七不思議じゃ終わらない
二話同時投稿です。
「え~っと……。後は何があったかな~」
目の前にいる女はそう言いながら唇に人差し指を当てて空中を見た。
勿論、そこに何かいるわけではなく、何かを思い出そうとしているのだろう。
どの学校にも一つや二つぐらい怪談と呼ばれるものがある。
この学校もオカルト研究部という怪しげな部活が存在してしまうぐらいには生徒たちも怖い話や不思議な話が好きなようだ。
だが……。
「多すぎだろ、この学校の怪奇現象。七不思議どころの話じゃねえぞ」
オレは目の前にいる同じ年とは思えないほど背の低い女、「坂口 やよい」が満面の笑みで語り続ける話を聞きながら、思わずため息を吐いた。
「そう言われてみると……そんな気がするね。でも、不思議なことに、まだあるんだ、コレが」
一体、幾つ、この学校に伝わる本当の話とやらを語れば気が済むのか。
「やよいは本当にこういった話が好きねえ」
近くにいる背の高い女、「耳川 サツキ」が呆れたように言った。
やよいと並ぶとかなりの身長差がある彼女は、漫画とかなら同性にモテそうな顔だが、残念ながら運動神経が壊滅的に鈍い。現実は甘くないのだ。
さらに、オレは知っている。彼女ができるだけ話に集中しないようにしていることを。
「セツ、さっきの話でいくつぐらいだ?」
オレは横に座ってニコニコと笑顔の眼鏡、「水無月 節」に聞いてみる。
オレはいちいち覚えちゃいないが、この男、セツは何故かノートパソコンにやよいから聞いた話を打ち込んでいたのだ。
何でも、いくつぐらいあるか知りたいという好奇心かららしい。
「先ほどの話で13話目だよ、睦月くん。確かに七不思議は越えているね」
「つまり、この学校は選ばれし学校ってことだね!」
セツの言葉に、何が嬉しいのか、やよいは興奮して立ち上がった。
だが、背が低いために、立ち上がっても椅子に座っているセツやオレとそこまで高さが変わらない。
それでも、この女の凄い所はそんなことを気にしていないのだ。オレには理解できない。
「そんな特別扱いで嬉しいの?」
サツキはそう言うが、目は泳いでいる。どうやら、怖い話は本当に苦手なようだ。
「嬉しいじゃない! 不思議! 最高!!」
さて、興奮しているやよいはこのまま暴走させておこう。暫く発奮すれば落ち着くだろうから。
この学校では、最近、学校に関する不思議な話というヤツが流行っていた。
いつから流行りだしたのか、誰が話し始めたのかは分からない。だが、気がついたら学校中に広まっていていたのだ。
「そんなに怪談好きなら、お前ら、二人ともオカ研にても入ったらどうだ?」
「ん~。オカ研はなんか違うんだよね~」
「僕はこれら話を纏めたいだけで、その噂が真実かを追究したいわけではないからね」
やよいは首を捻り、セツは微笑んだ。正直、この二人のこだわりポイントが分からん。
「それに……、さっきの、13話目? アレはなんだ? PC教室に出てくるヤツ!」
「ああ、『紅い瞳の悪魔』の話? 確かに少し不思議なんだよね。これだけ少しばかり方向性が違うというか……。怪奇現象もすっかり情報通信技術化したのかな?」
セツは、先ほどやよいがした話を確認しながらも笑みを絶やさない。
「でも、電話やテレビにも怖い話って結構あるよ? だから、電子の世界にあっても全然おっけ~!」
確かに都市伝説にも電話やテレビの話はある。
だが、オレが言いたいのはそこじゃなかった。
「なんで怖い話、不思議な話の中に悪魔を召喚する方法が紛れ込んでるんだよ?! しかも、条件が謎すぎる!!」
「いやいや、ゲームの世界には珍しくないよ。悪魔召喚プログラムとか、データ化して保存できる話も……」
「ここは現実だ!」
やよいの話は現実と空想世界をごちゃまぜにしすぎていると思うのはオレだけか?
