表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/18

基本は探索

 目の前には、四角いボタンに数字が付いた電卓みたいなものがあった。それが、職員室入り口ドアの近くの壁に張り付いている。


 いつもなら、見落としてしまいそうな存在。だが、今は、携帯電話の明かりと言う仄かな光の中で、その存在感を示していた。


「何桁の数字だ……?」

 数字表示部分には、何も出ていない。


 せめて、桁が分かれば……、0から9までの数字を適当に試せば……、何通りかで当たるかもしれないのに……。


「ムツキ、ムツキ……」

 考え込んでいるオレの下から、やよいが覗き込むように声を掛けてきた。

「なんだよ? 考えていたのに」

 オレが、やよいを見ると、彼女は笑顔で、職員室の扉に手をかけ……、横に引いた。


「扉、()いてる」

 そんな言葉と共に、独特の引き戸の音がして……、職員室の扉は開かれた。


「ああ、電源が入ってなかったの。だから、ボタンを押しても反応しないし、数字の表示もなかったのね」

 サツキが電子キーに触れながら、そんなことを言った。既に、いくつか試しで押していたらしい。


「なんじゃ、そりゃああっ!!」

 夜の校舎に響く自分の声の大きさに驚きはしたが、そんなことはこの際、どうでも良い。


「セツ!! お前、これを知っていたのか!?」

 オレは、後ろにいた男に呼び掛ける。

「い、いや……、流石にこれは予想外だったよ。教室の電気は普通に付いていたからね」

 オレから大きな声で問いかけられたセツは、困ったように笑いながら言った。


「ただ、ボクたちの記憶と、ノートPCの中に残っていた記録。それを考えれば、ボクたちは、いずれ、そこに行くことになる。だから、PC教室に行くためには、今すぐには入れなくても、いつかは開くと思っていたよ」

 セツはここに来た理由を語ってくれたが……。


「PC教室だけ開いているというパターンもあるぞ?」


 どちらかと言えば、そちらが濃厚ではないだろうか?

 わざわざ、PC教室に入るために、職員室に来るという発想は、少なくともオレにはなかった。


「……ああ、それは考えなかった」

 頭が良いヤツって、時々、妙なルールに当てはめようとするよな。もっと、楽に考えれば良いのに。


「セツにしては、なかなか行き当たりばったりな計画だったんだな」

 オレが職員室に入りながらそう言うと、セツはどこか照れくさそうに笑いながら……。

「ボクはここのパスコードを知っているから、なんとかなるとも思っていたよ」

 と、なかなかとんでもない発言をぶちかましてくれた。


「……なんで、知ってるんだよ?」

 つまり、職員室の鍵……だよな?

 教師ならともかく、一般的な生徒であるはずのセツがなんで知っているんだ?

「知りたい?」

 オレの質問に対して、いつものように笑顔で答えるセツ。


「い、いや……、やめておく」

 なんとなくだ。なんとなく聞かない方が良い気がしたのだ。


「ムツキ、セツ君。職員室(ここ)にはあのモヤモヤしたものがいないみたいだよ?」


 やよいの声がしたので、オレは、改めて職員室を見る。

 確かに、彼女が言ったとおり、赤いのも、黄色いのも、青いのすら見当たらない。


「そ、それなら、電気を点けても良いものかしら?」

 サツキが恐々尋ねる。


 確かに、モヤモヤしたヤツがいないなら、電気を点けても大丈夫だろう。いきなり、現れるモノでもない限りは……。


「アイツらがいないなら、大丈夫だろう。セツの携帯バッテリーも、無限ってわけじゃねえからな」

 頼っている手前、少しでも節約しないといけない。


「ムツキ、ムツキ!」

 やよいが突如、叫んだ。

「アレ、アレ! 何だと思う?」

 それは、どこか興奮したような口調だった。

 まるで……、犬に餌を与える前のような……?


