\\\ジェロニモ\\\
ジェロニモは目を覚ました
夜だというのに明るかった。
見慣れない石の上だった。不自然に平べったくて、草も生えない広い空間が鉄格子で囲われている。
鉄格子から下界を見下ろす。キャンディーのように色とりどりの光が町に広がっていた。建物はどれも石や鉄で出来ているようで、彼の見知っている木や布や藁や泥で作られた家はどこにも見あたらなかった。
白人だ。白人がこんなことをしたに違いない。
いつの間にやったのだ。我々アパッチを迫害して、いつの間にこんな勝手な開拓を。
ジェロニモは自分の右手を見た。そこには勇ましきトマホークが握られている。
これで白人どもの血を吸うのだ。大地の精霊が彼に命令した。吸って、吸って、吸いまくるのだ。
ジェロニモはビルの屋上から飛び降りた。
ずん!
と地響きを立てて勇者が地上に舞い降りた。
町行く人々はちょっと驚いてジェロニモに注目する。
「何あれ?」
「映画の撮影?」
「筋肉ムキムキだよ」
「ボディーペイントすげーな」
「ちょっと大丈夫? 斧みたいなの持ってるよ?」
「デカすぎね? 小道具じゃね?」
自分を見て口々に軽口を叩く白人どもに、ジェロニモは憤怒した。
巨大なトマホークを月に掲げる。その怪力はバファローに匹敵する。その身体能力はコヨーテを凌ぐ。
見渡す限りの白人の首をはねてやる。
不自然でチャラチャラしたこの町の景色を、血の赤一色で染めてやる。
ジェロニモは弧を描くようにトマホークを振り、駆け出した。
まず最初に血祭りにするため一組のカップルに突進したが、それはたまたま2人とも白人ではなかった。
「ウォッ!?」
男のほうが声を上げた。
日本から来ていた観光客のキンタくんであった。
「なんだこいつ!?」
もう1人の女性も日本人で、社長令嬢で太めの29歳、名前はヒメであった。
ヒメはキンタにつかまり、叫んだ。
「キンタ! まもって!」
キンタは雄叫びを上げた。
胸に男の炎が燃え上がった。
「おまえらは……もしや、アパッチか?」
自分とよく似た人種的特徴をもつ顔の2人にジェロニモの動きが一瞬、止まる。
キンタはそれを見逃さなかった。
ヒメに言われた通りジェロニモの
キンタまもった。
ジェロニモは腰に獣の皮を巻きつけているだけで
ぱんつをはいてなかった。
キンタの手は直接二つ玉をとらえ
握り潰そうとしたが
日本人の優しさがそれをしなかった。
キンタはもんだ。
優しくそれをもんだ。
腰に来るようなバイブレーションに
ジェロニモはたちまち賢者モードに入った。
血は一滴も流れなかった。
大人しくなったジェロニモは、キンタに名前を聞くと、勇者と認めた。
固く握手を交わしながら、ジェロニモが笑う。
「勇者キンタよ、素晴らしい手つきだった! おまえにすっかり癒されてしまった。ところでおまえはアパッチなのか?」
キンタは答えた。
「日本人だ。日本人は世界一優しい種族だ」
「ニホンジン……。初めて聞く種族だ。覚えておこう」
そしてヒメのほうを向き、
「いつかこの世界を救う一族がいるとすれば、それはおまえたちニホンジンだと思う。頑張れ」
「頑張ります」
キンタは誓った。
「世界とかどーでもよくね?」
ヒメはTikTokの撮影をしながら鼻で笑った。
「では、さらばだ!」
そう言うとジェロニモは、エンパイヤステートビルを故郷の峡谷と勘違いしてそこへ帰って行った。
なんだこれ