(157)
「これで決別……か」
「そうですね。でも、新たな出会いもあったじゃないですか!」
やはり完全に敵と言っても同郷の者との別れには少々思う所があったのだが、朋美や美智、更には神保やトレアリナ等新たな出会いがあった事も事実。
「そうだね。わかった。行こうか、カーリ!」
「はいっ、セーギ君」
1階層の城のとある一室に飛ぶとそこにはデルとビーが待っており、今日は少々急いでいるので更にそこから入り口の建屋の一室に飛ぶ。
個別に入り口建屋に立て続けに転移しては建屋側の人々が慌てる可能性が高いので、纏まって転移している。
「行ってらっしゃいませ」
そこにはヒカリがおり、事情を把握しているのでこう言った挨拶をしている。
建屋を出ると、湯原と水野を見た住民達は我先にとこの町に住まわせてくれる事へのお礼を伝えようと動くのだが、真剣な目つきで出口を目指している事、受付のヒカリが手でその動きを制した事から動きを制止し、一斉に入り口方面を見る。
彼らの目では確認できないが、その方向にはマンティスとゴーストにしっかりと視認されて恐怖により震えている四人の召喚望遠者の姿がある。
残念な事にレベル1の湯原と水野にも見えないが、状況はこの場にいるハライチやミズイチから報告を受けているので、そちらに向かって歩き出す。
「あぁ、俺にも見えたよ。相当……トラウマになっているみたいだな」
ダンジョン入り口を出て進むと、当然護衛をするとばかりにマンティスとゴーストも湯原と水野に続くので、震えている四人としては恐怖の対象が自らを捕食しに近づいていると錯覚する。
「う~ん、これじゃあ話を聞いてもらえそうにないな。ゴースト、マンティス、悪いけど視界に入らない位置に移動してくれる?」
湯原の一言で最大の脅威が一瞬で消えた四人は安堵し、すっかり至近距離まで近づいてきている二人を見る。
「ゆ、湯原、水野。俺達が悪かった。見ての通り冒険者としての活動もできていない。虫がいいとはわかっているが、保護してもらえないか?」
この場にはゴースト以上の脅威はいないと勝手に誤解している吉川達は、徐々に調子が戻ってくる。
「よ、吉川殿の言う通り。自分も今迄の非道な行いを深く反省している」
「私もよ。ねぇ、同郷のよしみで今迄の事は水に流して仲良くしましょうよ?」
「り、理沙も悪かったと思っているよ」
必死の四人を見ても、残念ながら湯原と水野の心は動く事は無いばかりか、なんて勝手な事を言っているのだと言う気持ちがより強くなる。
そもそも水に流すのは被害者側であって加害者側ではないのだから……
「あのな?何を勘違いしているかわからないけど、俺達はお前等を許しに来たわけじゃないんだけどな?」
「そうですよ。日本であれだけの事をして、ここでも命まで取ろうとしていましたよね?今私達が命を取らない事が最大の温情ですよ!」
珍しく水野も怒りをあらわにしているのだが、最後の砦を失うわけにはいかない四人はそう簡単には引き下がらないし引き下がれない。
「だ、だから俺達は反省しているんだって」
「立場が上になったからって、突然偉そうに私達を見捨てるの?」
吉川の言葉はまだ良いが、藤代の言葉は許容できなかったレインとビー。
ビーは湯原と水野の護衛ができる位置で空中に停止し、レインは湯原と水野の背後から進み出て四人に近接する。
吉川達四人は、この見た目が良い七色の髪を持つ女性は過去の記憶が薄れたのかゴーストよりも遥かに格下だと思っているので、立ち上がって応戦の姿勢を見せる。
「フフフ、とんだゴミ共ですね。セーギ様、カーリ様、やはり今この場で始末した方が良いのではないでしょうか?」
少しずつ四人に向けて圧をかけて行くレイン。
強制的な圧力で立っていられなくなった時に、漸く目の前の女性も遥か格上である事に気が付くのだが、もう遅い。
地面にうつ伏せの状態で一切動く事が出来ず、息もできずに意識を手放す。
「命まではとるなよ、レイン」
「……承知しました、セーギ様」
随分と返事をするのに間があったのだが、どうやら湯原の一声は間に合っていたようで、四人の胸が規則的に上下している事を確認して少々安堵する二人のダンジョンマスター。
「最後の挨拶もできませんでしたね。ですが、この程度の縁だったのですよ」
寂しそうに呟く水野の姿を見て、四人をすり潰してやりたいと思う気持ちをぐっと堪えるレインは、代わりに元気づけるためにこう告げた。
「カーリ様。今日は女子会ですよ!そこでストレス発散です!」