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「ここが水元のダンジョンね。確かに寂れていそうだけれど……」
「俺が思うに、前回の戦闘で確実に眷属はいなくなっている。何せ共闘した俺が言っているのだから間違いない」
三つのダンジョンの戦闘に巻き込まれていた岩本は、確実に水元と淀島の眷属もあの場で死亡していると知っているので、それ程の戦力を失っているダンジョンであれば脅威にはなり得ないと判断する。
「そっ。アンタがここのマスターと共闘していたの?なら情報は確実でしょうね」
三原は岩本の行動についてはあまり興味が無いらしく、自分の力を増加できるダンジョンマスターについて意識が向いている。
「早速行くわよ」
こうして共闘している二人の召喚冒険者である岩本と三原は、水元のダンジョンに侵入していく。
岩本の指摘通りに少し前の弦間との戦闘で眷属をすべて失ってしまい、更には弦間の裏に隠れていた神保の配下になっている。
あの戦闘終了直後にはコアルームに神保の配下であるゴーストが襲来して有無をも言わせず配下に入るはめになったのだが、今は神保の方で守りを固めるためなのか、ゴーストは撤収して代わりにレベル30のウルビアと呼ばれている狼の魔物が淀島と水元のコアルームに鎮座している。
相当力を失っているダンジョンマスターであり、得られた内包魔力は神保に強制的に徴収されるので真面にダンジョンを運営できていない。
そこに普通の召喚冒険者が来れば気が付くのだが、残念な事に今回の岩本と三原はダンジョンコアから作成した特別製の魔道具を装備しており、ダンジョンマスター側に一切の糧を与える事のない存在であるために認識される事は無かった。
28階層のコアルームにウルビアと共に存在している水元。
ウルビアが突然唸りだして警戒したので、唯一の出入り口に視線を向けると……
「アレが水元?」
「そうだ。俺が思うに、本当に力を失っているな」
良く見知った召喚冒険者である岩本と、同じ風貌で確実にレベル40を超えている召喚冒険者の女が立っていた。
「い、岩本。何をしに来たのかな?共闘した間柄だよね?」
こんな事を言ってはいるがどう見ても自分を狙っているのは間違いないと思い、助けを求めるべく転移魔方陣Cを使って淀島のダンジョンに飛ぶ。
この時水元は忘れていた。
神保のダンジョンから派遣されている魔物であるウルビアはレベル30であり、金目・金髪の召喚冒者はレベル40以上である事、そしてコアを破壊されればダンジョンマスターがどこにいようが死亡してしまう事を……
「淀島ジィ、あの岩本がもう一人の召喚冒険者と共に攻めてきたんだよ。ここも危ないかもしれない。急いで神保様に救援要請をして、以前のようにゴーストをコアルームに派遣して……」
突然現れて必死で叫ぶ戦友の水元の話を聞いている淀島は、水元が突然話を止めて倒れると風化して消えて行くのを目の当たりにした。
「こ、これは……コアを破壊されたようじゃの。確かに危険じゃ。この転移魔方陣を破壊せねばならんようじゃの」
戦友の死を悲しむ余裕はなく、岩本達がいる水元のコアルームに繋がる転移魔方陣Cを破壊するのだが、殆どの力を失っている淀島も破壊にはかなりの時間を必要とした。
その間にいつ岩本達がやってくるかと気が気ではなかったのだが、破壊されるまでその気配は一切感じる事がなかった。
「これで今すぐの危険は去ったが、危険な状態である事は変わらないのう。神保様に連絡を取らねば……」
淀島が必死で対策をしている頃……
「俺が思うに、流石は高レベルのマスターだな。レベルが一気に上がった。悔しいが三原にはかなわないが、俺が思うに歴代最強に近いのではないか?」
レベルが伸び悩んでいたのだが、43から一気に51に上昇した岩本と、
「そうね。アンタもそこそこ強くなったみたいね。これならばラスリ王国の軍隊込みであの腐れダンジョンを攻略できるでしょ?」
「俺が思うに、その通りだ」
会話をしながらだが、破壊したコアとレベル30の護衛の立ち位置にいたウルビアを収納袋にしまいつつ水元が逃亡した転移魔方陣Cを見つめている二人は、どちらともなく互いに視線が合う。
「私は行かないわよ。アンタが行きたいなら好きにすれば良いわ」
「俺が思うに、俺も遠慮しよう。少々転移には思う所があるのでね」
この二人が水元を追うような行動をせず、淀島を倒すチャンスをものにしなかったのは、湯原と水野のダンジョンでの転移罠を踏んでからの経験にある。
転移があの時の恐怖を呼び覚ましてしまうと考えていたので、どうしてもこの転移魔方陣Cに飛び込む事が出来なかったのだ。
淀島としては思わぬ二人のトラウマとも言える記憶によって、その命を繋げることに成功していた。
この行動全てが地中にいるチェーの分裂体に見られているとは知らずに……