高1を12回ループしたクラスメート達が賢者モードになっている件 プロローグ
『高1を12回ループしたクラスメート達が賢者モードになっている件』(連載版、完結済)のプロローグ相当の物語です。作風が少し違うため、短編として分けて公開しています。
00「今日も明日も明後日も、みんなは帰ってこない」
その知らせを受けた私は、あまりのことに、呆然とした。
「えっ……全員、亡くなったって……。え? 1-Cの、みんな……が?」
4月1日の真夜中に起きた、大震災。ちょうど私が、ドバイにいる両親の下にいた時のことだった。クラス委員長をしていた私の提案で作った、タイムカプセル。それを、三学期終業式の日のHRでみんなで埋めた後、私は両親を訪ねるために日本を出国していた。忙しい両親とこの時期を一緒に過ごすのは毎年の恒例だったけど、春休みにクラスのみんなと遊べないことに後ろ髪を引かれる思いをしていた。
最後のHRが、みんなと会った最後となった。
「ひどい……」
急いで帰国したものの、あまりの被害に、住んでいた街までなかなかたどり着けなかった。ようやくたどり着けた時は、みんなのお葬式が終わっているという、そんな時期だった。ひとりひとりの家を訪ねて会えたのは、遺影の写真だけ。
「クラスのみんなが、30名ものクラスメート達が、全員亡くなってしまう。私ひとりを、残して」
震災で亡くなった人々は、他にもいる。でも、私の立場からは、運命を呪いたくなるような、そんな出来事だ。いったい、どれだけの確率で、そんなことが起きてしまったのだろう。春休みの間は、そんなピントが外れたことに思いを馳せていた。
◇
そうして、高2となった私は、もともと人数がひとり少なかった2-Aに組み込まれた。元1-Aや他のクラスにも亡くなった生徒はおり、そういう意味でも、私が組み込まれたことにより、クラス配分のバランスもとれたようだ。
「今日も明日も明後日も、みんなは帰ってこない……」
春休みが明け、高2となったみんなと一緒に学校生活を楽しんだり、一緒にお出かけしたりする。最後のHRの日に、そんな約束をしたことを不意に思い出す。30人分の、あり得たかもしれない彼らの未来が、みんなと過ごしたかもしれない楽しい日々が、消えてなくなった。新学期が始まり、そんなことをようやく実感し、人知れず、泣いた。
「あ、あれって……」
校庭の隅で隠れて泣いていた時、目に入ったものがあった。昨年度の最後のHRで埋めた、タイムカプセル。地震でグラウンドに亀裂が入り、地面の上に出てしまった。それが、校庭の隅に寄せられていたのだ。
鍵もかかっていないそれを、私は開ける。出てきたのは、集合写真や手書きの文章。みんなとの数々の思い出。
それを見た私の心の中で、何かが壊れた。
「みんなは、生きている。いなくなったりしていない。だって、ここにこうして、存在しているんだから―――」
◇
数十年後。
「安積博士、やめて下さい! そのアルゴリズムを実行してしまったら、世界が大変革してしまいます!」
「変革? そんなことはないわ。元に戻すだけだから」
「確かにそれを実行すれば、あの史上最悪の大震災で犠牲になった人々の多くが救われるかもしれません。ですが、博士が生み出した様々な成果もなかったことになってしまうんですよ!?」
「いいじゃない。この歴史は、間違った歴史。たかだか数十年で超空間航行が可能になり、銀河系にあまねく広がっていく地球人類。そちらの方が異常だと思わない?」
「でも、その航法にしたって、安積博士の時空間転移理論に基づいて生み出されて……ま、まさか、博士!?」
「そうよ。私は、この瞬間のためだけに、何十年もかけて技術的な『条件』を満たしたのだから。何もかもを、費やしてね」
「だからといって、必ずしもうまくいくとは限りませんよ!? もしかすると、当時の時空間に歪みが生まれて、どんなパラドックスをもたらすか―――」
カチッ
私は、起動プログラムを実行した。みんなと過ごす楽しい日々を、取り戻すために。