(22)
「「あの、おはようございますなの」」
床で寝ている湯原と水野に対して、少し怖がっているような声がかけられる。
「うん……あ、おはようございます、イーシャちゃん、プリマちゃん。よく眠れましたか?」
「「は、はいなの」」
二人そっくりの表情で同じセリフを言う物だから、可愛らしくて笑ってしまう水野。
「おはよう。よく眠れたみたいだな、イーシャ、プリマ。今日は馬車で移動だから、朝食を食べてきてくれ。その間、俺は食料を買っておくから。カーリは、二人に付き添ってあげて」
「はい。行ってらっしゃい」
二人は必ず遠慮するだろうと思い、その隙を与えずに一気に話を進めて出て行く湯原と、二人を強引に食堂に引っ張っていく水野。
「お~、顔色は随分と良くなったじゃねーか」
「本当だね。あの噂は正しかったんだ。大した薬師だ。私達も帰りに買いだめしておこうか」
そこには、既に護衛の冒険者が食事を終えて部屋に戻ろうとしている所だった。
「おはようございます。おかげさまで一時的ですが良くなりました。この後の事も考えていますので。本当にありがとうございます」
「「あ、ありがとうなの」」
自らの主人であるはずのカーリが頭を下げるので、慌てて同じ様にお礼を伝えて頭を下げる二人の猫獣人。
「ハハハ、良いって事よ。おチビちゃんたち、良い主人に巡り合ったぜ。これは俺達からのせめてもの祝いだ」
少し大きめの袋を水野に押し付けると、さっさとこの場からいなくなる。
「さっ、しっかり食べて!」
何が何だか分からないが、取り敢えず言われたとおりに目の前の食事を口にする二人だが、当然水野の分はない。
その間に水野は貰った袋を覗くと……そこには、日持ちのする食料がかなりの量入っていた。
恐らく湯原と水野が既に文無しに近い状態であり、更に二人の食い扶持を稼ぐ必要があると理解していた護衛の冒険者なりの激励だ。
「本当に素敵な方達ですね」
こうして朝の時間は過ぎ、再び馬車の中にいる四人。
最後の一日だけの距離で小さな子供二人だけである為なのか、御者は追加料金なしで良いと言ってくれていたが、きっと護衛の冒険者達が何か調整したのだろう。
「よっしゃ~、着いたぜ!!ここが終着点の村だ。短い間だったが、楽しめたぜ」
「私も、楽しかったわ。私達は明日には帰っちゃうけど、また会える事を楽しみにしているわ。もし、コッタ帝国の帝都に来る機会が有ったら訪ねてね!」
「こちらこそ、本当にありがとうございました」
「色々配慮いただいちゃって、申し訳ないです。帝国に行く機会があれば、是非立ち寄らせて頂きますよ」
「「ありがとうなの」」
既に無一文の湯原と水野達は、御者から本来の目的地である混沌の時代のダンジョン跡地の道のりを聞いて歩き始める。
村から秘境に続く道である為に街道程立派には整備されていないが、一応歩いたり馬車で進んだりする分にはそう大きな問題はない。
まだ夕方になる少し前の為、周囲に警戒しつつもゆっくりと進む。
「セーギ君。これ……」
短剣を渡す水野。
これは、護衛の二人組がくれた袋の奥に入っていたもので、明らかに丸腰の二人がこれから向かう場所では火力不足であると判断して、そっと忍ばせていたものだ。
冒険者の二人も本当は最後まで付き合ってやりたい気持ちもあるのだが、そうなると一月以上足止めを食らう上、そもそもこの世界での命は自分で守るのが鉄則。
余計な助力は軋轢を生む事も多々あるので、そっと短剣を忍ばすだけに留めていた。
「本当に、初めて一緒に旅をした冒険者の二人が優しい人で良かった」
「本当ですよね。今度帝国に行ったら……あっ!お名前を聞いていないですよ?セーギ君!!」
とんでもない失態をした事に今更ながら気が付いたのだが、もう簡単に戻れる距離ではないし、既にダンジョン生成リミットまで残り4日なので進む事にした。
道中、どのタイミングである程度の事情をイーシャとプリマに話すのか悩んでいる二人だが、どの道ダンジョン跡地で“ダンジョン生成”を実行する前にはその辺りについては話さなくてはならない。
テクテク向かっているのだが、突然イーシャとプリマの動きが止まる。
「どうしたの、イーシャちゃん、プリマちゃん」
水野は心配そうに声をかけ、湯原も突然動きを止めた二人に視線を送る。