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何かを話そうとした時には辰巳は自らのダンジョンのコアルームに戻されており、既に淀嶋と水元も自分のダンジョンに戻っていた。
四宮と辰巳は慌てだす。
今まで真面にレベルアップに勤しんだのはほんの一瞬しかないので、どうすれば良いのか急には出てこない。
<保有レベル>を10以上と言う事は、少なくともダンジョンレベルを4上昇させなければならない事だけは分かっている二人。
最も手っ取り早いのは対極の存在である冒険者を始末して吸収する事だが、最早眷属は一体もいないので、預かっている魔物であるレベル30のウルビアとレベル30のマンティスを使う他ない。
四日と言う短い期間で行動するには、誰も侵入しなくなってしまったダンジョンに籠ったままでは達成できないので、魔物を伴って出撃する他ない。
すかさず転移魔法陣Cを使って辰巳は四宮のコアルームに再び現れる。
「おい、どうする?相当ヤバイぞ!」
「だ、大丈夫だ。なんと言ってもここは街道からそう遠くは離れていない。街道で襲い掛かれば……絶対に大丈夫だ」
こんな事を呟きながらも、ダンジョンの外に魔物を伴って出て来た二人。
一般の人族から見れば、これだけの魔物を従えている存在はダンジョンマスター以外にあり得ないので、魔物さえ始末出来れば良い餌に見える。
今回の魔物は、自らが召喚した物ではなく格上の主から与えられている魔物であり、レベルは30。
冷静に行動すれば、レベル20で相当強いと言われている人族など脅威にはなり得ないが、一度死の恐怖を味わっている二人は油断しない。
「イーシャ、あれって……」
「あそこから出てきたと言う事は、ハライチさんとミズイチさんの前の主なの」
レベル40の力を使って既にこの場に到着しているイーシャとプリマは、本能から気配を完全に消しながら二人の様子を見ている。
湯原達が放った調査隊が感じ取った異常はこれではなく、地下型のダンジョンが枯れていると言う情報を掴まされており、実際に枯れているように見えるのだが、実際は枯れていないと言う事だったのだ。
以前ビーによって調査された時には、このままではそう長くは保たないと判断されていたので、枯れているのは確実だと思っていた。
しかしその調査に至る前に、それ以上の情報を得てしまっていたイーシャとプリマだ。
二人のダンジョンマスターが引き連れている魔物の詳細は知らないが、個別に対応すれば勝てそうだと言う感触は持っているイーシャとプリマ。
しかし、二種類、合計二十体程度の魔物を真面に相手にしては勝ち目がない事もわかっている。
「これは、使い時なの?」
徐に淵が虹色でスクロール自体は赤いレベル90と言う、とんでもない代物を出すイーシャ。
「う~ん、もう少し待つなの。あの二人はセーギ様とカーリ様の同郷なの。勝手に始末して良いかは分からないなの」
これはプリマの好判断であり、仮にこの時点でスクロールの魔法をぶっ放していれば、不思議な空間になっているダンジョンと言え、一階層しかない地下型のダンジョンはマスター含めて消滅し、地上型のダンジョンも何も補強がされていないので、恐らく最深部にあるコアにも相当なダメージを与えていた事だろう。
辛うじてここまでは見逃せるかもしれないが、その攻撃が向けられた方向……地平線が見えるまで全て焦土になっていた可能性が高い。
過保護すぎるが故に、有りえないレベル90の各種属性魔法のスクロールをイーシャとプリマに渡しているが、その威力を誰も検証した事が無いのが実情だ。
当然この情報は逐一スラエからスラエの分裂体、そしてデルやレインを通じで全員に展開されている。
「セーギ君、あの二人……どうしましょうか?」
この時点では、地下型ダンジョンの二人が生存している事を知らない湯原達。
「あいつ等……相当人を殺めていた事だけは間違いないからね。今のところは静観だけど、引き連れている魔物、レベル30だっけ?」
「はい、主様」
魔物については、僅かな情報からハライチによってレベルや種別が明らかにされている。
「そんな魔物を大量に引き連れている……何もしないわけはないよね。もし、人に対して…と言っても奇麗事は言っていられないから、召喚冒険者、いや、かろうじて冒険者も含める方が良いのかな?それ以外の普通の人に襲い掛かった時点で排除だろうね」
召喚冒険者であればダンジョンマスターの天敵、冒険者もそれに含まれる。
天敵に対して先制攻撃をするのは自らの身を守る事になるので、この世界の常識に則って、そこは見逃す事にした湯原。
しかし、何も関係の無い一般人であれば話は別であり、そちらに鉾を向けた際には容赦のない制裁を科す事を決める。
「でも、イーシャちゃんとプリマちゃんでは……危ないですよね?」
「うん。俺もそう思うよカーリ。出来るだけあの二人の頑張りを認める方向だけど、危ない時にはスラエ、頼めるかい?」
分裂体がプルプル震え、デルの通訳によれば全く問題ないとの事で、継続して状況を見守る事にした。