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眷属に質問を繰り返した結果、入り口を故意に塞いだ場合のダンジョンは、レベルによって異なりはするのだが、一週間もすればコアが破壊されると言う事だ。
漸く呼び出していた魔物も全て放逐して背水の陣で賭けに出る二人は、互いの生存を祈りながらもそれぞれのダンジョンのコアルームに入り、蟻に完全に入り口を塞いでもらった。
コアルーム同士を接続する事も考えたのだが、唯一信頼関係のある蟻がその話を聞いて慌てる様なそぶりを見せたために、止める事にしていた。
狭いコアルームに眷属四体と共に閉じこもっている星出と岡島。
ダンジョンマスター二人が外の町や村に隠れると言う事も出来たのだが、どの道コアが破壊されれば死亡するので、自分達が見つかって始末されると言うリスクを増やす事は愚策だと考え、コアと共にその身を隠す事にしていた。
こうして、モグラのように地中で生活して大人しくしている二人のダンジョンマスターは、三日目を迎えている。
流石にダンジョンの眷属であれば、外界の情報がなくともどの程度日数が経過したかはわかるようだ。
「まだ大丈夫そう」
互いに意思疎通出来る術を持たない星出と岡島は、自らの体調とコアを見ながら吉川達の襲撃を怯えつつも待っている。
できれば襲撃がなく去ってくれるのが一番良いが、襲撃が無かった場合には去ったかどうかを知る術がないので、どの道コアや自分の体調に異常が有った時点で入り口を開放せざるを得ない。
さらに言うならば、岡島は自らこの岩をどかす術がないので、仮に蟻を眷属としている星出に何か異常があれば、自分はこのまま朽ちる他ないのだ。
一方、地上型のダンジョンマスターである四宮と辰巳。
地下型ダンジョンの二人が自ら消えると書かれた手紙を呼んでも、悲しいと言う気持ちが湧いてこなかった。
「アハハハ、ビビッて損したな。なぁ?辰巳!これだけ経っても誰も襲ってこねーんだ。だったら楽しまなきゃ損だよな?あいつ等、怯えすぎだろ?」
「あぁ、四宮の言う通りだ。有りえない日常に、必要以上に恐れていたのがバカバカしいな。これからはあの二人の分も楽しもう」
この二人、互いにダンジョンレベルを上昇させており、四宮は6、辰巳は5にまで至っているので、四宮は召喚当初から強化していたサキュバスをレベル32にまで引き上げ、均等に召喚していた辰巳も、一体を強化してレベル19にしている。
その強化したサキュバスの力で冒険者を拉致し、ダンジョン内部で始末しつつレベルを上げている。
一方地下型のダンジョンマスター女性陣二人は冒険者には一切手を出さずに周辺の魔物を狩る事によってレベルを上げており、ダンジョンレベルは2とあまり上昇していなかったが、既に手紙によって自分達は消えると書いており、その手紙を読んで流石に地下型ダンジョンを確認しに行った四宮と辰巳だが、入り口が崩壊しているように見えたので手紙の内容は事実であると判断した。
今日も今日とて、互いの最高戦力であるサキュバスをダンジョンの外に出して獲物を探しに行かせる。
街道であれば、慎重に野営をしている冒険者や護衛を付けた商人達がわんさか溢れているので、二人にとって街道は餌が毎日のように置いてある絶好のポイントになっていた。
残り三体のサキュバスをコアルームに引き連れて楽しんでいるのだが、この日はいつもとは大きく異なっていた。
そう、吉川達と共にレベル45と言う圧倒的な強さを持つ冒険者の信子が野営をしていたのだ。
街道に向かっているサキュバス二体は、街道に到着する前に野営をしている吉川達一団を発見する。
普通の冒険者達は街道、最悪でも街道が見える位置に野営を行うのが常識であり、街道からここまで侵入した場所で野営をする冒険者を見るのは初めてだ。
それぞれの眷属であるレベル32の四宮の眷属のシノイチとレベル19の辰巳の眷属であるタツイチは、シノイチの力であれば吉川達四人の対処は可能だが、金目金髪の女だけは夢の世界には引き込めないだろうと判断する。
当然レベル差がある事と、同性であるからだ。
いくら召喚された眷属とは言え、むざむざ死にたいとは思わないところは人族と同じであり、何とか対策を考える。
その結果、吉川と笹岡と言う男性二人を操って藤代と椎名の女性を唆して、信子を襲わせると言う手順を踏む事にした。
レベル19のタツイチが敢えて五人の前に姿を現す。
「アンタ達、起きろ。ついに当たりを引いたぞ。あれはサキュバス。奴隷契約が無いから、ダンジョンマスターの眷属だろう。レベルは19だ」
やはりレベルも高く経験豊富な信子は即タツイチの存在に気が付き、詳細を明らかにする。
「コイツを倒せば、アンタ達は間違いなくレベル30に到達する。卒業試験だ、仕留めてみると良い」
この眷属の主であるダンジョンマスターは頂くが……とは言わずに、敢えて卒業試験と言う事で、この後は別行動だと匂わせる信子。
この戦闘で報酬は間違いなく完了するので、その後はどちらかと言うと同じ宝を狙う存在と行動を共にしたくないのだ。
だが、信子の思惑通りには事は進まない。