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2話

何でこんな事になったんだろうか。


「それではこれより、1年Dクラスのハオトくんとガランくんによる模擬戦を始めます。両者前へ」


 俺は今、いかれたシスコン……いや、妹コン野郎と学校内にある模擬戦場と呼ばれる場所に来ていた。

 因みに、決闘は禁止だったので、模擬戦になった。


 ここは、アニマロス獣王国で有名なコロシアムという闘技場を元に作られているらしく、真ん中に広々としたスペースがあり、それを囲むように客席が階段状に作られている。

 初めてきたが、相当な広さだ。本場の闘技場はもっと広いらしい。


 学生は模擬戦をする時はこの場所を使う。

 使う時には予約が必要だが、今回は予約が入ってなかったのですぐに使えた。


 鍛練場はこことは別にある。

 今日の朝の全校集会を行った場所だ。


 それより、結構人がいるな。

 こんな目立つ予定じゃなかったのに。

 数分前の自分を殴りたい。


 階段状の観客席を見ると、クラスが同じだと思われる人から、全く知らない人までちらほらと存在していた。


 クラスのやつは分かるけど、如何にもお嬢様ですって感じの人は誰なんだろう。

 俺の姉レーダーがビンビン反応してますよ。ということは、先輩に違いないな。どうにかお近づきになれないだろうか。


「ちょっと、ハオトくん聞いてるの?」


 模擬戦場をぐるりと見回して、レーダーに反応しているお姉様を見ていると、審判の先生と思われる人に注意されてしまったので、謝りながら、目の前の残念イケメン妹コン野郎に目線を戻す。


 はぁ、人の事言えないな。

 これじゃ、俺の方が短気って言われても何も言えない。


「あ、はい。すいません、聞いてませんでした」


「んもう、じゃあもう一度ルールを説明するわね。武器は模擬剣を使用すること。それと魔法の使用はあり。致命傷を与える攻撃は禁止。どちらかが気絶、降参するか、私が止めと言ったら試合終了よ。分かった?」


「はい、分かりました」


 なんか聞き覚えのある声だな。

 というか、最近聞いた声な気がする。


 そんな事を考え、ガランと呼ばれていた残念イケメン妹コン野郎を見ていた目を、チラッと審判の方に向ける。


「…………ってなんでマリさんがいるんだよ!」


「んもう、つれないわねぇ。マリ()()()()()んでしょ?」


 色々言いたい事はあるが、俺は寛大だから許してあげよう。

 今朝の全校集会の事とか、編入挨拶の事とか。

 ほら、全然根に持ってないでしょ?


「それで、どうしてマリさんが審判やってるんですか?」


「スルーなんてひどいわね〜。まぁいいわ。今朝言ったでしょ?困ったことがあったらお姉ちゃんがすぐ駆けつけるって」


 パチンッ


 うん、ウインクされても困る。


「そんなこと言われた覚えはないです。困った事があったら、相談しに来ていいとしか言われてないです。ちなみに、今俺は全く困ってません」


「ほんと可愛くないわねぇ。今朝よりも可愛くなくなってるわ」


 そりゃ全校集会であんな仕打ちされればな。

 とは口に出しません。

 なんせ、根に持っていないから。


「それに、目がギンギンよ? ……はっ! もしかして私に欲情!? ダ、ダメよ! 私は理事長。あなたは、いち生徒なんだから。で、でもハオトくんが本気で私を求めてるって言うなら――」


 とりあえず無視しよう。この人のこと考えると、余計疲れる。


 もう、この模擬戦に集中することにしよう。


「おい、そろそろ始めろ理事長。俺はそんなに暇じゃないんだ」


 目の前の、残念イケメン妹コン野――長いな。普通にガランでいいか。ガランが模擬戦を催促した。


 ガランは俺と似た装備だ。茶色の革製の防具に片手木剣を持っている。

 ちなみに俺の装備は、黒色の革製の防具に片手木剣だ。


 お互いに、殺傷性の高い武器は置いてきている。


 だから、ほとんど同じ装備だ。

 俺は腰裏に、もう一本短めの木剣を持っているが、これは学校に借りたものではなく、自分の物だ。

 木剣と言っても、持ち手は普通の剣と同じ作りで、刀身部分が木で出来た物だ。

 まぁこれは今回使わないだろう。


 そんなこと考えていると、審判であるマリさんが、1人でわちゃわちゃしていた。


「―――はっ! そうだったわね。模擬戦ね、模擬戦。やっと私にも婚期きたぁー! とか全然! これっぽっちも! 思ってないんだからね! それとこれが終わったらハオトくんは理事長室に1人で来るように。べ、別に変な意味はないんだからね!」


