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人ならざる者

「キミに与えたその瞳は、ただの人間(ヒト)の身には、余るものだよ」


 オレの目の前にいるモノはそう言いながら、ニヤリと不気味な笑みを見せた。

 人間の形をしているけど、人間ではない存在。それが、何故、今、オレの前にいるのかは分からない。

 コイツはあの時、間違いなく……。


 その表情と目線だけで、オレの背筋は凍りつくような気配がする。このままこの場から逃げ出すことができたらどんなに良いだろうか。

 だが、それを許すほど、コイツが甘くないことぐらいオレはもう知っている。


「それに、ソレがある限り、キミはボクから逃れることはできないと言ったら……、キミはどうする?」

 痛いと思われるような口調ではあるが、コイツは本気で言っているのだろう。コイツにオレたち人間の常識は一切、通用しない。


 倫理も法則も違う世界の化け物。


 その正体も性別も不明。パッと見た感じでは、人間の少年にも少女にも見えるがそれを確認するような勇気は、コイツの本性を知った今となっては一切、湧き上がらない。


 適当にザックリ切ったような黒髪を揺らし、紅い瞳をギラリと光らせ、その凶悪さを少しも隠そうともせずにこの場所に立っている。


「あるべき平穏な日常へ完全に戻りたいと願うなら、ソレを返してくれるかい?」


 そう言いながら、ヤツは拒否することは許さないと言うようにオレに向かってゆっくりと詰め寄ってきた。


 ああ、言われなくてもそれぐらい分かっている。


 こんな眼を持ったままこの世界で、生きていくことは難しいだろう。頭の良くないオレにだって、それぐらいは分かっている。

 そう遠くない未来にオレは気が狂ってしまうかもしれない。既にその兆候は出ているのだ。


「ああ、本当のところ、ボクとしてはどちらでも構わないんだ。苦しんだ果てのキミも美味しいだろうからね」


 獲物を狙うかのようにわざとらしく舌舐めずりをしやがる。紅い唇に紅い舌が艶めかしく光り、蛇のような印象があった。

 それを見て、オレの腕にぶつぶつと鳥肌が立っていくのが分かる。


 ああ、そうだったな。オレはお前の獲物なんだ。


 少しばかり時間が経ってもその関係が変わるわけではない。それを思い出させるために、わざわざコイツはオレの前に姿を見せたんだろう。


 絶対に逃げられないと警告するために。


「さあ、どうする?」

 ヤツはオレに選択を迫る。


 その紅い瞳にオレが映るほど近付いた時、オレはようやく重い口を開いたのだった。

 本当は、少し前から決めていたことを、告げるために。

短い話となったため、もう一話続けて投稿します。


ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

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