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4. ラスボス現る

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 ……それから数分ほど悶絶して、ようやく精霊魔法の効果が切れる。精霊魔法の持続時間は契約者の精神力・集中力か精霊自体のやる気によって決まる。


 今回の場合、原作通りならば契約者、つまりヴォルフの集中力が切れたことによる。


「確か、ヴォルフがリリスを助けた後、彼女に『私はか弱い女じゃない』って怒られてしまって、集中力が途切れて魔法解除っていう流れだったな……」


 大樹のある庭にて大の字になって空を仰ぎながら原作を回想する。


 実際リリスはか弱い女じゃないことは前にも言った通り。


 ついでにクルトの出番は本当に主人公にボコられただけで出番終了だ。

 俺の物語はここで完結してしまうんだけど、まだ俺はココにいなきゃいけないんだろうか。


 リリスは助けてくれたことには一応感謝しつつも、ヴォルフに「か弱い女」と言われたことに憤慨して……という関係性が始まる。

 しかし学園においては事あるごとに出会っては夫婦漫才のような喧嘩をする。


 最終的にリリスが第Ⅰ章のボスである魔法学校の教師に命を奪われかけたところで再びヴォルフが助けたことで、リリスはヴォルフのことを異性として意識するようになる、という流れだ。


 そんでもって第Ⅱ章以降の伏線として、あの先生はそんなことをするような人とは思えないのになんでだろうと疑問に思って……黒幕が別にいるってことが読者に示された。


 その黒幕の正体が明らかになるのは第Ⅳ章。


 それは先程、俺が使った戦法である「短期決戦」を実行した人物でもある。


 黒幕だけども主人公を敗北させるというWEB小説の禁忌を行う存在の為、ヘイトを稼ぎまくる悪役ではなくて、ハーレム要員の中にいても問題ないような魅力的なキャラを心掛けて作った。


 まぁ、結果としてブクマは外されまくったけど、その努力は無駄だったというわけではない。

 そのキャラが好きになった読者もいた。


 主人公を倒す訳だから如何にも強者っぽいキャラにしよう、せめてキャラの造形は拘ろう……としたら、原作者の趣味が入り込み、結果露出が強めので変な口調のキャラが爆誕。


 なお身体的特徴を白色に統一した結果、一部読者から「パンツの色も白だったりして」という感想が来た。


 実際に何色のパンツを穿いていたかは設定してない。


 けど、もし気の利いた原作好きがこの世界を作ったのだとしたら、俺が見上げた時に見えた、こんな感じの純白のパンツを穿いて…………?


「………………え?」


 痛みを忘れて、飛び起きて振り向く。


 白色の髪に灰色の瞳。

 透き通るような白い肌を持ち、右頬には何かの紋章が描かれている。


 ……確かに原作での外見設定はそんな感じだった。

 今は見えないが、やろうと思えば背中から白い翼を広げることもできる天人族。


 そして教団魔法と精霊魔法の両方に深い知識を持っている。故にヴォルフを苦しませ続けた。

 ついた二つ名はそのままずばり『白亜の魔王』。


 そんな彼女が、なぜか今目の前にいる。


「不思議な奴じゃの、おぬし」


 んでもって原作通りの喋り方である。


「…………な、な――」

「な?」


 登場はもっとあとなのに、なんでここにいるのだ。

 その疑問を口にしたいが続く言葉が出てこない。

 ……お前本当に白色のパンツ穿いてるのか。そこまで設定してないのに。


「なに儂の下着をじろじろと見てるんじゃ。人間というのはそんなに下着が好きなのか?」

「いや確かに大好きだからじっと見ていたいけれど」

「……なるほどなるほど」


 彼女は腕を組み、そして笑顔でこう言った。


「正直でよろしい。一発食らえ!」


 途端、猛烈な右ストレートが俺の頬を掠めたのである。


 彼女の名前はメルヴィ・メル・メルクーリオ。


 初登場は第Ⅲ章後半。

 第Ⅳ章ラストにて主人公をぶっ飛ばし、ついでに読者の心をもぶっ飛ばしたボスキャラにして、第Ⅴ章ラストにて主人公に逆に倒され、死亡したキャラである。


 ……ハッキリ言ってしまおう。


 すごい緊張している。なぜなら執筆時点で作中最強キャラのひとりだし、こいつが無駄に活躍してしまったせいでブクマを凄い外されたトラウマキャラだから。


 いやいや書いたのお前だろと言われたらその通りなのだが、キャラが勝手に動いちゃったのだから仕方ない。

 小説を書いていたらままよくある話だ。


 ……あるよね?


