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こうしてほぼ全ての召喚者達は欲望のままに勝手に動いており、神の希望するような安定には程遠い状態になっているこの世界。
四宮と辰巳が消えたと言う事を知らされた湯原と水野。
もちろん比喩表現である事位は報告してきたハライチの無駄ににこやかな表情と、その原因が信子であると言われているので、聞かずともわかる。
「やっぱり、あれだけの奴でも同郷がいなくなったと聞くと、少しだけ思う所があるな~」
「本当、そうですよねセーギ君」
少し落ち込んだような二人の主を見て、<淫魔族>の二人はゆっくりと話題を変える。
「主様。やはり召喚冒険者の対策は行う必要があると考えます」
「私も同意いたします。ですので、中断していた各階層の構想検討を再開されては如何でしょうか?」
少しでも楽しく思える事を無理のない流れで実行してもらおうと誘導した。
その結果、どれ程の時間を要したのだろうか……
「で、できた!!」
「私も、できました……つ、疲れましたね」
漸くダンジョン拡張と分割、階層追加を完了した二つのダンジョン……だが、既にダンジョンのコアルームは一つになっている。
これはダンジョンレベル95で得られる能力のダンジョン合成によるもので、二つ以上のダンジョンを合成できる優れもの……だが、相思相愛でなければ意味の無い能力だ。
既にコアは一つに合成されており、逆に言うと、このコアを破壊されれば二人共死亡する未来が待っているのだが、別のダンジョン故の制約、例えば隣のダンジョンでは眷属が自ら転移できない等の制約は一切なくなっている。
階層についてもハライチとミズイチが二人のダンジョンを同じ様な階層のレイアウトに出来る様に設定していたので、全ての階層も結合する状態で合成しており、ある意味二つのダンジョンの壁が無くなった状態になっているのだが、入り口だけは以前の二つの洞窟で変わらない。
そこを潜れば結局同じ一階層に侵入する事になるのだが、それぞれの階層は元から広大であったところを合成しているので、通常のダンジョンではあり得ない程の広さになっている。
拡張や分割、階層追加を行う際には侵入者を半ば強制的に避難させる時が最も気を使って疲れる作業であり、その精神的疲労から湯原と水野はノックダウン寸前だったが、実はこの後に対侵入者対策の魔物配置や宝の配置作業が残っているのだが……疲れ切った二人を見て、ハライチとミズイチは何も言えなくなってしまっていた。
逆に同郷の者が消えた事による心のモヤモヤもなくなったと言える。
こうして出来上がったのは、
<湯原と水野>のダンジョン レベル99 内包魔力2364321 <保有レベル102>
と言う、破格のダンジョンになっている。
全44階層……45階層にしなかったのは、そこで内包魔力が倍必要になる区切りがあったためだ。
各階層の基本設定だけは終了しているが、主だったところは……
一階層)
二つの隣接した少々大きな洞窟の開けた空間があり、既にそこからダンジョンの領域になっている。
その先に設置されている入り口をくぐると、どちらの入り口からでも結局同じ場所に行ける仕様になっており、大草原、森林、川があって泳げるし魚もいる普通の人が楽しめる階層。昼夜が存在して、昼は少々暑く感じる程度で、夜は適温。
まるで一つの大きな町で入った直後に一際大きな建屋が準備されており、その中に転移魔法陣B(二階層へ転移)が準備されている上、湯原と水野専用として作られている城もある。
ダンジョンマスター湯原と水野二人の構想では、何と対極の存在である冒険者ギルドをこの一階層に設置しようと考えていたのだ。
当然侵入者に対しての情報を得るべく鑑定特化の魔物であるレベル99に引き上げたアイズ一体と、住民等のトラブル対策として召喚魔物であり眷属ではない<鎖族>レベル30を25体配置している。
2階層)
一階層の最奥にある階段か、一階層入り口の建屋中にある転移魔法陣Bから侵入する事が出来る階層であり、ここにもレベル99のアイズが一体と、召喚魔物の<鎖族>レベル30を25体配置している。
逆送である転移魔法陣A(一階層へ転移)があり、緩やかな山岳地帯だが、一階層同様にやたらと大きな階層だ。
小川や森がある所も変わらないが移動には相当な体力が要求され、一階層と異なって時折雨が降る。
残念ながらこの階層には町はなく、普通の冒険者では一日で移動できる広さではないために野営が必須。
3階層)
二階層を突破できた人を癒す階層であり、大きな街並みと少し進めばゆるい傾斜に芝が生い茂り、ゆっくりと休める。
ここにもレベル99のアイズ一体と、レベル40の<鎖族>20体が存在している。
この階層には転移魔法陣はなく、ここに辿り着いた者達は下に進むか、上に戻るかを判断する必要があり、二階層の移動でへばるような者は先に進めないと判断させるための優しい設計になっているが、滞在期間は連続で2週間までに制限する予定だ。
直接一階層に戻る事は出来ずに、再び二階層の広大な土地を野営しつつ戻るほかないが、唯一の救いは、悪意のない侵入者に害をなす魔物は一体も存在しない事だ。