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謎の侵入者に対して対処すると言い切った妹の朋美を見る、ダンジョンマスターである姉の美智。
「それは出来ないわ。どう見ても格上。全眷属を一気に出して、自然族の力で階層全体を草で覆い、その草の動きで感知するしかないわね」
「お姉ちゃん。勘違いしているよ。申し訳ないけど、いくらレベルが上がったとは言え、格上がいるのは嫌と言う程理解しているから。ここは、前に話した二人に相談するのはどうかな?ちょっと重い話になって申し訳ないけど、お姉ちゃんの命には代えられない」
懐から一枚の紙をヒラヒラさせる朋美。
以前湯原と水野のダンジョンに滞在した際に貰った紙であり、イルーゾ特性の通信用のこの紙に何かを書き込めば、同じ文字が湯原達の持っている紙にも浮かぶと言う優れものだ。
「でも、私達の住処の事でご迷惑をおかけするわけには……」
「そんな事を言っている余裕はないでしょ?死んだら終わりなんだよ?お姉ちゃん!」
言われている朋美も申し訳ない気持ちはあるのだが、自分はどうあれ、姉には死んでほしくないのだ。
「……わかりました。ですが、私達で対処できる事は全力でしましょう。幸か不幸か、内包魔力は一気に増え続けていますからね。どう見ても相当格上の者が侵入している証明になっているのが悲しいですが……」
美智の予想通り、数が少なくなったレベル80のゴースト一体を神保が偵察に差し向けたのだが、そのゴーストは可能であれば周囲の戦力もそのまま保持した状態にしておくように指示を受けているので、眷属達や召喚魔物は瀕死の重傷まで行く可能性は高いが、死亡する程の脅威には晒されないだろう。
いくらレベル48のダンジョンとは言え最高戦力の眷属は鳥族のレベル48……これでは召喚魔物とはいえレベル80のゴーストには手も足も出ない。
「時間もなさそうだし……」
全22階層のダンジョンではあるが、相当な勢いで侵攻しているのは容易に想像できるため、慌てて紙にかいつまんだ事情を書き始める朋美。
その説明が書き終わる前に、紙から文字が浮かぶ。
『直ぐに助けに向かいます。敵はゴーストが想定されているのですよね?であれば、こちらもゴーストで対抗させますので、30分程持ちこたえて下さい』
馬車で40日程度必要になる距離があるのだが、30分で到着すると言う。
未だ助力をお願いする文面まで書き込めていない内に向こうからの申し出があり、感謝の気持ちが溢れると共に、指定の30分は何としてもこのダンジョンを守り抜くと決意を新たにする朋美と美智。
美智は湯原と水野の事は妹の朋美から聞いただけなのだが、妹がこれだけ信頼している相手なのだから信じる事にし、迎撃ではなく防衛に力を注ぐ事にする。
想定では5階層程度進んでいると判断し、6階層から10階層までを内包魔力をふんだんに使用して侵入者の存在をあぶりだす事にした。
ある階層では煙、霧、草木、強い光、あぶり出しが出来そうな設定に変更したのだが、残念ながら6階層だけは吉川と笹岡が侵入していたので変更する事は出来なかった。
それ以外の階層の設定を終了し、更には複雑な経路にする事で侵攻速度を遅らせようと企む。
「どうせなら、あの二人と謎の侵入者が潰し合ってくれれば良いのですが……」
思わず本音が漏れる美智だが、そうは美味く事は運ばない。
吉川と笹岡は襲い掛かって来る魔物を難なく始末しながら進み続けているし、今の所謎の侵入者の痕跡すら掴めない。
その頃の湯原と水野のダンジョン最下層では、紙に浮かび上がった文字を見ている二人のダンジョンマスターが血相を変えてハライチとミズイチを呼び出し、呼び出された二人も即座にゴーストレベル99を10体派遣する事を進言して実行していた。
実は返事を書いている最中に既にゴーストは出撃していたりするのだが、その一体は転移魔法陣Cを一つ持ち運んでおり、許可を取った上で適当な場所に設置してもらおうとハライチとミズイチの判断で渡されている。
「主様、カーリ様。今後追加の支援対策の為に、ゴースト一体に亜空間に保存している転移魔法陣Cを持たせました。事後承諾で申し訳ありません」
「いやいや、流石だよ、ハライチ。ありがとう」
「素晴らしい判断ですね。私はアワアワするだけで、何もできませんでしたから……凄いです。これからも宜しくお願いしますね、ハライチちゃん、ミズイチちゃん」
今迄に得られた情報では敵は恐らくゴースト、それも神保のダンジョン所属のゴーストである可能性が高いとの事だが、他の魔物であった場合の対策の為に、各種召喚魔物をゴーストが守っている40階層に集合させると共に、湯原と水野も移動する。
そこには、ハライチとミズイチの指示によって集合している魔物が整列していた。
全てが人型の魔物であり戦闘には三種族が並んでおり、召喚初期の状態は……
マーリ レベル91 水に関する各種耐性を持ち、水に関する各種攻撃が可能
グリア レベル92 炎に関する各種耐性を持ち、炎に関する各種攻撃が可能
ブリース レベル91 風に関する各種耐性を持ち、風に関する各種攻撃が可能
となっており、普通のダンジョンマスターでは召喚する事が出来ない魔物ではあるのだが、このダンジョンに配置されているこの魔物達は、三種の魔物全てがレベル99にまで引き上げられている。
ハライチとミズイチを始めとした眷属や配下の魔物達の強い願いもあり、湯原と水野の安全の為にそうなっている。
「ここまで揃えれば、何があっても大丈夫だと思いますが……」