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7. 破滅フラグを回避せよ

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 メルヴィ・メル・メルクーリオ。


 女性、年齢不詳、出身地不詳。教団魔法、精霊魔法に精通する「魔王」。

 外見年齢10代後半。のじゃのじゃ言うコミカルなキャラ。

 主人公「漆黒のヴォルフ」の敵にして原作第Ⅳ章、第Ⅴ章ボス。第Ⅴ章ラストにて死亡。

 作中唯一、主人公を地につけた存在。


 これが基本設定。


 人気とかあまり考えず、とにかく主人公を下すだけの力を持ったキャラにしよう(んでもってついでに趣味も入れよう)としか考えなかった。

 だから読者人気も、メインヒロインやその他サブヒロインに負けるだろうと思ったし、主人公を負かせたときのヘイト稼ぎの凄まじさは作者の心も折れかけた。


 けれど、彼女の出番が増え、設定や性格の描写が増えると共に人気も獲得していった。


 ただメルヴィが死ぬのは既定路線だった。

 設定的にも、展開的にも死なないと話が進まないキャラである。


 でも今までのボスキャラは一部を除いて死亡していたが、そいつらは死んで当然のクズな性格だったからそこまで反響はなかった。

 けどメルヴィは違う。

 死んだら読者が離れていくのではないか……そう思って、筆が止まってしまった。


 散々悩んだあげく、結果的にメルヴィは死んだ。


 死亡ルートと同等、あるいはそれ以上に面白くなる生存ルートを俺が考え付かなかったからである。そういう意味では、メルヴィは原作者に殺されたようなものだ。


 そしてその死は、かつて主人公が負けた時よりも多くの反応が寄せられた。


 んでもって当然のことながら、またブクマが減った。

 こんちくしょう、お前は何度俺の心を折れば気が済むんだ!




 それはさておき。


 前世地球にいるお父さん、お母さんへ。お元気ですか。


 私は元気ですが大丈夫じゃありません。

 主人公との対決に負けたせいで凋落フラグが立ってしまったんです。


 ここからいつぞやの近鉄みたいに逆転サヨナラ満塁ホームランを打たなきゃならんのです。


 しかし私は原作者、設定は知り尽くしてる。イケるイケる!


 ……と、いかんいかん。その甘えが昨日のあの醜態だったじゃあないか。

 慎重なのはいいことだ。


 とりあえず、ここからは原作設定を参考にしつつも原作のルートを逸脱して凋落フラグをへし折ることを最優先課題としよう。

 目立たないように行動する、というのは全然アリだろう。

 実際それが一番いい。目立たず、驕らず、真面目に生きていけばたぶんへし折ることはできるんじゃあないかと思う。


 ……カリナが離脱するきっかけを設定してないから何に気を付けて真面目に生きていけばいいのかは行き当たりばったりとなってしまうだろうけども。


 だけれど俺は原作者である。


 原作者である以上、自分の考えたキャラは大事にしたいし、ヒロインズとは仲良くなりたいと思うのは自然のことですね?

 しかしこの世界はどうにもクルトに原作再現させようと謎の力が働いているから、よく考えないと。


 主人公ヴォルフやメインヒロインのリリスに手を付けたらたぶんぶっ飛ばされて原作よりも酷いルートに入ってしまいそうなので一旦無視。


 リリスちゃんを遠目で眺めるしかないのは悲しいが、それは俺のせいだからな……。


 主人公二人組を除外したとなると、考えられる選択肢はそう多くない。

 第Ⅰ章ボス、エノーラ・マースと、第Ⅴ章ボスのメルヴィと接触することだ。


 というか、エノーラ・マースはメルヴィに唆されて第Ⅰ章でボス化したのだ。

 その敵対フラグをへし折ってやれば、もしかしたらもしかするかもしれない。よし、とりあえずこの路線で行こう。


「では……ヴァルトハイム卿、皇帝選挙権を持つ選帝侯の数と、代表的な選帝侯は言えますか?」

「はい、マース先生。選帝侯の数は、我が王国においては14家、帝国全体では257家存在します。代表的なものとしては当然のことながら王家を筆頭とし、我らヴァルトハイム家、そしてディヴァインライト家があります」


 そう言うわけだから、俺はエノーラ・マース先生が行う授業は取れる分だけ全部取った。

 中には二年生をターゲットにした授業もあったが、原作者なら問題ないはず。


 マース先生の専門教科は歴史、特に魔法史である。


「その通りです、ヴァルトハイム卿。えぇ、私たちのいるこの王立魔法学校を運営しているのは当然、このノクスティア王国です。しかし我が王国は西方大陸連合帝国(ユナイテッド・エンパイア・オブ・ウェステリア)を構成する一国家でもあるのです。この連合帝国が設立された経緯は魔法史上極めて重要であり――」


 まぁ、ここら辺は背景、世界観設定を考えるのが好きだった俺にとっては暇な授業となる。


 先生が言ったように、西方大陸連合帝国と言う巨大な超国家規模の連合国家が存在し、その下に大小さまざまな主権国家が存在する。


 要するに国連とか、EUとか、あるいは神聖ローマ帝国だったり徳川幕府みたいなもんだと思ってくれ。

 連合帝国の下にノクスティアがある。


「この連合帝国は、300年前に勃発した大陸規模の最終戦争の結果起きたものです。その戦争においてあらゆる魔法が暴走し、『災厄』が起きました。『災厄』はイルミナティオ教団によって沈静化し、以降、教団がこのような事が二度とないよう、率先して魔法の研究を行いました」


