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まさかの召喚冒険者四人が、ある意味庇護を求めて番のダンジョンに向かっていると連絡を受けた湯原と水野。
一先ず心を落ち着かせるために、いつもの紅茶を飲んでのどを潤し深呼吸する。
「どうするのですか?セーギ君」
「いや、何もなしで迎え入れるのは流石にないでしょ。だよね、ハライチ?」
「当然です。あれほどの事をしでかしておいて、今更どの面下げてやってくるのか……頭の中身を覗いてみたいです」
あの不思議な空間に至る前、日本にいた頃から良くない扱いを受けていた湯原と水野としては、特段死ぬほどの状況にないのに庇護を求めに来るのは違うと思っている。
色々な幸運があって最強と疑いようのない程の力を得ているが、何か一つ躓いていれば容赦なく四人に命を奪われていた可能性もあったのだから……
「カーリは正直な所、どう思う?移住を許可したいか?」
「う~ん、そう言われると、そうではないですね。だって、私達殺されそうになっていますよね?」
その言葉を聞いて、安心した表情を浮かべたのはこの場にいるミズイチとハライチだ。
主の一人である水野が許可を出してしまっては、その方針に対して自分では強硬には抗えなくなるからだ。
「主様、カーリ様。あの四人は長寿になるレベル40を超えているわけではないですが、他と比べて相当な力を持っているのは確実ですので、そう時間がかからずにこちらに到着致します。住民達に余計な心労をかけない為に、一先ずどなたかを入り口前で待機させても宜しいでしょうか?」
結論をせかすつもりのないハライチは、じっくりと検討する時間を持てるように配慮している。
「そうだね。そうしてもらおうかな。誰に頼むの?」
「あの四人であれば、ゴーストとマンティスでしょうか?」
「ブッ……そ、それはまた凄い対応だね」
ハライチは湯原の問いかけに対してあっさりと二体の魔物を選定するが、その二体は四人の天敵とも言える、ダンジョンに侵入できない程のトラウマを植え付けた二体なのだ。
このダンジョンや召喚者に対する報告は事後報告や一部ぼかしたり優しい表現に変えられる事はあるのだが、本当に些細な事を除けば全て主の二人に上げられるので、今回の対応で四人は侵入自体を諦めるのではないだろうかと思っている湯原。
「まぁ、良いか。お願いするよ。って、他の住民の人達は大丈夫なのかな?怖がらない?」
「はい。ゴーストは主様が思っている以上にこの町の住民への露出が多いので、かなり受け入れられています。そのゴーストがいれば、横に控えるマンティスも問題ございません」
そこまで言い切るのであれば……と許可を出した後に、再びどう対応すべきかを考える湯原と水野。
最大の恐怖が待ち構えているとは知らずに全力で番のダンジョンに向かっている四人は、巨大な入り口を視界に入れる。
「相変わらず混んでい……」
吉川の声は、大きな入り口の前に並んでいる人々が見ている先……マンティスとゴーストを視認した瞬間に消えるとともに、一気に立ち止まる。
「お、おい!あいつらがいるぞ!」
「ヤダヤダ!帰る!私帰る!」
「ひぃ~!」
「許して、理沙、もう何もしないから!」
四人とも一瞬で恐怖がよみがえりその場で座り込むのだが、一部番のダンジョンに向かっている人々は誰一人として助けたり声をかけたりする事は無い。
ゴーストとマンティスは四人を視認しており、じっとその目を向けているのだが、入り口から動くそぶりを見せないので本当に少しだけ落ち着く事が出来た四人。
「あ、ああ、あいつがいる以上、お、俺はもう無理だ。おお前等は勝手にしてくれ」
「よ、吉川殿。自分も無理だ」
「何を言っているのよ、私だって無理に決まっているでしょ!理沙もそうでしょ?」
椎名に至っては唇が震えて話す事が出来ず、首をカクカク上下に揺するだけ。
その様子もリアルタイムで伝えられている湯原と水野は、これはどのみち町に入って生活するのは無理だと判断する。
少し前のハライチの言葉によれば、ゴーストは町の人々に広く認知されているとの事なので、そのゴーストを見てこれだけ怯える様であれば、周囲の人にその恐怖が伝染しかねないと思っているのだ。
「カーリ、これは無理だね。ちょっと行ってこようか。一応最後の挨拶になるかもしれないしね」
「そうですね、セーギ君。寿命も立場も大きく違いますから。でも、余計な事で悩む必要がなくて良かったです。選択肢が他になければ悩む必要もありませんからね。今の私達は、町の人々の方があの四人よりも重要ですから!」
二人の決断を聞いて、すかさず護衛を1階層の建屋の一室に集合させるハライチは、主を連れて転移する。