 やよいが指で示した方向に顔を向けると、黒板があった。その上にある時計はやはり、1時を差している。

「やっぱり、ここも13時かよ」

 オレは苛立ちを押さえられなかった。


 この世界が何なのかは未だによく分からないが、オレたちをここに送り込んだヤツは今頃、ほくそ笑んでいることだろう。オレたちの足掻きを無駄なものだと思っているかもしれない。


時計(そっち)じゃなくて、その下!」

「下ぁ?」

「黒板の中央!」

 やよいに言われるまま、目線を黒板の真ん中にずらすと、そこには信じられないものが存在した。


 書道の時間に使うような白い半紙に、よく分からない曲線や図記号が並んでいる。それらは、墨のようなもので書かれていた。


「ひっ!」

 サツキの息を呑む気配がする。

「お(ふだ)だよ、お(ふだ)!」

 こんな状況でこれを見て、興奮できるやよい(この女)の神経は荒縄でできているのだろう。

 この場合はどう考えてもサツキの反応が正常だとオレは思う。


「本物かなあ?」

 室内が明るくなったせいか、やよいの明るさも増してしまったように見える。困ったものだ。


「本物かもしれないね。ここにあの炎のようなモノたちがいないのもそう言った理由かもしれない」

 セツも興味深そうに札を見ている。よくそんなよく分からないものに近づけるな、と感心してしまった。


「外しても良いかな?」

 そんなやよいのとんでもない提案に……。

「やめて!!」

 サツキは叫び……。

()めろ、バカ。明らかに死亡フラグを立てるな」

 オレは慌てて止めた。


 セツが止めなかった辺り、その心境は、やよいと同じだったのかもしれない。


「うぬぅ……。手に取って、もっと近くで見たいのに。このうねっている文字とか、よく分からない記号とか、日本語っぽいけど、どこか違う文字とか。こんなの初めて見るよ」

 やよいは諦めきれないようだ。油断すると、剥がしてしまうような気がするので、注意深く見張っておく必要があるだろう。


「えっと……、鍵は確かこっちの壁にキーボックスがあって……」

 セツが、ロッカーの近くで隠されているような場所にあった鍵の箱を見つけ出す。

「なんで場所まで知ってるんだよ?」

 そんなオレの問いかけを無視して、セツはその箱を開ける。その箱自体に鍵はかかっていなかったらしい。


「これが、一般棟のマスターキーと、専門棟のマスターキー。他には部室棟や、それ以外の独立した場所の鍵も借りようか」

 ごく自然に、それらしき鍵を取り出していくセツ。


「だから、なんで、その鍵を知ってんだよ!?」

「ムツキ……。セツの言動を深く追求しても無駄だと思うわ」

「マスターキーがあるなら、ホラーゲームみたいに一つずつ鍵を見つけ出す必要がなくて、楽だから良いんじゃない?」

 オレの更なる問いかけは、そんな言葉によって効力をなくしてしまった。


 確かに、鍵があって助かるのは事実だし、一本で複数の扉を開くことができるマスターキーがあれば、持ち歩く数も少なくて済むのだが……。どうも、どこか納得できないものがあるのはオレだけなのだろうか?


「でも、せっかくだから、この職員室を探索しようか? ホラーゲームのお約束だよね」

「だから、ゲームなんかと一緒にするなよ」

 やよいの言葉に呆れながらもそう答えたが……、確かに職員室を、教師の目も気にせずうろつける機会なんてそう多くはないだろう。


 オレたちはそれぞれ、適当に探し始めた。


 鍵と違って、具体的な目的などはなかったのだが、それでも少しでも何かをして気を紛らわせたかったのかもしれない。


「懐中電灯、発見!」

 やよいが嬉しそうに言った。

 懐中電灯のスイッチを何度もオンオフさせて、遊んでいる。

「勿体ないことするなよ」

 だが、セツの携帯よりは明らかに証明の範囲が広い。しかも、ランタンのような形をしている。


 その形状は、あまり見回りに向く形ではない気がするが、周囲を明るくさせるなら、全方向を照らせるこちらの方が良い気はした。


「電池は単1だね。それなら、ここに新品があったよ。使用期限も大丈夫そうだ」

 セツが、様々な未開封の文房具が入っている棚から、電池を発見した。単1だけではなく、その他の種類の電池もある。


 別の場所から、サツキが「非常用持ち出し袋」と書かれた袋も見つけ出したため、装備としてはかなり充実したものとなった気がする。

 少なくとも、先ほどまでの頼りない自分たちと比べれば、妙な安心感も得られたことは間違いないだろう。


 もっとも、そんな単純な気持ちは、アイツに出会うことで、完全に吹っ飛んでしまうのだけど。

ここまでお読みいただきありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