「確か……『異世界に繋がりし、四つの魂を持って十字の中心に立て。さすれば、鏡面より出でし、紅き瞳を持つ悪魔が……』」
「だ~!! 宗教ごった煮ににも程があるっての!! ゲームか? 漫画か?! 厨二病か?!」
そんなオレとやよいを見ながら、セツも真面目に答えようとする。
「え~? 結構、面白そうだけど~」
「お前は黙れ」
「やよいさんは好きそうだよね。異世界とか、鏡面とか。『さすれば』という表現も、結構ツボじゃないかい?」
「そう! 『さすれば』大事! 『そうすれば』じゃダメダメなの!!」
「勝手にさすっとけ。お前の主張は常にわけが分からんわ」
幼馴染で、10年以上の付き合いがあっても未だに理解できない。性別の違いとかそんな問題じゃない気がするのはオレだけじゃないはずだ。
「あたしは、幽霊とか見たことがないからそういうのって信じられない。話としては面白いと思うんだけどね」
ウソつけ。さっきからやよいが話すたびに落ち着きがなくなっているクセに。これが笑顔で楽しそうに語るやよいの話じゃなかったら、とっくに悲鳴をあげてただろうが。
「面白いだけで十分だよ、サツキちゃん。付き合ってくれてありがとね」
「サツキさんは幽霊否定派?」
「否定って言うか、見たことがないものを信じられるほど純粋じゃないだけ。サンタクロースとかもそうでしょ? ま、まあ……、見れば信じちゃうかもしれないけど……」
セツの問いかけに、しどろもどろになるサツキ。嘘を吐くつもりはないけれど、隠したくもあると言う複雑な心境のようだ。
「一説によると、もともと霊は見えないものらしいよ。彼らと僕たちの世界はずれて存在している。だから、そこにいるのはなんとなく感じることができても、その姿を見ることも、触れることも、声を聞くことも、話しかけることもできないという話」
セツは笑いながらそんなことを言った。こいつはやはり、オカルト研究部向きだと思うのだが。
「でも、何かの拍子で繋がってしまえば、その存在を知覚できるようになるかもしれないね」
「オカ研が聞いたら狂喜乱舞しそうな話だな。繋がる方法とか探しそうだ」
どうやれば繋がるかは知らんがな。
「そう言えば、オカ研は大人しいわよね。噂が流れ出した時はかなり賑やかで、校舎を走り回っていた気がするんだけど」
サツキの言ったとおり、少し前まではインドアのはずのオカ研メンバーたちが学校内のあちこちを走り回っていた気がする。
でも、結局、噂は噂でしかなくて、諦めたのだろうな。調べれば調べるほど現実ってやつを思い知ったことだろう。当然だが。
「案外、この噂もヤツらが流したんじゃねえのか?」
そう考えれば納得できる部分もある。ある程度、噂が定着したから大人しくなったとか。
部員集めの一環かもしれんな。部員が増えたかどうかまでは知らんが。顧問は止めて差し上げろと言いたい。
「ん~? 彼らがそんなことするかなあ? 自分たちでこっそり霊と接触して楽しむタイプが集まっている気がするよ」
「さすが、同類だな」
「同類って言うな。彼らとわたしはそれこそ、住んでいる世界が違うの! わたしが好きなのは幽霊よりもファンタジー! 剣と魔法! 異能力! 異世界転生!」
「悪い。オレには違いが分からん」
「非現実という意味では同じ気がするんだけど……」
「夢を見るのは自由だから良いと思うよ。やよいさんは誰かに迷惑をかけているわけじゃないからね」
オレとサツキより、何気にセツが一番ひどいことを言っている気がするのは気のせいか?それに……。
「オレは十分、迷惑してるんだが……。朝から円卓の騎士の話とかどんな話題チョイスだよ?」
「幽霊よりは良いとあたしは思うんだけど……」
「幼馴染なんだから、ちょっとぐらい、わたしの熱き魂の叫びを聞いてくれても良いでしょ?」
「お前のその熱き魂とやらでこのオレの全身を焼く気か?」
あの時までは本当にいつもと変わらない日々の続きだった。
やよいがどこか明後日の方向の話をして、それにオレが突っ込みを入れ、その状況を見てサツキが呆れ、セツが微笑む。それがオレたち四人の日常だった。
今でも思う。もし、あの時、もう少しだけ何かが変わっていたらどうなっていなのだろうか、と。
だが、今更遅いのだ。
オレたちは既に、あの世界に足を踏み入れてしまったのだから。
二話同時投稿です。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。