(21)
店主は店の奥に行ったかと思うと即戻って、薬を見せながら説明する。
「じゃあ、これで金貨4枚(4万円)だ。だが、化膿の進行を抑えるだけの薬で、これだけでは絶対に治らない。一応楽にはなるはずだが、一時的なものだ。それと、効果が得られるのは最大でも二カ月弱。そもそもこの薬は、対処が間に合わないための延命的な意味で作っている物だからな。そこは間違えないでくれよ?」
「ありがとう。助かるよ」
そう言って支払いを済ませて薬を受け取る。
残りの全財産は金貨一枚(1万円)なので、少しでも良い物を食べさせてやりたいと言う思いから、複数の食事を購入する。
残り全財産、銀貨六枚(6千円)。
「戻ったよ。これを塗れば、進行を最大二月程度抑えられるそうだ。症状も楽になるらしいけど、完治はしないで抑えるだけに特化した薬。だから、そう高くなかったのかもしれない」
既に体力の限界だったのか、二人の少女は浅く少々早い寝息を立てて眠っている。
湯原と水野は二人の少女を起こさないように、それぞれの腕に薬を優しく塗り込んで行く。
日本ではこれ程の状態が塗り薬一つで、しかも即効性があるなど有りえないのだが、そこは異世界。
薬を塗って少しすると呼吸が安定し始め、眉間に少々皺が有った二人の表情も和らいだのだ。
二人の可愛らしい寝顔、それも小さな猫耳がついている二人の少女の寝顔を見て優しく微笑む水野だが、落ち着いたら思い出した事がある。
「セーギ君!ありがとう。よかったぁ。でも、可愛い!って、あ?ごめんなさい。勝手にお金を使っちゃって」
「いやいや、あそこでカーリが言わなければ、俺が同じ事を言っていたよ。でも護衛の二人には感謝だね。値段もそうだけど、荷物や情報、色々助けて貰えた」
湯原としても本心から言っている。
「う~ん。あれ?お姉ちゃん、お姉ちゃん!」
「な~に、プリマ?」
痛みが無くなったからか、湯原と水野の会話で目が覚めてしまった二人の猫獣人は飛び起きる。
きょろきょろと周囲を見回すと見た事もないような部屋の中におり、うすぼんやりと自分を買った人であろう二人が見えた。
「わ、私、イーシャなの。宜しくなの。ぶつなら、私だけにしてほしいの」
「私は、妹のプリマなの。逃げないから、ぶたないでほしいの」
ベッドから飛び降りて、湯原と水野に向かって自己紹介とも言えない言葉を発する二人。
想像は出来ていたが、二人の態度が相当な環境にいた事を裏付けている。
「大丈夫よ。イーシャちゃんにプリマちゃん。私はカーリ、そしてこちらはセーギ。こちらこそよろしくね?」
「俺がセーギだ。宜しくな。で、早速だけどこいつを食べてくれ!」
買って来た料理が無駄にならない事に安堵し、机の上に置いてある食事を指し示す湯原。
「えっと、毒見なの?」
イーシャが少し震えた声でこう聞き、プリマも悲しそうに下を向いている。
湯原と水野は、思わず互いを見てしまった。
まさかここまでとは思っていなかったのだ。
再び二人はしゃがみ、150cm程の二人に視線を合わせる。
可愛らしい黒目には涙が浮かんでおり、短いくせ毛の黒髪から出ている小さな耳は、ぺたんと垂れ下がってしまっている。
「イーシャちゃん、プリマちゃん。二人が今まで辛い環境にいた事はよくわかりました。でも、私達の元に来てもらったからには、そんな事は絶対にしません。これは、セーギ君が二人の為についさっきこの町で買って来たものなの。不安なら、私が先に少しだけ食べるけど?」
流石に直ぐには信用できなさそうな疑いの視線を向けてはいるのだが、どの道逃げる事も出来ない事を理解しているのか、二人は席に移動して少しずつ食事を口にする。
その速度は徐々にあがり、もう全てを完食しそうな勢いだ。
「フフ、セーギ君が買ってきて下さったお食事、無駄にならなくて良かったです」
「そうだな。だけど、これで村からの移動は徒歩決定だ。大丈夫か?」
「任せて下さい。私達の為、あの二人の為、頑張りますよ!」
魔物対策についてはこの時点ですっかり頭から抜けていたのだが、この二人の病状が一時的に回復した事により問題なくダンジョン跡地まで辿り着ける事は、この時には理解する事が出来なかった。
お腹が膨れた二人は、食べ終わる付近で急激に食事の速度が落ちたかと思うと、舟をこぎ始めた。
「フフフ、可愛い。ゆっくり眠ってね!」
二人は、イーシャとプリマを優しく抱えるとベッドに寝かせて布団をかけた後、夫々が食堂で食事をして、床で眠る。
その二人の頭の中には・・・・・・ダンジョン生成の期限が近づいた事により、とあるカウントが表示されている。
ダンジョン生成期限まで、残す所、後5日。