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「久しぶりの外なの。秘境と呼ばれているだけあって、誰も来なかったなの!」


「お日様が眩しいなの!」


 呑気に歩いている二人だが、流石はレベル18。


 ダンジョン跡地に来る時には周囲の魔物を避ける様に移動していたのだが、もうそのような事をする必要もなく、荒れた街道をひたすら村に向かって進んでいた。


 久しぶりの外の世界に、周囲を何となく見回しながら移動していたのだが、少しすると興味が無くなったのか、イーシャが何かを思い出したように妹のプリマにこう告げる。


ご主人(湯原)様やカーリ(水野)様に心配かけるとダメなの。少し急ぐなの!」


「そ、そうなの。急ぐなの!!」


 言われたプリマも同意し、二人は荒れている道を気にする素振りもなく、とてつもない勢いで村に向かう。


 村に近づくほどに街道の荒れ具合も収まって来るのだが、二人にとっては誤差の範囲でしかなく、本来3日から4日は必要とされる距離を2時間程度で移動してしまった。


 そのまま村に入り、ギルドの出張所の様な場所に到着するイーシャとプリマだが、やはり幼い猫獣人が二人でテクテク歩いていれば、都会でもそうだが、この小さな村であれば更に目立つ。


「おいおい、お前ら何の用で……って、チッ。売約済みかよ!期待させやがって!!」


 早速ガラと頭の悪そうな冒険者が二人に近づいて、恐らく強制的に拉致して奴隷商にでも販売しようとしたのだろうが、右手の黒い模様を見て既に契約済みの奴隷であると認識し捨て台詞を吐いて去って行くのを見て、奴隷契約が正しかったと二人は確信する。


「「やっぱり、正解なの!」」


 契約済みの奴隷であれば、術者のレベルが相当かけ離れていなければ破棄や上書きが出来ないので、契約済みの奴隷を拉致する様な無駄な事はしない。


 その主からの報復がある可能性もあるのだが、それはメリットとデメリットを考えた結果であり、イーシャとプリマの主が不明、そしてその二人が有りえない程のメリットを提示したとなれば話は変わってくる。


 ビーが生成した回復薬の様に、たとえ薄めていたとしても人族では到底作る事の出来ない効能をもたらす薬品であれば猶更だ。


 すっかり湯原と水野達の暖かい心に触れて生活し、その辺りの危機意識が完全に失われているイーシャとプリマ。


 そして、人族の思想については知識がなく、その際の対処方法についても検討すらできなかった<淫魔族>の二人。


 その結果、イーシャとプリマは種族から相当目立った状態のままギルドの受付に向かい、持ってきたビーの回復薬の劣化版四本全てを台に乗せる。


「あの、私達縁結びの聖地のダンジョン跡地に行っていたなの。そこで、これを拾ったなの」


「そうなの。本当は五本見つけていたけど、喉が渇いていたから二人で分けて飲んだなの。何故か疲れも取れたし、体調も良くなったなの!」


 本当は一切口にしていないが、効能を伝える事で回復薬と認識してもらう予定だ。


「……本当ですか?少々お待ちください」


 受付は、奴隷の模様をチラッと確認すると離席して、直ぐに一人の男と共に戻って来た。


「おいおい、薄汚ねー連中が持ってきたモンを鑑定する必要なんかねーだろ?」


 新たに現れた男はイーシャとプリマを見て機嫌が悪そうに、そして聞こえる様に暴言を吐くので、ここで漸くイーシャとプリマは普通の人は自分達をモノ以下の存在としか見ていなかった事を思い出し、萎縮し始める。


 その様子を見た男は支配欲が刺激されたのか、更に暴言を吐くのだが……


 左手に巻き付いていたチェーが、誰にも分らないようにイーシャとプリマの“恐怖心”を捕まえて体内から引きずり出し、消滅させた。


「「あっ、チェーさん!ありがとうございますなの!!」」


 突然恐怖心が無くなったのはチェーの能力によるものだと分かっている二人は、小声でチェーにお礼を言っているので、男の暴言は何一つ耳に入っていなかった。


「……だ、わかったか。テメーらの持ち込んだモンを都度鑑定する程、暇じゃねーんだよ!」


「ですが、あのダンジョン跡地で見つけたと言っているのですよ?少しだけお願いできませんか?」


 どうやら男は鑑定の能力を持っているようで、イーシャとプリマが持ち込んだ物を鑑定するつもりはなさそうなのだが、受付が一言こう言うと、分かり易く表情を一変させる。


「……仕方がねーな。これは貸しだぜ?今度夕食でも……」


 そう言いながらも鑑定だけは実施したようで、途中で言葉が止まり四本の瓶の様な物に入れられている回復薬とイーシャとプリマを交互に見る。


「おい、これはあの縁結びのダンジョン跡地で見つけた……で間違いねーか?」


「「はいなの!!」」


「そうか。残念ながらこれはただの水だが、もう少しだけ詳しく調べるから貰っておくぞ?」


 誰がどう見てもこの男の態度からは普通の水ではないと分かるのだが、受付も、周囲の冒険者も何も言わずにニヤニヤしつつ、明らかに回復薬である四本を持ち込んだイーシャとプリマから更なる情報を聞き出そうと思っている。


「えっと、水なら私達が飲むので、返してほしいなの」


 幾ら相当薄めている物であると言っても、せっかく仲間のビーが作ってくれた回復薬を水と断言されては、素直に渡す気になれないイーシャとプリマだ。


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