓練なんだがな……」


「おい! 誰が次を譲ると言った!」


「ほら、先生。この通り、連携以前の問題なんですよ」


 ガランが、噛み付こうとする狼のように、ガルルと唸っているので、俺は先生に「ほらね」と言わんばかりに、ガランを指差した。


「うーむ、まぁ良かろう。レベル2からは、簡単にいかないだろう。そのうち、連携の大切さも分かる。では、位置についておけ」


「はーい」


 簡単に返事をして、所定の位置につくと、狼くんが噛み付いてくる。


「おい、待て! 何勝手に進めようとしてやがる」


「お前は十分、暴れてたろ。それにさっき息上がってたじゃねーか」


「もう直った。まだまだ暴れ足りん」


「そんなガツガツしてると、大好きな妹ちゃんに嫌われるぞ」


「ふ……。マイエンジェルは、そんなちっぽけな器じゃないんだよ。姉なんかと違ってな」


「おいおい、最後のはどういう意味だ。答えようによっては、ゴブドールより先に、お前とやり合う事になるぞ」


 といつの間にか言い合いをしていると、先生から怒鳴り声が聞こえる。


「おい、お前ら! はじまるぞ、集中しろ!」


「はいはいっと。風よ、包め」


「ふん」


 俺は木剣を構えて、お馴染みの魔法を唱える。

 ガランは、俺の少し裏に下がる。


 ガランのやつ嫌に素直だな。


 俺は、意識を前のゴブドールが出てくる方へと向ける。

 レベル2からは、数の上がり方はレベル1と同じだが、ゴブドールの種類が増える。

 増えると言っても、弓を持ったゴブドールが1種類増えるだけだ。


 さっきは力押しで行けたけど、さぁどーしたもんか。


 と、どう戦うかを頭で組み立てていると、後ろのガランから声がかかる。


「なぁ、知ってるか」


「なんだ、こんな時に」


 魔法陣が光りだし、ゴブドールの姿が見えてきたにも関わらず、ガランは俺に話し続ける。


「ゴブリンの脳みそって、人間の3分の1もないらしいぜ」


「は? 何が言いたいんだ、お前」


 訳の分からないガランの話が終わると、ゴブドールが完全に姿を現す。

 一体はレベル1同様、棍棒持ち。もう一体は、弓を持っていた。


 弓持ちのゴブドール――ゴブアーチャーが、弓を引いて狙いを定めているが、俺は気にせず、ゴブアーチャーの方へ駆け出す。


 ヒュンッと、弓を射る音がするが、上半身を逸らす事で避け、ゴブドールの横を通り、ゴブアーチャーの首をはねる。

 すると、ゴブドールが、こちらに振り返り、追ってくるが遅い。

 こちらから、距離を詰め、首をはねる。


 ふぅ。ゴブアーチャーの数が増えたら、対処が面倒くさいな。


 俺は血の付いてない木剣を左右に振り、所定の位置に戻る。


 すると、動いていないガランが、また話しかけてきた。


「ゴブリンは、その小さい脳みそのせいで、感情をコントロールする感情脳ってのが、ほとんどない。だから、馬鹿にされると、すぐにキレるんだ。まぁ、簡単に言えば、超短気って事だ」


「へぇー。そりゃ初耳だ」


 また、順番変われとか言われると思ったら、急に豆知識を披露してきた。


 いつになく、お喋りだな。


 と思っていると、まだ話を続けてきた。


「姉って生き物は、弟が口答えすると、すぐにキレるよな」


「何が言いたいんだ」


 俺は、次のゴブドールが出てくる魔法陣の光を見つめる。


「似てると思わないか」


 ガランの声と、ゴブドールが出て来たのは、ほぼ同時だった。


「姉ってのは、ゴブリンくらいおつむが、弱いんじゃねーの――」


 ガランが、最後まで言い終える前に俺は動きだした。


 ガンッと、木剣同士がぶつかる音がなる。


 俺は、ゴブドールが出てきた方とは逆の、ガランへと突っ込んでいた。


「そんなに俺にやられたいのか。お前は」


「ふっ。お前もゴブリン並みの短気さだな」


「お前にだけは言われたくない!」


 木剣を合わせ、言い合っているうちに、ゴブアーチャー2体から、俺とガランそれぞれに弓が射られる。


 お互いに、後ろに下がる事で避ける。

 すると、またもや、先生からの怒鳴り声がとんでくる。


「おい! お前ら! 何やってんだ!」


「すいません。ガランをゴブリンと見間違えました」


「ふざけないで、真面目にやれ!」


 と、言われながら俺は左から、ガランは右からゴブドール2体とゴブアーチャー2体がいる所に回り込む。


 ゴブドールは、俺達2人を敵と認識したようで、左のゴブドールとゴブアーチャー1体ずつが俺に、右の2体は、ガランへと向かっていく。


 俺は、向かってくるゴブドールを袈裟斬りにし、そのままゴブアーチャーへと向かう。すると、ゴブアーチャーから弓が射られたので、俺は勢いを殺さず、木剣で振り払う。そのまま、ゴブアーチャーを斬り伏せる。

 少し遅れて、ガランもゴブアーチャーを斬り伏せるのが見える。


「おいおい、そんなに遅いんじゃ、可愛い妹のおねだりに素早く対応出来ないんじゃないか? お兄ちゃん」


「てめぇ、また言いやがったな」


 お互いに所定の位置で、木剣を構え、今にでも一戦始まるという空気の中、またしても邪魔が入る。


「お前ら、いい加減にしろ!」


「おいて!」


「ガッ!」


 ゴンッ! ゴンッ! と拳骨の音が2度、訓練場に響いた。



読んでいただきありがとうございます。

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