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 中年冒険者の謝辞を聞いた後に、三人はギルドを後にする。


「でも、鬱陶しかったなの」


「本当なの。チェーさん、ありがとうなの」


 ギルドの中、外、周囲には非常にレベルが低く直接的に脅威とはなり得ない小さな魔物が徘徊していた。


 湯原と水野のダンジョンからも情報収集の一環として同じ事を行っているが、やはり他のダンジョン関連の魔物であれば非常に目障りに感じる。


 他の魔物達も情報収集を行っている事は明白なので、チェーの分裂体が更に分裂してあの場の誰一人として気が付かれないようにしながら、手あたり次第乱獲していたのだ。


 ヒカリが話していた情報はどの道漏れるのであの場で聞かれても良かったのだが、気分的に許し難く排除する事にしていた。


 レベル17のヒカリを抱えた状態で疾走して数十分でダンジョンに到着するイーシャとプリマ一行は、ヒカリを一階層に残した後はそのまま最下層の城に転移する。


 大広間に来ると、そこには主二人とチェーの本体、そしてハライチとミズイチが待っていた。


「お疲れ様。イーシャ、プリマ」


「ヒカリ君も来ればよかったのに、遠慮したのですかね?」


 相変わらず優しい雰囲気を醸し出している主二人を間にして、猫獣人二人の短い尻尾が自然と揺れてしまう。


「イーシャ様、プリマ様。任務お疲れ様でした。チェー様を通してお問い合わせされた回復薬の件、対象のお方の病状、人数、場所が不明ですので、安易に許可は出せませんでした。ご容赦ください」


「ハライチの指摘の通りですが、特にビー様が作成された原液を持ち込んでしまいますと欠損すら瞬時に治せる代物ですので、その回復薬の情報を得てしまった自らの実力を把握できない冒険者達が、無謀にも挑戦して命を落とす可能性が捨てきれないのです。そこは、私達の主様の意向ではないのです。ご理解ください」


 病状が分からなければ最上級の回復薬を渡せば確実なのだが、何かのはずみでその情報が洩れれば、その薬品を求めて相当背伸びをした冒険者達が無謀にもダンジョンに挑んで死亡する未来が見える。


 自業自得と言えばそれまでだが、そのような事態にはなって欲しくないと言う湯原と水野の甘いとも言える意図を酌んだのだ。


「ですので、あの冒険者の方がこちらに来られた際にはヒカリ様の方で別室にご案内し、事情を詳しくお伺いする手はずとしております」


「「ありがとうなの!!」」


 絶対に見捨てる事はないと信じていたが、明確に言葉にされて嬉しそうにするイーシャとプリマ。


「でも、前にビーの薬を薄めて持って行って貰ったでしょ?それさえも大騒ぎだったんだよね?村では単純に奪おうとしただけの様だけど、王都では違うよね?この世界の回復薬の事情ってどうなっているのかな?」


(セーギ)様。人族が作る回復薬は今の所最高品質のもので重傷を緩和する……連続投与で傷痕は残りますが、命の危険はなくなると言ったレベルですので、完治する事は有り得ません。もちろん異常状態に関しましては解除だけではなく、緩和する事すら夢の世界です」


セーギ(湯原)君。前にイーシャちゃんとプリマちゃんに持って行って貰った回復薬、ちょっと性能が良すぎたみたいですね」


 人族が持ち得ている回復薬の性能は想定よりも遥かに低い事が分かり、イーシャとプリマが宣伝のために持って行った回復薬が相当な宣伝効果を生み出した為に、今の大盛況につながったと言う事実に辿り着く事が出来た。


 と同時に、当時のイーシャとプリマが無事に戻ってこられた事に安堵したマスターの二人だ。


 一方のギルドでは、娘の命を助けられる薬草の存在に喜んで気合を入れる中年冒険者とその仲間、更には安全が担保されたと喜ぶ冒険者、家族と共に移住を検討し始める者達と様々だ。


 特に多いのが、湯原と水野のダンジョンに侵入して報酬を得て一旗揚げようとしている、他の町に拠点を持っている冒険者達の移住に関する話だ。


「俺は決めたぜ。早めに家族を呼び寄せて移住する。一回ダンジョンに入ったが、住みやすい事は間違いないし、畑すらあったからな」


 一階層では、居住エリアと隣接するように小川が流れる森林エリア、果樹園エリアや畑エリアと多彩なエリア分けがされており、正に衣食住に困らない配置となっているのを多くの冒険者がその目で確認している。


 そこに、ダンジョン関連の者からの詳細な説明。


 罠等のリスクは多少なりともあるものの、そのリスクを踏まえても移住する方が良いと判断している者が多数いる。


 一部の者達は未だ昼にもなっていないので、善は急げと言わんばかりに家族を呼び寄せるために既にこの村から出て拠点の町に戻っている程の喧騒だ。


 中年冒険者とその仲間達は先ずはダンジョンに入る事にしたらしく、即座にこの村を出て行った。


 馬車を持っていたので全員で一気に移動し、日も落ちた頃に漸く到着すると、休む間もなくそのままダンジョンに侵入する。


 残念ながら馬車は外に置いておかざるを得なかったのだが、周囲には同じような状況なのか多数の馬車が主の帰りを待っている状態で、とある商人が馬車番の商売を始めていたりする。


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