(139)閑話 ジッタ家族の生活2
もう頭の中身を覗きたくなるほどのバカさ加減に頭痛がしているハリアム。
「忘れているようだからもう一度だけ説明するけれど、このダンジョンで問題を起こせば住居も追われ、二度と入る事も出来なくなる。これが最後の忠告だよ?」
「アハハハ、ビビっている奴が中途半端な脅しをかけても脅しにはならねーよ」
「そうだぜ。逆に今どうやって手に入れたか知らねーが、管理者の権限を俺達に渡せば見逃してやるぜ?」
これはダメだと天を仰いで再び二人の冒険者に視線を落とすと、そこには鎖族によって完全に捕縛された二人の冒険者がゆっくりと地面に倒れるところだった。
「な、なんだこりゃ。おい、テメーの仕業か?早くほどけ」
「くそ、この力……有り得ねーぞ」
どうして悪党の言うセリフは皆同じなのかと思いつつも、ここまで来てしまってはこの二人の冒険者らしき男と達は追放を免れないと思い、説明だけしてやる事にした。
「理解できるかどうかはわからないけれど、その鎖族はダンジョンマスターの配下だよ。それに捕まったと言う事は、看過できない状況だと言う事。つまりは二度とこのダンジョンの中に入れない事を意味するんだ。最後の忠告を聞いておけばよかったのに……二度と会う事は無いだろうけど、頑張って生活して」
「あぁ?クソが!テメーがダンジョンから出てきた瞬間にどうなるか、覚えていろよ!」
「そうだぜ。逆にテメーは一生このダンジョンから出られ……」
この状況で管理者に更に脅しをかける事ができる根性が凄いのか、無知を嘆くべきなのか微妙なところだが、救いようのない人材だと言う事だけは理解できたハリアム。
今までの経験からここまで醜態を晒す人材であれば、この二人はこのままある程度の階層にまで連れて行かれて矯正された上でダンジョンから放逐される事を、<淫魔族>であるハライチから説明を受けていたので、鎖によって相当な力で締め付けられて気絶している二人の冒険者をそのままに再び見回りを継続する。
その後は気配を消したスラエの分裂体によって収納の上で下層に送られて、以前に四人の召喚者が味わった蟷螂型のマンティスを使った脅しをかけられてしっかりと恐怖心を植え付けられた状態でダンジョンの外に放り投げられる。
いくら眷属とは言えダンジョンの外に魔方陣なしで転移する事は出来ないので、1階層の建屋のとある部屋に転移で連れて来られ、そこからヒカリによってダンジョンの外に投げられる。
当然周囲の冒険者達からは良く見える状態であり、時折起こるこの事象を見ては既にこの町に住んでいる住民達は自分を戒めるのだ。
あまりにも快適なこのダンジョン1階層での生活を失いたくないのは誰しもが共通した認識であり、安全に資源を採取できるし食料も簡単に調達可能、更には外敵からの身の安全は保障されているばかりか、立派な薬師まで存在しているのだから……
翌朝……
「お、お疲れ。その様子だと一人二人いたようだな」
「そうなんだよ、親父。本当に困った人はどこにでもいるよね。って、ポガルは?」
「あぁ、少し前に帰ってリエッタとグリンに挨拶して寝ているぞ」
「そっか。俺も寝てから食事をしようかな」
ジッタ家族としては、騒動の対処もするのだがこのように身の危険は一切ないので、落ち着いて全ての事象に対処できている。
少し前までは考えられない程の安定した生活に胡坐をかく事無く、日々感謝の心を忘れずに楽しく生活している。
「お帰り、お兄ちゃん!今日はお母さんと一緒にお菓子を作ってみたの。眠る前に少し味見してくれる?」
輝く笑顔の妹の頼みを断れるわけがないハリアムは、ハート型にくりぬかれているお菓子を口にする。
……サクッサクッサクッ……
出来の良いクッキーが、少々疲れた体に染渡る。
「リエッタ、とっても美味しいよ。どうもありがとう。随分と上手に作れるようになったね。なんだか少し疲れが取れた気がするよ」
「本当?実は昨日の夜にハライチ様が来てくださって、一応本当に念のためって私の事を診てくださったの。それで、お土産ってポーションをくれたので、お菓子に混ぜてみたんだ!」
確実に完治してはいるのだが、本当に念のために50倍希釈のポーションを持って直接様子を見に来たハライチは、右手に巻いているチェーによって全く問題ない事が判断されるとお土産にそのポーションを渡して帰って行ったのだ。
どうりで異常に体の疲れが吹っ飛んだんだなと理解したハリアムだが、敢えてこう告げる。
「確かにその効果もあるかもしれないけれど、俺としてはリエッタが一生懸命作ってくれたので、その分力が湧いた気がするよ」
「フフ、ありがとう、お兄ちゃん!」
こうしてリエッタとのやり取りを楽しみつつも、ダンジョンマスターに感謝しながら毎日過ごしているジッタの家族だ。
「そう言えば、お父さんの分は?」
「あっ、ごめんなさいお父さん。お母さんに聞いてみて!」
一部悲しそうな顔をしている人物がいる時もあるのはお約束。