幕間 勇者は会いに来て
小刻みに揺れている馬車の中でぼーっとしていた。
ようやくの事で大好きな人を迎えに行ける。そう思って今にもはしゃぎまわりたい気分で生まれ故郷に向かった。しかし、彼は少し離れた町で冒険者になっているらしい。村の人にそう聞いたのだから間違いはない。
勇者になってから日々は日を追うごとに辛くなっていった。色仕掛けをしてくる貴族や商人の嫡子や王族からの期待。精神への負担が途方もなく何度故郷に帰りたいと思ったか。
だけれど今まで頑張れたのはあの人を迎えに行くと約束したから。
それに他の皆も頑張っていたから私も頑張れた。そして今までの功績が認められて約束が果たせる日が来たんだ。
「おい、起きているか?」
眠くなった私を起こす声が聞こえた。瞼を開けると村からの付き合いがある友人、マーク・リジリオスがいた。
「うん、起きた。何かあった?」
「街に着いたぜ」
「本当っ!」
なんと、気が付いたら街に着いていたらしい。やっとだ、やっと会える。そう思っているといつの間にか馬車を飛び出していた。
「お、おい。待てって!」
「彼女が待つ分け無いでしょう、私も行きますかね」
「お前も行くのかよ、グレン!」
「……」
「無言で行くのはやめろぉ!」
なんか叫んでいるなと思って後ろを向くとグレンさんとユーランちゃんもこっちに来ていた。
あの二人は彼の血のつながった家族だ。まあ当然かと思って再び足に力を入れ走った。
◇
「すみません、ジンさんはダンジョンで行方不明で……」
心底、申し訳ないとばかりに頭を下げてくる受付嬢。薄っすらとグレンさんとユーランちゃんから殺気が漏れている。
私はそれを軽く宥めてから同席しているギルド長に話を聞いた。
「これについて何かありますか、ギルド長」
「……すまない。これしか言えん俺を責めてくれて構わない。もっと、あいつの事を気にかけていれば」
ギルド長から出た気にかけているという言葉に目を丸くした。ギルド長は冒険者の間では中立の立場のはずだから。
どういう事だと問い詰めるとギルド長曰く、
彼がいたパーティーは悪い噂が絶えなかったらしく酷い扱いを受けていたらしい。入った時は普通の扱いだったはずで優しいパーティーで有名だったから、でも一年と半年前から変わった。だからギルド長が気にかけていたと。
嘘は言っていない。スキルでそのあたりは大丈夫だ。しかし、それでも腹が立つ。なんでとも思うしそのパーティーに対して殺気が溢れ出るようだ。
私はもうその場に長居したくなくて一言つげてから離れた。
そしてギルドを出て、彼が行方不明になったダンジョンへ歩いて行った。村のときから一緒だった皆は落ち込んだ表情でついてきた。