「え?」


「ゴホンッ! 気をとりなおして、2人とも準備はいい?」


 え、なんか勝手に決まったんですけど。

 急に1人ツンデレやり始めるし。

 怖すぎるこの人。もう手に負えないレベルだ。

 終わったらあのお姉様の所に行こうと思ってたのに。


 まぁ、終わった後のことはその時考えよう。

 今は集中だ。


「あぁ」


 とガラン。


「いつでもいいですよ」


 と俺。


「一応、もう一度確認するわ。魔法はありでいいのね? ガランくん」


「何度も言わせるな。さっさとしろ」


 ん? どういうことだ?


 意味が分からない問答について考えていると、マリさんの雰囲気が審判を務める真剣なものへと変わる。


「分かったわ。では、はじめ!」


 マリさんが手を振り下ろすと、同時に俺は魔法を唱えながら、地面を蹴った。


「風よ、包め。……はぁ!」


 風に身体が包まれると、さらにスピードが増す。

 すると、ガランも突っ込んできた。


 お互いに考える事は同じか……。


「ふんっ」


 上段から振り下ろされたガランの木剣と、下段から切り上げた俺の木剣が、ガンッ! と模擬戦場の静寂を打ち破る。


 対応されるとは思っていたが、完璧に合わせられた。

 まぁ、誤差の範囲だ。


 俺はガランの強さを知らない。それは相手も同じだ。

 出し惜しみはせず、最初から今の状態での全力でいったが、こうも簡単に合わせられると少しフラストレーションが溜まる。


「ちっ」


 俺は舌打ちをし、下段から鍔迫り合いに持っていき、木剣を弾いて後ろに下がる。


 力比べは、ほぼ互角だ。

 上段からのガランの方が有利だと思われるが、魔法で速さを強化した、勢い任せの一撃が、互角にまで持っていかれた。


 あのまま、純粋な力比べをしていたら負けていたな。


 すると、ガランはすぐに追撃してきた。

 袈裟斬りに木剣を振るってくるが、ギリギリでかわす。


「はっ!」

「うおっと」


 はやいな……。

 木剣だと頭では分かっているが、鋭い剣筋のせいで、斬られるんじゃないかと思い、額から冷や汗が流れる。


「次は、こっちの番だ!」


 俺も負けじと、袈裟斬りに木剣を振るうが、軽くいなされる。


 そこから何度も攻守を切り替えるが、こっちが押され気味だ。


 このままじゃ、らちが明かないと考え、後ろに飛んで距離をとる。

 そこにすかさずガランの追撃がせまる。


「突風!」


 俺は、練り上げていた魔力を風に乗せ、突風を起こす。


「くっ」


 ガランは後ろに突き飛ばされるが、上手く受け身をとった為、体勢は崩れていない。

 だが、はじめて顔を歪めた。


 2人とも、いつのまにか開始位置に戻っている。


「ちっ、詠唱変換か。厄介なもん使いやがって」


「こちとら森で、師匠に鍛えられてるんでね」


 と言ってもまずいな。

 あっちはまだ魔法すら使っていない。

 こっちが使えるのは後は殺傷能力が高いものや、使うのに時間がかかるものだ。


 詠唱変換はまだ簡単な風魔法しか使えない。

 燃費の悪い使い方もあるが、相手の手の内が分からないうちに、使うのは愚策だ。


 だが、このままだと……


「しっ!」


「はぁ!」


 考えてる時間はないか。

 再び、木剣での攻防が始まる。


 悔しいが、剣だけの技量ならガランに負けている。

 俺は、木剣を振るいながら魔法も使っている為、お互いに決定打を打ち込めない状況になっていた。


 そして、何度目かの鍔迫り合い。


