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 どれほどの時間が経過したのだろうか……ハライチの配慮でこの場の誰しもが寛いだ時間を過ごす事が出来ていた。


……ガチャ……


 突然扉が開いてミド・ラスリを先頭に、昨日ダンジョンに来た面々が入室して上座の椅子の荷物をどかして席に座る。


 流石に騎士は椅子には座らないが、彼らの想像では相当待たされてイライラしているだろうと思っていたのだが、目の前に見える現実は、美味しそうなお菓子と紅茶を飲みながら談笑している一行だ。


 流石のミド・ラスリもこの様子に面白くなさそうな顔をするのだが、この場に昨日いたダンジョンマスターである湯原(セーギ)がいない事に気が付く。


「ダンジョンマスターはどうした?」


「こちらにいらっしゃいますよ」


 優雅に立ち上がり神保を指し示すハライチの姿を見て騎士が神保を鑑定したらしく、その結果がミド・ラスリに告げられる。


「なるほど。あのダンジョンは番のダンジョンだったな。交渉事はもう一人のダンジョンマスターが行う……と」


 勝手な想像で納得し、ならば……と話を進めるミド・ラスリ。


 あくまで前提は、湯原と水野のダンジョン、番のダンジョンがミド・ラスリ率いるラスリ王国の力に恐怖して軍門に下る事なので、そもそも初手から思い通りに行くはずがない。


「では余の要求、いや、命令だな。伝えよう。あの場所の管理は基本的にラスリ王国が行い、住民に対しても納税の義務を課す。そして、魔法のスクロールと相当貴重な薬草が採れる事は知っておるので、それも定期的に献上する事。ダンジョンマスターは定期的にダンジョン内部の状況報告をしに来る事、他には……」


「ねぇ、ハライチと言ったかしら?このブタ野郎(ミド・ラスリ)は始末して良い対象、いいえ、この部屋のあっちに座っている連中がその対象と言う事で良いのよね?」


 ミド・ラスリの言葉の途中で、神保がハライチにどこまでが手を出して良い範囲なのかを確認する。


「……はい。流石に私達のダンジョンを身の程を弁えずに管理しようなどと、剰え素材を定期的に献上した上に、ダンジョンマスターが報告?ここまでくると、流石の私も堪忍袋の緒が切れます」


 国王を無視して不穏な言葉を出している二人に対して騎士は抜剣し、岩本と三原も強制的に戦闘態勢にさせられ、更にミド・ラスリは伝承の剣を取り出す。


「ハライチ、アレがそうなのですね?」


 神保だけではなく、この場に同行しているインキュバスと<光族>の男も悲しそうな表情になる。


「そうです。眷属のお二人であればある程度は力を感じるのではありませんか?」


 ハライチの言葉に対して神保は自らの眷属であるインキュバスと<光族>の男を見ると、二人は悲しそうに首肯する。


「貴様ら、何を言っている。頭がおかしくなったのか?ここは王城。余の戦力が最も集まる場所だ。そこに来ての暴言など許されるわけがなかろう?この度の暴言で、一つ命令事項を増やしてやろう。ダンジョンマスターの何れかは余の視界に入る位置で軟禁だ」


……ピシピシ……


「お、落ち着いてください。気持ちはわかりますが、ここは神保様が対応する時です」


 この部屋が微妙に振動して壁にヒビが入ったのだが、ハライチが慌てて何者かにこう告げた直後に振動は収まる。


「ハ、ハライチ。助かったわ。ちょっと……凄すぎよ」


 神保がこう言うのも当然で、あまりにも不遜すぎる態度にチェー、そして召喚魔物のマーリ、グリア、ブリースの怒りが少し(・・)漏れてしまった為にこのような状況になり、レベル1の神保を始めとして、護衛に就いている姿を消しているゴーストでさえもその怒気に当てられてしまった。


 当然神保はゴーストやインキュバス、<光族>に守られてこの状態なのだから、直接その怒気を受けたミド・ラスリ側の人間は全員が無事と言うわけにはいかない。


 騎士は漏れなく腰を抜かしている。


 岩本と三原は流石にレベルの高い召喚冒険者であり、本当の恐怖の経験があるので冷や汗はかいているが警戒態勢を解く事は無く、予想に反してミド・ラスリは剣を持っていたのが功を奏したのか、大きな呪いの力によって防御されていたらしく変化がない。


「情けない騎士共だ。だが、何をしたかはわからんが、余には通じない事が理解できたであろう?これ以上余を怒らせると、更なる要求を呑む羽目になるぞ?」


……シャラララ……


 今回の件であまり剣に負担をかけたくないと考えたハライチの指示によって、チェーがミド・ラスリの手から何の障害もなく剣を奪い取って神保の前に持ってくる。


「な、何をした!いや、その剣は王族しか使えんのだ。ハハハ、残念だったな!」


 丸腰になっては自分の力では何もできないと理解できているミド・ラスリは言葉だけを発するが、その巨漢を動かす事はしない。


「神保様。あの鞘にはお二人はおりません。確かに呪いの影響で王族以外が手にした場合は鞘に強制的に収まるようですが、既にその機能は剥奪しております。どうぞ」


 ミド・ラスリとは逆の事を言っている、王族でなくとも持つ事ができると言い切るハライチの言葉を信じて、自分が庇護して楽しく過ごす事が出来ていた二人の魂が封印されている剣を手にする神保と、何事もなく剣を手にできた神保を見て信じられないような表情のミド・ラスリだ。


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