心のおとしもの
竜頭蛇尾になってしまった……頑張っていたんだ途中まではそんな作品ですがよければ
21回目を迎える春のある日、僕は心に溜まった"何か"と向かう決心をした。
誰に話すわけでもない、ただの自問自答。
鬱憤なのか落胆なのか、はたまた静かに募らせた嫉妬かもしれない。心に溜まった"何か"は自分でも形容ができない不定形な感情の坩堝からなる答えのない"何か"なのだ。
人生に疲れてしまったのかもしれない。心に余裕がなくなると、不安な部分が大きくなって気持ちが沈むとか何かの番組で言っていた気がする。
別に沈んではいないけど、溜まった"何か"を整然してから形を与えて心からポイしないと心が逼迫してしまう。いいや、既に今がそうなのかもしれない。
ぼーっとしてすっきり心をリセットしよう。そしたら映画を見て感動が全身から溢れるくらいにワクワクして小説を読んでドキドキしよう。
そんな先の事ばかり考えて、肝心な問題には中々足を踏み入れられずにいた。きっとそれが今まで向き合う事から逃げた理由なのかもしれない。
まだ桜の陽気が抜けきらない公園。
木漏れ日を浴びながら薄紅色が広がる足元をぼんやり眺めながらベンチに腰掛けた。
いつからだろうか、人生がつまらなく感じ始めたのは。
学生の時も社会に出てもそうだ、決して退屈ではなかった。
恋人がいて、成績も普通でそれなりの青春は送れていたと思う。
社会人でも空気を読んで仕事と人間関係をうまく立ち回っていたはず。
でもずっと何かが足りないと感じていた。個性が無くて奇抜ではない平凡の型に収まっていたことが不満だったか、変われないことに嫌気がさしていたか。
少なくともこれが自分の物語と論ずるにはあんまりにも凡百の一つでありきたりだった。
小説や映画の世界のような"君だから"なんて言ってくれる登場人物はいない。
現実はもっと冷酷で、噛み合う事のない歯車がひたすら個人の秒針を刻むだけの連動性も協調性もない薄情そのもの。
結局何と向き合うことが正解なのだろうか。
別に正解なんて欲しくなくて、これが自分なんだと誇れる人生にしたかったのではないかなんて思ってみたりもする。
延々と考えを巡らせていたら、先ほどまで晴れていた空は誰かの心情と共鳴するように曇り始め、ポツリポツリと雨を降らせ始めていた。
思い付きでこんなところに来ているため、天気予報知らないし当然手ぶらだ。
でも、たまにはこんな雨の日を満喫するのもいいし、屋根のあるベンチまで移動して雨が止むまで待つことにした。
どのくらい時間がたっただろうか。
心地よい雨音が響き、雨の匂いが辺りを包む。
辺りが淡い水色のモノクロームで彩られ、連続する雨垂れが世界を切り取ってしまったかのように隔絶している。
「……雨止みませんね~」
不意に背後からかけられた声に振り向くと、背向かいに雨空を見上げている女性が座っていた。
多分同じように雨宿りをしていたのだろう。考え事をして惚けいたせいで気づかなかったが、女性は雨に濡れていないのを見るにずっと前からいたようだ。
「あっ、別に深い意味はありませんよ?ただ止みませんねって」
「そうですね、ずいぶん長く降ってる気がします」
「まだ1時間も経ってないですけどね」
女性は柔和な視線を僕に移しながら、小さく「ふふっ」とはにかんで次の言葉を継ぐ。
「雨は……好きですか?」
「……好きならきっと、今雨の中唄ってますよ」
なんてことない質問に僕はちょっと意地悪な返答をする。彼女の纏う雰囲気はとても明るくて、自分を浮き彫りにされてしまいそうだ。
「随分ひねくれてますね」
「はっは、言われます。お姉さんは雨は嫌いですか?」
「うーん……、嫌いなら雨を止むまで待ったりしませんね」
女性は僕の質問に少し困った様子で思案しつつそう答えた。彼女も大概でよくわからない回答で返してきた。
「「……」」
お互いよくわからない返答してしまったため、会話の切り口が切れてとても気まずい雰囲気になってしまった。このまま雨が止むまで無言の時間になってしまったら厳しい。
「……あ、
「何か話しませんか?暇ですし」
「そうですね、暇ですし」
空気に耐えかねてお互いに堰を切ったが彼女のほうが早かった。だが何を話すべきか。
「どうしましょう、手始めに最近の悩みなんてどうでしょう?」
「初対面でも事欠かない話題ですね」
「無難でいいでしょう?」
「中身のないスッカスカの人生が悩みです」
「拗らせた社会人の鏡のようですね、社二病ですか?」
「褒めないでくださいよ本気のお悩み相談ですよ」
「そんな悩みが出ること自体幸せ。これで解決ですね!じゃあ次私の悩み相談を」
「雑じゃありません?盛大な前置き無駄になりましたよ」
「私の悩みはですね、人生がつまらないです」
「無視ですか!しかも僕とどっこいどっこいのしょうもない悩み!社二病ですか?」
「そんな褒めないでくださいよ、お互いに拗らせアホってことが証明されましたね」
「もっと大人な対応してくれると思ってました」
「大人なんて感情を抑制された社会の部品ですよ、何を期待したんですか?」
「こう、カタルシスを得られる……素敵なお姉さんとの出会い~the青春みたいな」
「現実と虚構の区別がつかないと将来苦労するって聞きますよ」
「そっくりそのまま言葉を返すわ、お互いに何を望んだの!」
「どうせお互いに素敵な人生が欲しいとか夢見がちなこと思ったんでしょう?」
そんなくだらない話を続けて雨がやんでも僕らは話を続けた。
この終わり方でよいのだ。中途半端かもしれないけど文句は言わせない