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 王族だけが使える剣を、自らが敵視している存在が普通に手に持てている事を信じる事が出来ないミド・ラスリ。


「ば、ばかな」


 いくら言葉に出そうが、目の前の事実が変わる事は無い。


 神保はその剣の柄を両手で優しく握ると、自分では何も鑑定できないし気配も感じる事の出来ないままではあるが、過去、本当に楽しく共に過ごす事が出来た、そして妬けてしまう程に仲の良かった相思相愛の二人に語り掛ける。


「随分と長く苦しめちゃったみたいだね。ごめんね。あの時、仇を打つのに手を出すなと言われて黙って見ていたのを後悔しているんだ。それに、ラスリ王国達が攻めてきた時、最初にダンジョンを攻略されちゃった時に碌に助けられなくて本当にごめんね。言い訳になるけど、いつもの通りの侵攻だと油断しちゃったんだ」


 ポツポツと涙が落ちる神保。


 ミド・ラスリは動かないし、当然新たな指示がない岩本と三原も動く事は無い。


「本当に長かったけれど、今解放してあげるね。これであっちの世界で楽しく暮らせるよね?その内私が行った時に、また仲良くしてくれると嬉しいな……ゴースト」


 剣を空中に放り投げるとゴースト4体が姿を現して一気に剣に雷魔法を放つ。


……パンッ……


 激しい閃光と乾いた音の後に残ったのは神保が優しく握っていた柄の部分だけであり、刃の部分は全て消え失せている。


……カラン……カランカラン……


 柄が地面を軽く転がる音が聞こえている時に、周囲を少し覆っていた煙のようなものが人型を形作り、その姿を見た神保はワンワン泣き出してしまう。


 今まで凛としていた神保が突然泣き出したのだが、神保の関係者ではないハライチはその頭脳から全てを察し、湯原と水野のダンジョンに所属する魔物を少々下がらせる。


「神保さん、本当に有難う。最後に僕のお願いを聞いてくれたよね?妻の仇は僕だけでって言うお願い。それが逆に苦しめていたなんて、僕こそ申し訳なかったよ」


美咲(神保)さん。私からもお礼を言わせてください。美咲(神保)さんがいたから、私達は夫婦になれるまで生きながらえる事が出来たのです。美咲(神保)さんがいなければ、ダンジョン生成前に殺されていたでしょう」


「そうですよ。妻の言う通りです。僕達は神保さんに恩はあるけれど恨み何て一つもありません。恨みがあるとすれば……」


「ヒッ……」


 ジロリとゴーストのような捉えどころのない様な物体から厳しい視線を向けられたミド・ラスリは情けなくも悲鳴を上げて腰を抜かす。


 これで、ミド・ラスリ側で立っていられる状態なのは岩本と三原だけと言う情けない状態になっている。


「でも……美咲(神保)さん、もう良いです。この人(ミド・ラスリ)が直接私達に手を出したわけではないですし、これ以上私達のせいで美咲(神保)さんを苦しめたり悲しくさせたりしたくないから……」


「そうだね!さすがは僕の妻!と言うわけですよ、神保さん。僕達二人は神保さんには感謝しかありません」


「でも……でも……」


 まるで子供の様に泣きじゃくる神保と、その背中を優しく摩っているインキュバスと<光族>の男。


「もぅ、美咲(神保)さんも子供ですね。素敵な仲間(眷属)がいるのですから、一人じゃないですよ?それに……」


 チラリとハライチの方を見る女性に見える煙に対し、尊敬の念を持って一礼するハライチ。


「他のダンジョンの方とも上手くやれそうじゃないですか!私は夫と先に行っていますから、沢山この世界で楽しんでください!」


 ハライチは、チェーの力でこの二人の魂はあまり長くこの場に留まれそうにない事を知っており、少しでも長く神保と思い出を作れるように召喚魔物と共に一歩下がって様子を見ている。


 仮にここでミド・ラスリ達が何かしようものなら瞬時に抹殺する覚悟が出来ていたのだが、想定以上に無様を晒しているだけで何かをしてくる事は無かった。


 一切口を挟まずに神保達との交流を黙って見守っていたハライチだが、いよいよ最後のお別れの時が来たようだ。


「もう僕達は行かなくてはいけません。でも、本当にこれから妻と共にいられる事が嬉しいんですよ。だから神保さんも良い人見つけて下さいね?」


「フフ、夫の言う通りです、美咲(神保)さん。私達今迄以上に幸せになりますから、美咲(神保)さんも幸せになってください。約束ですよ?」


「うん。うん!本当にごめんね。ありがとう!」


 まるで憑き物が落ちた様に涙にぬれてはいるが爽やかな表情になっている神保を前に、煙は徐々に消えて聞く。


「「いつかまた、お会いしましょう!」」


 消えゆく煙からの最後の一言を聞いて、想像を絶する期間封印されて苦痛を味わっていた元ダンジョンマスターの二人に敬意を表し、ハライチを始めとした湯原と水野のダンジョン関係の者は合わせるように深く、深く一礼する。


「ハライチさん(・・)達。本当に有難う。帰ろっか?」


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