「おいおい、そろそろ魔法使えや。なめてんのか? 舐めるのは、2次元の妹だけにしてくれ……よ!」


 そう言って俺は木剣を振り抜くと、ガランは後退する。


「くっ! ……お前も、魔法にばっか頼ってないで姉にでもすがってろ!」


 だが、すぐに斬りかかってくる。



 言い合いながらも、模擬戦はしばらく続いた。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


「ふー、ふー、ふー……」


 これじゃらちが明かないな。

 もう俺の体力も限界に近い。

 様子を見るに、ガランも同じくらいだろう。


 俺は、模擬戦を通して気になったことを、ガランに尋ねる。


「はぁ。お前もしかして、魔法使えないのか?」


「ふー。……だったらどーした」


 これには、驚かされた。

 魔法には生活魔法という戦闘では使えない魔法もある。

 だが、どうだろう。この男――ガランからは魔力が一切感じられない。最初は魔力を隠蔽しているのかと思った。なかなか高等技術だが、こいつの実力ならやっていてもおかしくない。


 魔力ゼロだと?


 魔力というのは、身体の中にあるエネルギーで、人それぞれ違った魔力を持っている。俺ならば風属性の魔力が体内にあるらしい。一応、身体の中だけでなく空気中にも存在するらしいがその辺はよく分からない。

 魔力の量も人それぞれで、多ければ立派な魔術師になれるだろう。


 その魔力は、戦ったりして興奮状態にあると少しだが、なんとなくそこにあるなというのが認識できるものだ。


 だが、ガランの身体の中には何も感じられない。

 おそらく生活魔法すら使えないのだろう。


 普通の村人ですら、生活魔法は使えるというのにだ。


 ごく稀に、魔力を持たない人間がいるというのは聞いたことがあるが、初めて見た。

 それもそうだ。先祖返りよりも少ないと言われているのだから。

 しかも、冒険者をやっているなんて思いもしない。


「剣技だけでDランク、しかもソロとは大したもんだな」


「何上から目線で、物申してんだ。悪魔崇拝者が」


 ぐっ、こいつほんとにムカつくな。

 いちいち突っ掛かって来やがって。


「ってことは、まだまだ本気じゃないってことだよな?妹バカ」


 俺も人の事言えないな。


「そこまで気付くか。まぁ、お前もここまでやるとは思わなかった」


 魔法なしでソロでDランクということはまだ隠し球だあるんだろう。

 ソロの時点で強いとは思っていたが、まさかこれ程とは、、。


「なに笑ってんだ、気持ちわりーな。邪姉(じゃし)教徒」


「じゃし教徒?」


「邪な姉と書いて邪姉だ。お前にはぴったりだろ?」


「ふっ。神に姉を当てはめるなんて粋な真似するじゃねーか」


 おそらく、邪神教徒をもじったのだろう。

 馬鹿にしてきていたのは分かったが、前向きな考えを返してやった。


 最初は、こんなに目立った模擬戦、面倒くさいと思っていたが、俺は途中から、楽しんでいた。

 それと同時に確かめたくなった。師匠との修行で強くなれたのかを。大事な人に、置いていかれない強さが身についたのかを。

 こいつなら、この先を出しても簡単には倒れないだろう。


 だから、敢えて挑発した。


「てか、そっちも笑ってんぞ。()()()()()


「お、お前に……」


 ぷるぷると震えながら拳を強く握っている目の前の男。次に、目を見開くとさっきまでの声量の倍はある声で叫んできた。


「お前に、お兄ちゃんと呼ばれる筋合いはねぇぇぇぇぇえ!!」


「まぁまぁ、そんな怒るなよ。()()()