 戦争を利用して教団が魔法技術を独占したってことです。最終戦争最大の受益者は彼らだ。


 そんでもって戦争によって多くの国家が疲弊し、それを立て直すために出来たのが連合帝国と言う枠組みである。

 連合帝国の構成国家は主権の一部を譲渡し、構成国家に属する一部王侯貴族に連合帝国皇帝となるための被選挙権並びに選挙権が与えられた。


 皇帝の任期は無期限。要するに、自分が辞めると言うか、死ぬかしないと代替わりはしない。

 皇帝は連合帝国軍の統帥権と、連合帝国の外交権などを持つ。これが、各構成国家が譲渡した主権って奴だ。


 ……とは言っても、各構成国家の内政権の殆どは構成国家元首の手にあるので、皇帝の権威・権力と言うのは限定的であるし、帝国政府を無視して過剰な私兵を保有したり、他国と外交を行う連中もいる。


 何度か、より強力な連合国家というか連邦国家を作ろうという構想はあったのだけど。


 ドイツみたいに。


「また連合帝国の形成によって、跳梁跋扈していた各国家、領邦が戦いの矛を収め、最終戦争以来、西方大陸では大規模な国家間戦争は起きていないことも特筆すべきことです。これによって魔法学は飛躍的な発展を遂げました」

「先生。魔法は戦争の為に使われてこそ、ではないのですか? 戦争がなくなったら魔法の発展はないと思うんですけど……」

「いい質問ですね、ヘスくん。確かに魔法は、戦争兵器としての側面を持ちます。しかし戦争以外でも魔法の役目はあります。現代において、狩猟や魔物狩りは勿論、家事炊事、娯楽にまで魔法は使われていますよね?」

「はい、そうですが……」

「戦争によって発達する魔法は戦争に使う攻撃魔法、特に広範囲攻撃魔法です。しかし戦争がなくなったことによって、研究リソースが他の分野の魔法にも広がったことが、魔法学の飛躍的発展に繋がりました。ひとつの方面に特化していた魔法が、様々な分野でも成長したということです」


 なるほど、と頷く生徒たち。

 よしよし、ここら辺の設定はちゃんと受け継がれているんだな。


 この魔法学の発展で、戦争用の攻撃魔法以外の魔法も発展した。

 けれど、そのおかげで攻撃魔法の発展が阻害されたと考える奴がいる。


 マース先生の動機がそれだ。

 純粋な力の象徴だった魔法が、生活分野で使われているのが気に食わないと言う面倒くさい過激派連中なのである。


 つまりこの授業は、第Ⅰ章ラストに繋がる伏線だったのだ!


 いやぁ、儂ながら文才あると思う。


 ……いっそここでマース先生が好みそうなことを言ってみるのも手か?

 そうしたら何かフラグが立つかもしれない。


「魔法は力を象徴するものだったのに、今となっては生活にも使われている……、というのはなんだか、少し寂しい気もします」


 俺がそう言ってみると、マース先生のメガネの奥にある目がちょいと光った気がする。


「その意見はわかります。確かに、魔法学者の中にはそれを危惧する声もあるのです。つまり力の象徴たる魔法の権威が低下しているのではないか、と」


 いやいや「魔法学者の中には」って、あなたのことですよ先生。主語が大きい人だ。


 ちなみに今の台詞をもっとあくどく、悪役っぽい表情と抑揚で原作第Ⅰ章の後半でマース先生が言っている。


 マース先生は幼少期から極貧生活を送っていた。

 しかし彼女には魔法の才能があって、その魔法の力で以って栄光ある王立魔法学校を卒業し、そして学園の教師という身分を手に入れた。


 そういう経緯があるからか、魔法を「絶対的な力」と彼女は認識している。

 最終戦争を文字通り終わらせたのは魔法の強大な力があってこそ。その力を、マース先生は神の如く信奉している。


 そして教師の影響力は大きい。

 マース先生が持つ独特な思想を、多くの生徒に布教することができる。そんなマース先生の考えに便乗、つけ込んだのがメルヴィ。


「ヴァルトハイム卿。もしよろしければ、あなたの感想と同じ心を持つ者と会ってみませんか? この学園には、同様の意見を持つ者がいるのです。よければ、すぐにでも」

「ほう」


 だからたぶん、この「同様の意見を持つ者」というのはメルヴィのことだろう。

 入学式以前からマース先生に接触し、自分の影響力を広げようとしていたと設定した。


 まぁそれはそれとして、この申し出を受けるべきか否か。


 受ければメルヴィとの再会を果たせるだろうが、果たせた時点で原作から大きく逸脱するため、何が起きるかわからない。

 最悪、死ぬかもしれないのだ。


 しかしここで受けなければメルヴィには会えないし、原作ルートを突っ切ってしまうかもしれない。

 悩ましい。悩ましいが……。


「申し出はありがたいですが、まだ入学したてで右も左もわかりませんので……、また後日ということでよろしいでしょうか?」


 ここは第3の選択肢、保留策で行こう。うん、後回し後回し。


「あぁ、そうですね。ヴァルトハイム卿にも予定があることを考慮せず申し訳ありません。ではまた後日改めて……」


 マース先生は明らかにガックリ来ていた。

 貴族の後ろ盾ができるに越したことはないもんね。けどまぁ、今はまだゆっくりしていこう。なに、まだ時間はある。


 たぶん。

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