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四人の召喚冒険者達は、精神的に大きく疲労した事もあって今迄得た金銭を使って馬車で美智のダンジョンに移動している。
馬車であれば30日弱必要になる道のりであり、到着する頃にはすっかりと気力・体力共に復活している。
「チッ、想像はしていたけど、湯原と水元がダンジョンマスター側だと言う事は確定した」
「吉川殿。自分、なぜこの短い期間であれほどの驚異的な存在を従えているのかが不思議で仕方がないのだが?」
「ささっちの言う通りだよね!私もちょっとびっくりしたよ。でもさ?わかんない事はいくら考えてもわからないから、目の前の餌をさっさと攻略しようよ」
「理沙の言う通りですね。ですが私はあの場での屈辱は忘れていませんよ」
最後の藤代 彩の言葉で全員の視線が厳しくなる。
まさか日本でもこの世界に来ても見下していた湯原と水野に手の足も出ずに床に転がされるとは思ってもいなかったのだ。
「力を得た後……あのダンジョンの攻略はどうする?1階層の町をチラッ見たけど、そうとう広大な敷地に住民が多数住んでいたな」
「自分、それこそコソコソ力を溜めようとしているあの二人の姑息な考えだと思う。自らの立場を今一度きっちりと教え込むのが良いと思うのだが?」
この会話も全て拾われているのだが、調子が戻ってきた四人は止まらない。
そのまま休息を挟んで美智のダンジョンに準備万端で侵入するのだが……当然転移魔方陣Cによって全ての状況が美智とこのダンジョンに住む美智の妹である朋美に展開されている。
「朋美、どうしましょうか?」
22階層のコアルームでは、朋美がお菓子を摘まみながら寛いでいる。
「え?お姉ちゃん。別にほっとけば良いじゃん?召喚冒険者がいれば、もう仲間認定されている私と違ってレベルも上がるし、良い事尽くめだよ?」
「そうですが、何時どのように排除しようか考えると、難しい所です」
召喚冒険者四人が侵入しているのに排除する手法については一切心配していない二人の視線の先には、レベル77に引き上げられているマンティスとレベル99に引き上げられているゴーストが複数体いるのだ。
もちろん転移魔方陣Cによって湯原と水野が送り込んだ魔物であり、朋美や美智の指示があれば四人の侵入者を即始末する事も可能な力を持っているのだが、今の所は指示がないので黙って動かない。
そもそも四人の侵入者に対しては侵入されているダンジョンマスターに対処する権利があると考えている湯原と水野は、どのように処置するのかを全て美智に一任している。
「確かにそうかもしれないけどさ?あんまり悩むとシワが増えるよ?お姉ちゃん!」
「あっ!朋美!!気にしている事を!」
以前ゴーストが侵入して死を覚悟した時とは異なって軽口をたたき合えるほどの余裕がある二人は、侵入者である四人の召喚冒険者の状況を把握し始める。
「魔核には目もくれていませんね。どう考えても私狙いでしょうね」
「確かに。きっと急がないと糧になると思っているんでしょ?私に言わせれば、命を取るつもりで来るならば、取られても文句は言えないと思うけど。対応はお姉ちゃんに任せるよ。私はどんな結論でも反対しない!」
朋美の言葉を聞いた美智は、自分の考えだした結論を話す。
「あの四人は、セーギさんとカーリさんと同じタイミングで召喚されたのですよね。だとすれば勝手に私達が手をかけるのもどうかと思いますので、命を取る事まではしません。ですが、調子に乗って再び襲い掛かってきたり、セーギさんやカーリさんに迷惑をかけるのも違いますので、二度と歯向かう気が起きない程の恐怖を与えて終わりにします」
「良いんじゃない?私もそれが良いと思うよ、お姉ちゃん」
笑顔で美智の決断を支持する朋美。
「ありがとう。では皆さん、私の希望通りにお願いできますでしょうか?」
「承知しました。全てお任せください、美智様」
レベル99であり自我のあるゴーストでれば自らの意思で動く事が可能なため、他のダンジョンにいようが詳細な指示を元に活動する事が可能だ。
レベル77のマンティスは少々厳しいが、そのあたりの指示はゴーストが直接指令を出すので全く問題ないためにこの場から即座に消えて行く。
「やっぱりとんでもないよね。今の私でも全く動きが見えないもん」
その動きを見て思わず口にしてしまった朋美の呆れたような声が非常に印象に残る。
四人の冒険者に厳しい処置を行うように指示を受けたマンティスとゴーストは、殺気を隠さずに一気に22階層のコアルームから5階層まで移動する。
あまりの殺気が急激に自分達に迫ってくるので、5階層のとある場所で休憩をしていた四人はそれぞれ武器を構えて殺気が溢れている方向に視線を向けるのだが、この短い時間で殺気が一気に強大になり、湯原と水野のダンジョンでの経験を思い出してしまう。
もちろんレインやチェーの殺気に比べれば可愛いものだが、レベル99に底上げされたゴーストやレベル77のマンティスの殺気になっているので、彼等四人の苦い記憶を呼び覚ますのは容易かった。
この時点でガタガタ体中が揺れて立っていられなくなっている四人は、その恐怖故に全身のありとあらゆる部分から水分をまき散らしていた。