 さらに挑発する。


「い、いいだろう。その挑発乗ってやる。後悔するなよ。」


 そう言うと、さっきまで額に青筋を浮かべ、ぷるぷると震えていた身体が、ピタッと止まり、落ち着いた表情になる。


 これは、やばいな。


 その空気を感じて、俺も本気を出す準備をする。

 腰裏の短木剣の柄に、手を掛け集中する。


 少しの間の静寂が2人を包み込む。




(かい)――」

「……か――」


「そこまでよ、2人とも」


 俺が、少し遅れて力を出そうとすると、いつのまにか、俺とガランの間に理事長が割って入っていた。


「ガランくん、私が何を言いたいのか、分かるわね?」


「ちっ」


 ガランは舌打ちをすると、後ろを向いてそのまま出口へと歩いてく。

 俺はその様子をポカーンと見ていたら、理事長がこっちに振り返った。


「ハオトくん、挑発しすぎよ」


「え、あ、はい。すいませんでした」


 いつものおちゃらけた雰囲気ではなく、真面目なトーンだった為、どもってしまった。


 それより、理事長がいつここに来たのかが、全く見えなかった。

 どんなスピードだよ。


「んもう。あれ以上は、模擬戦の域を超えてしまうわ。お互いにお熱だったしね」


「そうですね。ちょっと、熱くなりました」


 理事長の態度が戻った。

 コロコロ変わりすぎだろこの人。


 はぁ、でも反省はしないとな。つい戦いに夢中で周りを見ていなかった。

 最初よりもギャラリーが増えていたのだ。

 あのまま続けていたら、俺も困る事になっていた。


 久しぶりに本気を出せそうで調子に乗ってたな。反省反省っと。


「理事長、それで先程の件ですが」


 すると、理事長の後ろから、初めて見る教師がマリさんに声をかけてきた。


「はいはい、今行くわ。ハオトくんは明日の朝、理事長室に来るように。来なきゃ、めっ! だからね」


「は、はぁ」


 理事長はその教師と一緒に出口へと消えていった。


 俺は大勢のギャラリーに見られながら、ポツンと1人取り残された。


 模擬戦場に残された俺は、観客の奴ら、主にクラスメイトから質問責めにあった。


「ねぇ君の魔法すごいね。うちのパーティー来ない?」

「お前の剣術は俺のパーティーでこそいきる! 俺たちとパーティーを組もう」

「俺っちは巨乳より貧乳派でよんすが、あんたはどっちでよんす?」


「は、はい? え、ええと……ちょ、ちょっと痛い! 押すなー! どーなってんだこ――どわぁ!」


 狼狽えていると、人の波が押し寄せて来て、揉みくちゃにされる。てか、最後のは絶対関係ないだろ。


 目を回していると、視界に模擬戦前にみたお姉様が、出口から出て行くのがちらっと見える。


 は! あれは! 姉レーダーがビンビンなお姉様!


「ちょ、ちょっとどいてくれ! そこのお姉様、待って! お話が――グエッ! お、お前ら道を、ってうおおっ」


 ダメだ全然聞こえてない。

 周りの音で声がかき消される。


「君、朝の転入生だよね? よく見れば童顔で可愛いね。この後時間ある?」

「俺と一緒に青春しようぜ! 血と汗と涙を共に流そうではないか!」

「やっぱり、Dは欲しいでやんすよね。あの膨らみに顔を埋めて死ねるなら本望でやんす!」


 なんかパーティー勧誘から、男女の色恋沙汰を匂わせるような奴まで、色々ありがたい誘いがあるが、今はどいてくれ! お姉様が帰っちゃうだろ! あと最後のやつは勝手に埋もれて死んでください。でも、嫌いじゃないです。


 そうこうしている間に、お姉様の姿が見えなくなってしまったので、俺も焦って怒鳴ってしまった。


「お前ら! 邪魔だって言ってんだろ! 俺は大切な用事があるんだ!」


 ダメだ、怒鳴っても全然聞こえてない。

 もうこうなったら実力行使だ。


 模擬戦で疲れていた為、あまり力は出ないが、人混みを無理矢理こじあけて、お姉様が出て行った方へと向かう。


「や、やっと出られた。お姉様はと。……はぁ。ま、いるわけないよな。はぁー」


 お姉様の姿はもう見えず、長い溜息をついた。



見切り発車なので、更新は不定期です。

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