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「ふぁ~、意外とよく眠れたな。俺が思うに、やはりレベルが高いから余裕があるのかもしれないな」
軽く伸びをして朝食を食べに行くと、いつも通りに豪華な食事が並んでいる。
正確には思い出せないが、日本にいた頃ではこんな食事は出てこなかった気がする。
俺が席に座れば即温かいスープが出て来るし、至れり尽くせり。
俺が思うに、やはり国家に所属すると言う選択をしたのは正しかった。
「岩本様……お食事中失礼いたします」
あ?俺が食事をしている最中に声をかけるなんて……って、どこかで見た事のある顔だ。
「私、宰相のミッテルです」
何やら立派な服を着ているからそこそこの地位だと思ったが、宰相か。
「あぁ、思い出しましたよ。で、食事中にどう言ったご用件ですか?ミッテル宰相」
道理でこの顔を見た事があった様な気がしたはずだ。俺が思うに、宰相と言う立場であれば少しは遜っておくほうが良い気がするから、食事中にいきなり話しかけられてムッとしたが、ここは抑えておこう。
「実は、岩本様にお願いがございます。この度の縁結びの聖地と呼ばれている場所のダンジョン侵入に際して、お力になれると思うこの魔道具を差し上げます。ですので、何卒娘は見逃していただけませんでしょうか?」
宰相の言っている事はよくわからないが、その手には薄青い色をした宝石のような物が組み込まれているペンダントが握られている。
「宰相殿、これは?それに、娘とは?」
「これは、以前岩本様が納品されたダンジョンコアから作られた逸品ですが、どうやら召喚冒険者にしか作用しない様なのです。魔物召喚が出来るかと期待しましたがそのような効果はなく、かろうじて鑑定できた部分では、召喚冒険者が装着する事でダンジョン進入時のデメリットを無くすとあったそうです。これ以上は分かりませんが、必ず今回の作戦のお役に立てるはずです」
「俺が思うに、宰相殿は良い選択をされたようですね」
取り敢えずペンダントを貰ってみると……何となくだが、その効果が分かる。
召喚冒険者であるこの俺がダンジョンに侵入すればダンジョンに対して膨大な力を与える事になるので、その時間を極限まで短くするように侵攻しようとしていたのだが、このアイテムがあればその心配はなさそうだ。
日頃の行いが良かったので、こう言った益が自然と舞い込むのだろう。
その効果は……このアイテムを装備している召喚冒険者は、ダンジョン進入時に糧にはならないと言うものだ。
ありえないが、俺が死亡して吸収される場合はその限りではないのだろうが、このメリットは非常に大きい。
これさえあれば、ゆっくりと休みつつ侵攻しても全く問題ないからな。
「成程。素晴らしいアイテムですが、俺が思うに、確かに召喚冒険者に対してしかメリットが存在しませんね。ではありがたく頂戴しますよ。フフ、早速向かいましょうかね。ですが依頼完了日程は予定よりも少し延びると陛下にお伝えください。これさえあれば、急ぎダンジョンを侵攻する必要はなくなりましたから」
献上されたアイテムを撫でると、とても良い肌触りで落ち着ける。
こうなったら直ぐにでも向かってダンジョンをゆっくりと攻略しつつ、途中の冒険者達で俺好みの者を仲間にさせてやろうか……
「お、お待ちください。その魔道具を気に入って頂けたのは良いのですが、何卒娘を見逃していただきたく!」
何を言っているのかよく分からないと思い宰相を見ると、その陰からこちらも何となく見た事のあるような女が出てきた。
「私、宰相ミッテルの娘エレミアでございます。昨晩は少々お戯れがありましたが、私には婚約者がおりますので、何卒ご容赦頂きたくお願い致します」
うん?そうか。昨晩部屋に連れ込んだが、鬱陶しい監視がいて興が削がれたために見逃してやった女だ。
まぁ、良いか。
「わかりましたよ、エレミア嬢。俺が思うに、これだけのアイテムを献上頂けたのでご挨拶だけに留めておきますよ」
少し強引に抱き寄せて、その唇だけを奪っておく。
「では、これで失礼しますよ。攻略してダンジョンを配下にした際には、目をかけてあげましょう」
エレミア嬢は座り込んで泣いているようだしミッテル宰相も唖然としているが、俺が思うに、これから俺が手に入れる力を見ればその態度も一変する事は間違いない。
非常に良い気分で、縁結びの聖地と呼ばれているダンジョン跡地に向かう。
「縁結びの聖地……俺が思うに、正に俺に相応しいダンジョンだ。ハハハハ、眷属も間違いなく<淫魔族>だろうし、楽しみだ。それに三階層までは危険が無いダンジョン。魔物すら召喚できないくせに、何も考えていないマスターだな。精々俺の為に一生働いてもらおうか。ハハハハ」
王国所属となってから立場を得て、生活も一変した。
そこをきっかけに、良い事ばかりが起こっている気がする。
俺が思うに、今回のダンジョンを支配する作戦は成り上がりの切っ掛け、序章に過ぎない。
この成果を手始めに、もっと素晴らしく輝かしい未来が待っているに違いない。