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恩ある二人にお礼を言う為に一階層に転移しようとしたのだが、ミズイチとハライチに止められる湯原と水野。
「主様、カーリ様、お待ちください。お二人が上層階に向かう場合にはそれなりの警護体制の構築が必須です」
「ハライチの言う通りです。すぐさま整えますので、少しだけお待ちください」
こうしてコアを守る眷属であるビーを除く全眷属を引き連れて、一階層に転移する。
「えっと、ここまでしなくとも良い……」
「ダメです、主様!」
過剰なのではないかと思い、思わず漏れたひと言にも厳しく返されて苦笑いの湯原達は、町の中央部分にある二人専用の大きな城から外に出て町に繰り出す。
恩人であるハシムとリリアが選択した家については既に情報が上がっているので、その情報を基に先導するミズイチとハライチ、そしてその後ろを歩く湯原と水野を囲うようにしてデル、レイン、イーシャ、プリマ、スラエ、スラビがおり、チェーは湯原の右腕に巻き付いている。
……コンコン……
「あいよ~」
門の中、玄関まではたとえ使用中の建屋でも入る事ができるので、そこまで進んでハライチがドアをノックすると、中からハシム声がして、ドタドタと言う足音と共に扉が豪快に開く。
流石にその扉にぶつかるような間抜けではないハライチは、軽く避けると優雅に一礼してこう告げる。
「ハシム様、そしてリリア様。我らが主をお助け頂いた事、そしてイーシャ様、プリマ様の為に動いて頂けた事、深く感謝いたします」
何故か当人達より先にさっさとお礼を伝えてしまう。
「お、おぅ?」
突然現れた絶世の美女が一気に話すので上手く反応できないハシムだが、ハライチの後ろ、相当な強者に囲まれている人物に目を向けると、振り返って家の中に向かって大声で叫ぶ。
「おい!リリア!ちょっと来い、早く!!」
あまりの大声に何事かと思ったリリアも大きな音を立ててやってくるのだが、イーシャとプリマを視界に入れるとすぐさま飛び込むように近づいて抱きしめる。
「良かった!すっかり良くなったんだね!本当に良かった。二人も、無事……って、この人達、誰?」
やっとハライチやレインを始めとした力のある者に意識が向いたリリア。
「本当にお久しぶりです。あの時はありがとうございました。お名前も聞けずにいたので、こうして再び会えて本当に嬉しいです」
「私からもお礼を言わせてください。あの時に短剣を忍ばせてくださったので、私達は無事にここまで来る事が出来ました」
湯原と水野が同時に頭を下げるので、周囲を警戒しつつもこの場の眷属達もハシムとリリアに向けて深く頭を下げる。
スラエ、スラビ、チェーに頭があるかと言われると微妙だが、感謝の意を深く示してはいる。
「そ、そんな大した事はしちゃいねーよ。まっ、上がってくれ!と言っても、今さっき決めた家だけどよ」
「でも、良くここにいるってわかったわね。まるで全てを見透かす力があるみたいだね?」
何気ないリリアの一言だが、正にその通り。
自らが支配するダンジョンなのだから、情報の大小はあれども、眷属や魔物無しでもある程度の情報は理解できるのだ。
本当は大恩人であるリリアとハシムだけではなく、纏め役をしてくれているジッタにも自らがダンジョンマスターであると明かしても良いかと思っていた二人だが、神保やラスリ王国との問題が解決するまでは、何が弱みになるかわからないので秘匿するように厳しく言われてしまっている。
しかし今この時があるのは間違いなく目の前の二人のおかげなので、少しでも力になりたいと思っているので、何気ない会話の中でその辺りを調べようとする。
「本当にこのダンジョンはありがてーよ。住処はタダ。おまけに入ってびっくり、家具までついていやがる」
「本当だよね。だから住み始めた直後でもこうしてゆっくり話せるんだけど、ここのマスターはとんでもないお人よしだね。その辺り、何か噂を聞いている?」
いきなり直球が投げられたので、上手く打ち返す事が出来ない湯原と水野の代わりにハライチが対応する。
「リリア様、私達もセーギ様とカーリ様に大恩があって共に行動させて頂いておりますが、ダンジョンマスターについての話はあまり聞いた事がありません。最近聞いた情報では、淀島、弦間、水元のダンジョンで戦闘があった事位……でしょうか」
誰しもが知っていそうな情報で返すのだが、この時のリリアとハシムの僅かな反応でハライチとミズイチは全てを悟る。
実際にレベル1の湯原と水野が、どう力を抑えてもある程度の強さであるとはわかってしまうレインやデルを従えられるわけがなく、結論はダンジョンマスターであると判断してこのような事を聞いているのだ……と。
そしてハライチの回答を聞いて、聞かれたくない事だと理解してこれ以上聞こうとはしていない事を……。