5. 反省
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『なんであんたがここにいるの、ついてこないでよ!』
『そう言われても俺もこっちに用があるんだよ』
隣の教室から騒がしい声が聞こえるが、これはヴォルフとリリスの第一回夫婦漫才が繰り広げられていると言うことだ。
あちらさんは順調にフラグを構築中。
最早他人のものとなったのでリリスのことは諦めよう。
自分の好きな属性詰め合わせヒロインのことを諦め……うぅ。泣きそう。
入学式は、俺が氷の痛みに耐えつつも滑り込みアウトを決めた以外、無事つつがなく終了した。
その後、割り振られた教室にて学園の教育システムについて研修を受けることになった。
「王立魔法学校は、初等教育学校、あるいは貴族学校のようにクラスを決め、教師を教室に行かせるスタイルでの授業は行いません。あなた達が、教師のいる教室へと向かうのです」
と説明役の教師がそう言っているが、大学方式の授業と言ってしまう方が手っ取り早い。
生徒たちが各人で、自分の所属から必須科目、選択必須科目、選択科目を取捨選択し、時間割を決める。
そして期末に行われる単位認定試験を無事にパスすれば単位を貰える。
まぁこの辺は説明しなくてもだいたいわかるだろうということで余りしていない。
読者さんも大学がどういう方式でやってるか身を持って知っているはず……。
と言うものの、前世高校生の俺にとってはどうしても具体的な説明ができないという理由もある――ていうかそっちが本音。
変に語るとバカがばれる業界だからな。
「時間割を考えるのが大変だと言う生徒もいるでしょう。その場合は学生課の者が支援いたしますし、またサンプルの時間割もお渡しできます。無論あなた達が――」
そういう感じで説明が続く。
一応聞いているが、ほぼ原作通りの設定が続いているのでもう聞く必要はないだろうと思う。だから頭の中では別のことを考えていた。
それは言うまでもなく、第Ⅰ章時点ではまだ未登場のはずのメルヴィのこと……ではない。
確かに気になるっちゃ気になるが、もし原作が何かの間違いでアニメ化なりなんなりした場合、「あの場に実はメルヴィがいたのだ!」となっても別に変じゃない。
原作だと、ヴォルフが精霊魔法使いであることにメルヴィがいつ気付いたのかというのは説明されていない。
だからあの場にもしメルヴィがいたら知っててもおかしくない……ということだろう。
や、これは勝手な想像。
こういうオリジナル展開には原作者は弱いのだ。あまり深く聞かないでほしい。
こういうことがあるからオリジナル展開をするときは原作者の許可を取ってほしいもんだね。
だから問題はそこじゃない。
(クソッ、結局リリスとのフラグを立てられなかった。原作通りの展開を避けるためにこの世界に転生してきたんじゃないのかよ俺! なんで原作通りにやってんだ原作者ァ!)
お前リリスのこと大好きすぎるだろと言われるかもしれないが実際大好きだから仕方ない。
反省もするし後悔もするし、悶絶だってする。
「あの……ヴァルトハイム卿? 如何なされましたか? どこか体調でも……」
「リリスが……」
「はい?」
「いえ、なんでもないです。続けてください」
ショック過ぎて変な言葉が出てしまっただけだ。
「はぁ。……しかし、既に研修はもう終わりですよ?」
「えっ?」
教師に言われてはじめて気づく。
キョロキョロとあたりを見回しても誰もいない。
いるのは俺と、先生だけ。
「本当に大丈夫ですか? 何なら、医務室まで付き添いましょうか?」
「いや、不要です。本当になんでもありませんので」
「なら良いのですが……。もし何か不都合がありましたら、このエノーラ・マースをお頼りくださいませ」
「…………エノーラ・マース?」
「私の名です、ヴァルトハイム卿」
……いや、そうか。うん。
こいつが第Ⅰ章ボスかぁ……。
細かい容姿設定なんてメガネの女性で学園の教師としか決めてなかったから全然気付かなかったよ……。
「それではマース先生、ひとことだけ」
「なんでしょう?」
「氷に気を付けてくださいね」
まぁ覚えておいて損はないよ。
原作でのマース先生の死因は、怒り狂うヴォルフによって氷漬けにされたことだからさ。
「……は?」
しかし先生はそんなことを知る由もないので、ポカンとしただけだった。
そんなマース先生に別れを告げて教室を出る。
これでやたら濃い、そして反省点の多い入学初日の終了だ。
教室棟を出て寮に向かう途中で、メイドのカリナと再会した。
カリナがヴォルフの下で働くようになるのは、確か第Ⅲ章。
その経緯は既に説明した通り。
「おかえりなさいませ……と言うのも変ですね。お疲れ様です、でしょうか。クルト様」
「……そうだね」
「……? クルト様?」
このまま原作通りだと、みんな俺の下から離れると言うわけだ。
「カリナ」
「はい?」
「……俺、次からはもうちょっと、考えて行動するよ」
「…………はぁ」
カリナは首を傾げる。まぁ、急になんの話だということだな。
せめて、カリナだけはアイツの下に行かないで欲しいと思うという話である。
具体的にどうすればいいかは……原作に描写ないからわかんないけども、これ以上あのクソ野郎にハーレムを築かれては俺の心が持たない。
「考えて考えて、カリナのことも考えて……」
「……クルト様」
「んでもって、最終的に頂点に立つのは俺だ!」
あいつから主人公の座を奪い取ってやろうじゃねぇかこの野郎!
「……頑張ってくださいまし」
なお、なぜかカリナは死んだ魚の目をしていた。
……いきなり選択肢を間違えたか、俺。