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四宮と辰巳二人を互いに転移できる転移魔法陣Cしか残っていないダンジョンのコアルームに戻してきたデルが戻って来る短い時間の中で、残りのメンバーで星出と岡島の説明を聞いたのだが、予想通りに恐怖によってダンジョンを枯れているように見せかけていたと言う事だった。
完全に憔悴しきっており、それを唯一アリが必死で慰めるかのような行動をとっていた。
「主様。説明する必要もないかと思いますが、アリ……人型ではない魔物からのみ信頼を得ているようですので、他の人型の者達は間違いなく私達と同じ……」
「大丈夫。わかっているから、それ以上は言わなくて良いよ、ハライチ!」
何やら悲惨な説明を始めそうだったので、敢えて強制的に話を終わらせる湯原。
そもそも言われなくとも、その程度は誰しもが理解できている。
「…ありがとうございます、主様」
ハライチとミズイチが微笑みながら美しい所作で湯原と水野に一礼した後、真剣な表情に一変して説明を始める。
「仮にこの二人を何もなしにダンジョンに戻しますと、デル様が戻した二人を支配していたダンジョンマスターが様子を見に来る際に見つかる可能性が高いと思います。そうなれば、同じように搾取される契約か、強制的に弦間のダンジョンとの戦闘の矢面に立たされるか……何れにしましても良い結果にはならないでしょう」
「ハライチの言う通りです。この二人も主様とセーギ様に対して殺意があった事は明白。立ち位置が変動した今はその殺意は無くなっておりますが、再び力を得た際にはどうなるか分かりません。私と致しましては、厳しい処遇をされた方が良いと提言させて頂きます」
<淫魔族>の二人は、既に見逃している二人の処遇は最早口を出さないが、この二人については厳しい罰を行うように提言してくる。
その言葉を同じく耳にしている星出と岡島だが、既に全てを諦めているので……何かを懇願する事もなく、その言葉を黙って受け入れていた。
「セーギ君。私としては、アリさんの事もありますので……」
全てを言わない水野だが、その優しい性格からか助けてやりたいと言う意思がある事は明らかであり、その言葉を聞いた<淫魔族>の二人も自らの言葉を即座に撤回し、どのようにすればよいのかを考え始める。
「では、二階層で立場を捨てて生活して頂くのは如何でしょうか?デル様とレイン様のお力が有れば可能かと存じますが。主を失ったコアは、主が滅された時と同じ状態になりますので、程なく破壊されてダンジョンも枯れますが、元より枯れているように偽装していたダンジョンですので何も変わりはないかと……」
「私もハライチの案に賛同いたします。デル様、レイン様お二方のお力であれば、ダンジョンマスターと言う一つの契約も書き換える事が可能でございます。唯一の危険は、未だにダンジョンマスターと思われている冒険者側からの攻撃ですが、お二人の素顔を知っている冒険者は同時に召喚された者のみ。そう危険はないかと思います」
「わかった。一応アイズもいるから大丈夫かな。で、眷属達はどうするの?」
「ダンジョンマスターと言う契約を強制的に破棄しますので、当然眷属としての契約も終了しますが……その存在は宙に浮いた存在になります。ですので、私達同様にデル様かレイン様によって新たに契約をされるのが宜しいかと思います」
以前は眷属の大半を使って契約を書き換えたのだが、そこまで必要ないと言う事らしい。
流石のレベル99の<眷属>二体の力。
神から与えられたダンジョンマスターと言う地位すら書き換えられると言うのだ。
「わ、私達を助けてくれるの?」
「ごめんなさい。今までごめんなさい!」
すっかり弱り切っている星出と岡島を見て罰を与えるような気は無くなっている湯原は、水野の言葉からハライチとミズイチが考えてくれた通りに事を進める事にした。
「あぁ。聞いての通りだけど、これ以上の優遇はしないし、助力もしない。もちろん反逆は絶対に許さない。アリと水野に感謝してくれよ」
「「あ、ありがとうございます」」
こうして枯れたダンジョンに偽装していた二つのダンジョンは本当に枯れ、星出と岡島の二人はダンジョンマスターと言う地位を失った状態で、今の二階層の町に住む事にした。
全ての眷属、星出の眷属は湯原と契約を結び、岡島の眷属は水野と契約を結んで配下となっているので、星出と岡島は本当に何もないただの人としてダンジョン二階層の町で暮らし始める。
「春香、貴方の眷属のおかげで助かったわ」
「……そうね。結局私達、普通に接する事が出来たのは人型じゃない眷属だけ。偶然拾った命だけど、二度目はないから同じ過ちをしないようにしましょう有希!!」
長い間ダンジョンコアルームと言う小さい閉塞空間に閉じこもっていたことから、同じダンジョン内部とは言え昼夜の設定があり、暖かく環境も良いこの町で大人しく生活する事にしている二人。
湯原や水野からは、特にダンジョンの外に出るのも自己責任になるが自由であると言われているのだが、何の戦力もないまま野に放たれるのは抵抗があり、かと言って王都や近隣の村、町に到着できたとしても、その後どう生活するのかイメージすらできないので、二人の庇護下にいる事を選択していた。
そもそも普通の人に、あの広大な一階層を何の準備も無しで歩けと言うのも無理がある。
逆に今いる二階層では、何故か畑や小川、果樹園まであるので、その世話をしつつもゆっくりと生活して心の余裕を取り戻していった。
環境が人を変えるのか、環境が人を育てるのかは不明だが、すっかり穏やかになった二人は人が変わったかのようになっており、これであれば冒険者達が多数侵入してきている対処を行うための従業員としての立ち位置をお願い出来ると判断していた湯原と水野。
もちろんブレーンである<淫魔族>の二人の進言によるもので、ある程度身の安全を確保させるために、元眷属を護衛に付けつつも働いてもらう事にしていた。