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下品な事を言ってはしゃいでいる四宮と辰巳の恋人関係にある星出と岡島は、じろりと二人をにらんでいるが、二人もダンジョンマスター側である事が確定しており、実際はその男性版であるインキュバスを呼ぼうと決心していたりする。
一方の冒険者側の吉川達も露骨に表情には出さないが、羨ましそうにしているのは確実だ。
「その眷属だが、分かり易く言うと日本で言う所の三傑と四天王、四人か三人かを選べる。それも現場で選択すると良い。眷属は主であるダンジョンマスターに絶対服従なので安心すると良い。その眷属を使ってその身を守れ。ダンジョンの中で“眷属召喚”と言えば良い」
この話を聞いて狂喜乱舞の四宮達ダンジョンマスター達と羨ましがっている吉川達冒険者組、そして、やはりこの神々は全てを話していないと冷静に判断している湯原。
単純に考えれば、戦力が高くなる四天王……つまり眷属は四人であるべきだが、態々三傑である三人の選択肢を示している。
その部分の説明が無いので、説明していない部分がかなりあると容易に判断できそうなものだが、浮かれている連中には分からないらしい。
「やっべ、俺四人も相手に出来ねーよ」
最早、身を守ってくれる眷属としての存在である事は完全に頭から抜けているのは、誰の目から見ても明らかだ。
冒険者側は眷属、つまり自らの都合の良い手足が呼べない事にかなり落胆していたのだが、簡単な魔法を発動させる事が出来た事、自分自身の動きが超人的になっている事から、一瞬で機嫌が良くなっている。
すっかり湯原と水野はいないものとして、この場の召喚者達は自分の立場を受け入れていた。
「お!お前らが冒険者側かよ。俺の所に来たら、優しくしてやるから、お手柔らかに頼むぜ?」
「もちろん、同郷だもんね!!」
ダンジョンマスター側の辰巳の馴れ合いの言葉に応えているのは、冒険者側の藤代。
偶然か意図的なのか、金髪四宮グループは全員がダンジョンマスター側で、なんちゃって優等生の吉川グループは全員が冒険者だったのだ。
「両立場共に最大のレベルは99。そこを目指して励んでくれればよい。ダンジョンマスター本人はレベル1で残念ながら永遠に変化はないが、その眷属やダンジョン自身にレベルが有り、そちらが最大レベル99になる。レベルを上昇させる為に必要な事は多数あるのだが……」
沸き立つ中で再びレベルについての説明が有ったが……それは特に湯原と水野にとっては相当恐ろしいものだった。
冒険者は魔物やダンジョンマスターを倒すか、ダンジョンコアを破壊……こちらもダンジョンマスターを倒す事と同義だが、これでレベルアップする。
ダンジョンマスターは、侵入者の存在と侵入者の撲滅でレベルが上がるし、ダンジョンマスター関連の者が、ダンジョンの外で冒険者を始末してもレベルアップになる。
そこまでは“かろうじて”良い。
だが、ダンジョンマスター同士の殺害、異なるダンジョンに属する魔物や眷属の殺害でもレベルが上がり、冒険者同士の殺害でもレベルが上がるのだ。
但し同じ立場、例えば冒険者同士である場合には、明らかに格下の者を手にかけてもレベルは上がらないと言う制約はあるが……
この事実は、湯原と水野がどちらの立場であったとしても両グループから命を狙われる可能性があると言う事を意味している。
その想像が事実とでも言わんばかりに、この場の湯原と水野以外の全員が二人に向けて獰猛な笑みを浮かべていたからだ。
二人が冒険者側なのかダンジョンマスター側なのかは不明だが、何れにしても向こうは両方の立場の者が揃っている。
その視線の意味に気が付いた水野は怯えて湯原の背中に隠れて震えているが、神々はやはり呆れた表情を見せたまま話を続けている。
どの道この場で対処する事は出来ないからだ。
「これから各自に向こうの世界に行ってもらう。今回は大陸で最大の国家であるラスリ王国に飛ばすが、そこからの移動は自由だ。少々の金銭も与えておこう」
「場所については……頭に浮かんだか?好きな所を選んで行くと良い」
この説明を聞いて取り敢えず湯原と水野の件は後回しで良いと考えたのか、これからの自分の立場に興奮しているのか、何やら冒険者側とダンジョンマスター側とでコソコソ相談したと思ったら、瞬間で消えていく。
「そこの二人はどうするのだ?」
目の前で人が消えた事実を目の当たりにして、改めてとんでもない世界に行く事になっていると思っている湯原に対し、神から声がかかる。
この場には神二人と湯原と水野の四人しか存在していないので、ここぞとばかりに湯原は気になった事を聞いてみる事にした。
今までの話や態度から想像するに多少不敬と取られても殺される事はないのだから、情報はなるべく多く仕入れておくべきだと判断している。
「いくつか聞きたいのですが……もし俺達がダンジョンマスター側だとして、呼べる眷属の数に違いがあるのは何故ですか?同じ条件であるならば、絶対に四天王の方が有利なはずなのに……そうでないと言う事は、何か制約があるのではないでしょうか?それに、一般的な冒険者のレベルもわかりませんし……」
まだまだ聞きたい事はあるのだが、焦らずに話を進めようとする湯原に対し、初めて神は安堵するような表情を浮かべていた。
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