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囚人と少女  作者: リィズ・ブランディシュカ
3/3

03



 王都の外れ 住宅街


 刑期を終えたツヴァイは、小さな家を借りて医者として生計を立てる事にした。


 けれどツヴァイは、そんな平穏な日々の中で、濡れ衣であった事件の事を時々思い出す。


 獣魔に対抗するために、王族たちが平民におこなっているというむごい実験の類い。対抗できる人材の開発など……。偶然知ってしまった事だが、数年経ってもツヴァイの目に焼き付いて離れなかった。


「忘れられるわけがねぇか。そう簡単に」


 その日の診察を終えたツヴァイは診療所を閉じる。


 だが、そこに焦った様子の女性がやって来た。


「お願いします。娘を助けてください」

「どうした」


 無我夢中と言った様子の女性は、周りの事が冷静に良く見えていないようで、ただ思った事をうわ言の様に繰り返すだけだった。


「娘が、実験に。獣魔に、生贄にされてしまう」


 焦点の定まていない視線を向け「もう頼れるのは、先生しかいないんです」と述べる。


 よく見れば、女性は一般市民として見るには首を傾げる様な整った容姿で、気品を感じさせる身なりをしていた。


「まさか、あんたは」

「ステラードが危ないんです」


 女性の一言を聞いたツヴァイはその場から走った。


 数年前の事を思い出す。

 獣魔に襲われ怪我をした少女。

 一般市民だというのならばともかく、高貴な身分の者がそうそう危険な目に遭うわけがない。


 つまり、それは外向けの言い訳。「実験にしたって言うわけかよ、身内を!」そういう事なのだろう。







 初めて王宮にやって来た時、濡れ衣を着せられた時の手順をならってその場所に忍び込んだ。


 隠された通路。

 暴動や内戦がおこった時の為に作られた。もしもと言う時の秘密の脱出口。

 貴族や皇族が、自身の趣味に楽しむ時に、または病などで倒れた時に、身分のあまり高くない専門家を呼ぶときにも使われる出入口。

 

 暗い通路を駆け抜けたツヴァイは、記憶をたどる様にして王宮の内部を移動していった。


 やがて数年前に、聞かなくても良い内容を聞いてしまった時と同じようにその場所へたどり着く。


 暗くて、冷たい地下室。


 無数の牢獄が立ち並び、無数の骸が並ぶその場所にステラードはいた。


 泣き叫ぶ少女。

 そしてそんな少女に群がる白衣の大人たちの姿に、ツヴァイは「ステラード! よくも!」声高く叫び、我を忘れた。


 無我夢中となってステラードを救出しようとするツヴァイだが、たかが医者の力で数人の集団を無力化する事はできなかった。


 ツヴァイは一度目の時の様に、警告として正規の牢獄に捕らえられる事はなく、誰の助けも得られない暗い牢獄に繋がれる事になった。


「いやあぁぁぁ、先生! 助けて! やめて! ちゃんと行儀も良くする! 勉強もする! 王族のつらよごしなんて言われないように一生懸命頑張るから。助けて! ごめんなさい! ごめんなさい!」


 無能だった皇族は、役に立たない存在。

 だからせめて役に立つようにと、実験の被検体とされていた。


 地下にあった牢獄で倒れていた者達は、ツヴァイが元いた収容施設で行われていた更生作業の成績の悪い者達だった。

 罪人で、非生産的であり役に立たない人間だったから、実験の被検体とされていたのだ。


 そもそも濡れ衣で投獄された者達は、最初から実験材料として目をつけられていたのかもしれない。


 ツヴァイは、「すまない。ステラード。俺に力があれば」すぐそこから聞こえてくる助けの声にこたえる事しかできない。


 数歩しかない距離を絶対に縮める事ができない。


 非力を恨み「俺に、せめて剣を握る手があったなら」、牢屋から伸ばした手は決して何にも届かない。


「ううん、違う。先生の手は、人を助ける手だもん。暴力、する為の手じゃ、ないもん。お医者さんの、道具、持つ先生の手、大好き」

「ステラード」


 少女の声が、悲鳴が聞こえなくなるまで、全てが終わるまで、ツヴァイはただそこで見ている事しかできなかった。



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