「それはそれとして、じゃ。おぬしは随分変わった奴じゃの?」

「…………な、なにが」

「儂の目には、おぬしの魂の色が見える」


 あぁ、それとこれも緊張の理由かもね。


 のじゃのじゃ言っている通り、コイツ結構長い時を生きている。

 長い時を生きているからこそ教団魔法、精霊魔法に精通してるし、ついでにあの突き刺さった宇宙戦艦についても、全てではないがそこそこの知識を有している。


 物語中盤において伏線を盛るために作られたそこそこ重要なキャラ、という感じなのである。


 んでもって、長い時を生きていたが故に特殊な能力がある。


 それが「魔眼」。相手の魂の色を直接見る能力だ。


 魂の色は千差万別だがある程度パターンがある。

 そのパターンを見極めれば、そいつがどういう能力者なのか、どういう性格なのか、どういう出自なのかがわかる。


 そう、どういう出自か――。


 つまり「転生者」かどうかもわかる。


 作中初めて、主人公が転生者であることに気付いたキャラなのである。

 なんだこのチートキャラ。3割くらい俺に能力分けて欲しい。


「おぬしの魂の色は初めて見るパターンじゃな……。形容しがたいの……。あえて表現するなら――そう」


 メルヴィは数秒ほど間を開けて、


「次に貴様は『まるで二つの魂が重なり合っているようだ』と言う!」

「まるで二つの魂が重なり合っているようじゃ――なっ!?」


 よっしゃ! 大正解!

 人生で初めてこの言い回しを的中させた!

 いやぁこれ成功させるのって男の子全員の夢だと思うんだよね。


「なんで儂の言いたいことがわかったんじゃ! 予言者の魂の色持ってないくせしおって!」


 いや、だって同じ台詞を主人公に言ってたんだもん。

 原作者覚えてる。主人公とのファーストコンタクトの時だからね。


 …………あれ、俺ここからどうやって彼女に台詞的中させたこと説明すればいいんだ?

 こいつJ〇J〇のこと絶対知らないだろうし。


 あぁ! メルヴィが期待と好奇心の目で俺を見つめてくる! かわいい! でもつらい!


「……き」

「き?」

「企業秘密、だ」


 メルヴィがちょっとずっこけた。


「なんじゃ、期待した儂がバカじゃった」


 口を尖らせて明らかに不満そうに息を鳴らすメルヴィ。

 なんともコミカルなボスキャラだと思うかもしれないが、そういう性格なのに戦うと強いっていうのは燃えるだろ?


「……つか、あんた一体なんなんだよ急に」

「あぁ、そうじゃな。そういえば自己紹介もしとらんかったわ」


 違うそういう意味じゃない。

 なんでⅠ章の時点でいるんだってことを聞きたいんだ。初登場まであと25万字くらいあったはずだろうが。


「儂はメルヴィ。メルヴィ・メル・メルクーリオじゃ」


 うん知ってる。


 しかし俺の気持ちも知らずにメルヴィは、ふんす、と鼻を鳴らしながらドヤ顔で胸を張る。

 大した胸もないのに。電信柱の方がまだふくよかでグラマーだ。


「おい、おぬし今失礼な事を考えてたじゃろ」

「何のことか全く想像もできませぬ」


 貧乳キャラにしたのは原作者の趣味だから赦してほしい。


「ふーん……? まぁ、良い。今はおぬしの魂の方が重要じゃ」

「台詞を言い当てたことは?」

「あぁ、そっちも重要じゃったわい」


 口調も相まってただのお婆ちゃんである。のじゃ口調のキャラってそうなる運命あるけど。


「おぬしの魂は特別じゃ。どうも自覚はあるらしいがの……。どうじゃ? もしその魂を有効活用したいと考えておるなら、儂について来ぬか?」


 悪魔の台詞である。

 これに類する台詞は、原作でも何度か放たれた言葉だ。誘い文句は各々違うが。


 ただし主人公ヴォルフに対してではない。


 第Ⅰ章から第Ⅲ章のラスボスに対して、である。そして第Ⅳ章にてメインヒロインたるリリスにも放った言葉だ。


 結果第Ⅰ章から第Ⅲ章のラスボスたちはメルヴィの甘言に乗った結果主人公と戦った。


 しかしリリスは拒否した。拒否した結果、リリスを巡ってヴォルフとメルヴィの直接対決が始まった。


 もし甘言に乗ったら、たぶん破滅フラグが立つだろう。

 実際乗った奴は全員ヴォルフに倒されているわけだし。


 だからここは俺も拒否すべきだろう。

 ……けど、リリスが拒否したらなんやかんやがあって戦いが始まった。リリスはヴォルフが護ってくれたからいいとして(?)、俺の場合は誰もいない……。


 あれ? これ詰んでね? どうすりゃいいんだコレ。

 あ、そうだ。


「んな事より、俺これから入学式なんだが」

「おおっと。新入生じゃったか。こりゃ失敬。んじゃあとで改めて伺うとするかの……」


 そう言ってメルヴィは、空中に穴をあけた。


 WEB小説お馴染み収納魔法だ。

 教団魔法で最上位の難易度を誇る魔法だが、それをいとも簡単に使って見せるメルヴィ。当然教団魔法が使えない設定の主人公ヴォルフも使えない。ついでに言えば俺も使えない。


 メルヴィは空中にあけた穴から、紙片を取り出す。

 その程度のものを収納魔法で仕舞うとか結構な無駄遣いである。


「もし興味があるなら、ここに来てみることじゃな」


 紙片に書かれているのは簡易的な学内図に「ここ!」と赤く〇つけられたもの。なんとも独特な地図である、と言っておこう。


「いや絵も字も下手くそでここがどこかわかりにくい――」


 しかし俺のその抗議は彼女には聞こえなかった。

 それは当然の話で、視線を戻した時には既にメルヴィはいなかったからである。


「……ホント、強キャラムーヴする奴だ」


 いや、実際そうなんだけども。

 こんな三下クルトとは違うんだけども。

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