未来の傑作
自分は未来にやってきた。街頭スクリーンに映し出される日付と年代でそれと知れた。
自動車が空を飛ぶほどの未来ではないが、数年後の未来にやってきたことは確かだ。
だが、帰り方の分からないボクは、ひとまず書店に向かった。
書店に陳列されている中でもひときわ目立つ店頭に、その小説は並べられていた。
立ち読みしたボクは感動に胸が震えた。累計部数1000万部を超す超大作とは、嘘偽りのない宣伝文句であった。
「そんなに、その小説はおもしろいかい?」
ボクは声をかけてきた人に、涙交じりに頷いた。
そして訥々と語った。
ボクも、こんなに人の心震わせる小説を書きたいと。
「それなら、君にひとつだけアドバイスしよう」
声をかけてきた人の姿が涙で歪んで見えた──ような気がした。
傑作小説の作者近影に酷似したその人の姿は──
「『自分で書き続けなさい』そうすれば、きっと────…………」
その後の言葉は聞き取れなかった。
涙をぬぐうとボクは、ボクがいた時代に戻されていた。
今のは夢か幻だったのだろうかと思案し、思考する暇も惜しんだ。
ボクは急いで家路につく。そして、原稿用紙を前にあーでもないこーでもないと物語を綴り続ける。
タイトル『未来の傑作』