(17)
「大丈夫か?カーリ?」
翌朝、久しぶりにぐっすりと眠れて気分爽快の湯原とは異なって、モンモンとして寝不足となり、明らかに睡眠不足の水野。
「だ、大丈夫ですよ、セーギ君。ちょっと考え事をしていたら、いつの間にか朝になっておりまして……」
愛しい人に嘘をつけない水野は、肝心の何を考えていたかは差し控えた上での真実を告げる。
「何か心配事か?俺で出来る事があれば何でも言ってくれ。ここでこんな事を言うのは卑怯かもしれないが、俺にはカーリが必要だ。共に歩んでくれるカーリがいなければ、俺はここまで来られていない」
まるでプロポーズの様な言葉が含まれているが、湯原としては真剣に水野の事を心配して言っている。
こんな状況で“考え事”と言われては、相当重要な事で悩んでいるのではないかと思ったのだ。
真剣な表情でこのような言葉を聞かされている水野は、その奇麗に動く湯原の唇に視線が釘付けになっており、昨日のことを思い出して無駄に顔が熱くなってくる。
「お、おい、カーリ!本当に大丈夫か?」
慌てて額同士をあわせにくる湯原。
当然その顔が近くに来るわけで、更に赤みが増してしまう水野。
「ん、少しだけ熱く感じなくもない程度……って、おい、カーリ。本当に大丈夫なのか?」
アワアワしだした湯原を見てこんなにも可愛らしい一面もあるのだと嬉しくなる水野は、優しい微笑みを携える。
「フフ、本当に大丈夫ですよ、セーギ君。……敢えて言うならば、今幸せだと言う事です」
最後はヘタレてしまってハッキリと伝える事は出来なかったが、今の水野ではこれが精一杯だ。
今までの湯原の態度、言葉、全てを考慮すると、自分と同じく好意を持ってくれている事は何となく理解できているのだが、眷属を呼んで最低ラインの安全が確保できるまでは自重しようと水野は心に決めていた。
昨晩の行いは心に決める前の出来事なので、水野の中ではノーカウントだ。
水野の頬笑みを見て、そこまで心配する必要はないのだろうと思えるようになった湯原は、漸く少し落ち着く。
「そっか。でも、いつでも何かあったら言ってくれ。朝食、行けるか?」
「もちろんです。行きましょう!あっ、でも今日、道中寝てしまうかもしれませんが……」
こうして二人は朝食を食べると、一旦部屋に荷物を取りに戻って馬車の元に移動する。
「本当にごめんなさい。でも、私は大丈夫なので、持てますよ?」
「ダメだ。それと、馬車では ゆっくり眠ってくれ。もしよかったら……その、膝とか肩とか貸すし……」
全ての荷物を湯原が持って馬車に向かって歩いている二人。
食事の最中でも、水野は別に変な考え事ではないが寝不足だと言う事を湯原に説明して理解してもらったのだが、こう言った状況になっている。
湯原がさりげなく勢いで膝枕を進言するので水野は再び真っ赤になるのだが、ここで断る訳には行かないと思い、少し前に決断した自重すると言う気持ちを一瞬で投げ捨て、欲望に忠実に行動する。
「えっと、嬉しい……です。馬車に着いたらお願いしても良いですか?」
言った方も相当勇気を出して勢いをつけて行ったのだが、まさか赤い顔をして上目遣いでこんな事を言われるとは思ってもいなかったので、こちらも真っ赤になっている。
一応フードを被っているので、見つめ合っている二人以外にはその状態は分からないが。
「も、もちろんだ。さっ、早く休んでもらいたいから、行こうか?」
「はいっ!!」
湯原は、実際に早くゆっくり休ませてあげたいと言う気持ちもあるのだが、少しばかりイチャイチャしたいと言う気持ちもある事は理解しており、徐々に煩悩の破壊力に武の心が敗北しかかっている事に気が付いていた。
この町から乗り込む人もいないようで、再び広い空間を二人だけで使用している湯原と水野。
「で、では失礼して」
「ど、どうぞ」
誰も見ていないのに、何をそこまで緊張しているのかと言いたくなる程に互いがガチガチになっており、オズオズと横になって頭を湯原の太ももの上に乗せる水野。
「えっと、重くないですか?」
「まったく。俺の方こそ、硬くないか?きちんと眠れそうか?」
「はい。大丈夫です。では失礼して、眠らせて頂きますね」
やはり寝不足が響いたのか、何とか愛しい人の膝の感触を楽しもうと粘っていた水野だが、いつの間にか深い眠りに落ちていたので湯原の優しい声は聞こえていない。
「カーリ。これからも、よろしくな……おやすみ」