（３）
「また召喚の時期が来たようだな」
「残念だ。今回は非常に長く平定を保てたのだが。また今回もダンジョンマスターが減少しているようだ。そちらを多くする予定だが……」
とある空間で、自らが管理している星において、ダンジョンを管理するダンジョンマスターとその対極の位置にある冒険者を含む侵入者を補填するべく、日本から数人を召喚するための行動を始めている二人。
「いつからこうしているか忘れるほどこなしたが、正直日本の者達には申し訳ないな」
「そうは言っても帰りたいと言う感情は消している訳だし、日本でも存在は無かった事になっている。今迄召喚した連中は与えた力で好き放題楽しくやっているだろう？あまり気に病む必要はないと思うぞ。どうせ今回も欲望に満ち溢れた連中だ。あの二人が特別だったのだ」
召喚される世界は、日本とは異なり魔法等の有りえない力が使える世界であり、一般的に冒険者と呼ばれる人々がダンジョンと呼ばれる不思議な空間で得られる素材を入手して、その素材を基に生活が成り立っている。
素材には鉱石も有れば武器が直接得られる事もあるし、魔物と呼ばれる存在そのものも素材になり得る。
そんな魔物はダンジョンだけではなく普通の森にも生息しているのだが、これはダンジョンを管理するダンジョンマスターが地上の情報や他のダンジョンの情報を得るために解き放った者達であり、地上で勝手に繁殖していたりする。
ダンジョンは、ダンジョン内部への侵入者の存在や侵入者を亡き者にする事でレベルが上がり、応じて侵入者の餌になる素材のレア度も上昇する。
一方の冒険者は魔物や、場合によってはダンジョンマスターを始末する事でレベルが上がる共存共栄と言う立場だ。
しかし実際には命がけなので、割と召喚者達は活動していく中で始末されてしまう場合が多い。
このような状況の中で暫くは安定していたこの世界。
とある事情で大きく乱れてダンジョンマスターの減少が激しくなっているのだ。
冒険者は召喚者以外の現地の人々も活動している事もあってか、減少すれども自然増加もするが、ダンジョンマスターは召喚者で補填する他ないのが現状だ。
両者のそのバランスが大きく崩れると人々の生活が直接脅かされてしまうので、時折補充しているのが今回準備している召喚になる。
「しかし、ダンジョンマスター側に制約がありすぎじゃないだろうか？」
この世界の冒険者やダンジョンマスターも、レベルと言う概念がある。
レベルが高い程に強いと言う事で、因みに、レベル２０の冒険者であれば相当強いと言われていたりするが、上限は９９だ。
「どれの事を言っている？ダンジョンコアを顕現してから即ダンジョンを生成すると、上限レベルが６０に制約される事か？それとも、ダンジョン生成直後に眷属を召喚すると、ダンジョンの場合と同じく眷属の上限レベルが６０となる事か？」
ダンジョンマスターとして活動するには、ダンジョンコアによってダンジョンを作成する必要がある。
召喚時にダンジョンマスターとなる人物に与えるダンジョンコアを早期に使用すると、本来上限レベル９９の所、６０で打ち止めになるのだ。
実は、冒険者として召喚された者達は初期レベルが２０と言う破格の力を持つが、ダンジョンマスターとして召喚された者は日本にいた頃と強さは変わらないし、この世界でのレベルで言えば永遠のレベル１になる。
何をどうしようが、本人のレベル１と言う力は一切変化する事はない。
初期の段階でこれ程の差があるのは、ダンジョンマスターはダンジョンと言う強固な守りを作り、更には自らが戦闘せずに眷属達によって安全な場所から戦闘する事が出来るからだ。
当時は召喚者達全員にありのままを説明していたのだが……調子に乗ったダンジョンマスター達が徒党を組んで冒険者側を蹂躙し始めた事によりバランスが大きく崩れ、急遽冒険者達だけを大量に召喚して再びバランスを取った経緯がある。
その為、それ以降はダンジョンマスターのこの制約については説明する事は無くなっていた。
実はダンジョンマスターとしての存在を安定させるために召喚後一月必要で、更にダンジョンを作成した時にダンジョンを安定させるのに一月必要と言う足枷もある。
「昔の召喚を忘れたか？また暴走してバランスを保つのに一苦労する事になるぞ？」
「確かにそうだ。今回の召喚……本当に久しぶりだが、あの二人の様な人物が来てくれればありがたいのだが、期待はできないだろうな」
「そうだな。あまり過度な期待をするとまた数千年はがっかりし続ける事になる。あの二人と逢えるまで、どれ程の年数が必要だったか覚えているだろう？」
こうしてこの場の冒険者とダンジョンマスターに力を与える神達は、日本のとあるクラスの一部を召喚するのだが、この召喚を行える力も今回が最後になるだろうと言う程の力しか残されていない。
その対象は……湯原 正義のクラスであり、今回の事件の当事者である湯原と水野、そして金髪四宮の四人組と、なんちゃって優等生の吉川の四人組の合計１０人だった。
神の言っている通りに一瞬でその存在は日本から消えて元からいなかった事になっているのだが、召喚された方はそうではない。
日本に帰りたいと言う感情だけはキッチリと消されているのだが、他の記憶は残ったままに、不思議な空間に強制的に移動させられている。
こうして、神の二人としては慣れた作業を再び始める事になる。
「よく来たの。お前達はこれから魔法などが使える異世界。良く知っているだろう？日本でも話題になっている異世界に行ってもらう」
