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3. 歴史の修正力

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 王立魔法学校。


 15歳以上で、魔法を扱えることができれば誰でも入学試験を受けることができる。

 入学試験に際しては一般枠と貴族枠が設けられており、一般枠入学は試験の難易度が高い一方で貴族枠ではそれが血統とかコネになる。


 クルトこと俺は当然後者。


 噛ませの負け犬が努力で試験を突破してきた設定になるわけないし。

 そしてさらに当然の如く俺はそういうポジションにいるので、全体的な能力は低めである。


 クソ、誰だよこんな設定にしたの。バランス考えろ。

 クルトの身体に誰かが憑依したらとか考えて執筆しろ原作者ァ! ……次からはそうしよ。


 話を学園に戻そう。


 通常、クルトのような貴族は、概ね10歳までは家庭内教育を受ける。

 その後14歳までに貴族学校へと入り、そこで貴族社会へと馴染んでいく。貴族間の婚姻関係もここら辺で決まる。

 そして15歳となったとき、家や領地で執務を行うか、さらに専門的な上級貴族学校に通うか、もしくは王立魔法学校に通うかを選択するのが通常。


 クルトのような奴なら上級貴族学校に行きそうだなと思うだろうが、こいつは王立魔法学校を選んだ。嫡男で跡取り息子の癖に。


 それはなぜか……について設定は深く考えてない。いや、所詮モブの噛ませ犬だし。


 あ、でも本編中で言おうとしてたことあったっけ。


 クルトがボコボコにされるシーンを執筆していた当時の俺は、クルトも主人公メンバーに加入させようかと目論んでいた……気がする。

 故に原作ではクルトの台詞にその名残がある。


 確か台詞は……、


『俺はここで負けてはならぬのだ! ここで負けたら、いつあいつに――』


 とかだった気がする。


 ぶっちゃけよく覚えてない。

 コイツの出番ここだけだし、初登場時はヴァルトハイム家という設定はあれど「クルト」という名前はなかったし。


 ていうかだいたい「あいつ」って誰?

 あとあとのことを考えて伏線を多く張って回収しないのは俺の悪い癖である。


 前にも言ったけどコイツの設定の大半はカリナのおまけだしな!


 まぁ、真面目に考えてても変な設定とかついてたんだろうな。何せ原作者が俺だし。


「クルト様、メイドは学園敷地内への入域が制限されております。ですので私は一足先にクルト様の寮へと戻り、準備しておきます」

「おう、わかった。入学式は確か大講堂だったな」

「左様です。……案内は、必要ありませんよね?」

「問題ない!」


 と思っていた時期が俺にもあった。


 数分後、俺は見事に迷った。


 学園内に設置された地図を眺めるも、そもそも俺は前世でも地図が読めない男だった。

 ファンタジー世界でもその特異性をいかんなく発揮してしまっている。


 入学式までの時間はまだまだあるので、まぁ、学園探索をしていることにしよう。


 この王立魔法学校の校内図というのは作ってない。

 地図読めないやつが地図作れると思うな。イメージとしては寮舎併設の大学のキャンパスっぽい感じの雰囲気。


 カリナの言う通り、学園の生徒ではないメイドは学園敷地内での行動が制限されている。

 カリナが主人公のメイドとなったときも、基本的に寮の近辺でしか出没しなかった(故にカリナがヒロイン競争でかなり不利を強いられていた)。


 とは言え主人公にはハーレムを維持させつつ最終的にはメインヒロインちゃんとくっつくことを想定していたから、最初から負けヒロイン確定だったけれども。


 ……っと、思い出した。


 メインヒロインと主人公の出会いは、入学式前のイベントから始まる。


 今の俺のように、入学式で迷子になっていたメインヒロインのところに現れた貴族のバカ息子ことクルト・エードラー・フォン・ヴァルトハイム選帝侯嫡男に絡まれ、そこに颯爽と主人公が現れるという(自分で言うのもなんだけど)陳腐な出会い。


 まぁ、陳腐だからこそ効果あるし、効果があるからこそ多用されて陳腐にもなる。


 その陳腐な出会いの場所は、キャンパス内のどこかにある大樹の下。

 そこで思い人に告白をすると成就するという噂は特にない。


 が、めちゃめちゃデカいという設定なので道に迷っている俺でも10分歩いただけで見つけることができる。


 入学式間に合うかしら。

 ちなみに原作だとクルトくんは主人公にボコボコにされたせいで間に合わない。ホントお前不遇だな。その設定にしたこと後悔してるよ、赦してくれ。


 とかなんとか思いながら、大樹の下に来た。

 ずっとそこで待機してるとヒロインがこない可能性があるため、近くの物陰に隠れることにする。


 ……そして暫くして、お目当ての方がやってきた。


「…………はぁ、ここじゃない。全くこの学校は無駄に広いのよ。歩いても歩いても同じ景色ばかりだし……もう!」


 原作通りの台詞を吐く彼女。


 その子の見た目も原作通り。


 業火の如く紅い髪、夕陽の如く朱い瞳。

 背は女子としては平均以上であり、胸は少し控えめでコンプレックスを抱き、ツリ目でツンデレで作中最強に近い剣の才能を持っている、原作者好みのヒロイン。


 リリス・アマーディア。名前の由来はアマリリスの花だ。


 その彼女が、今、目の前にいる。原作通りの外見で、原作通りの動きをしながら……。


「感無量……!」


 思わず涙が出てきた。これだけで俺、転生してきた甲斐があるというもの。

 これがいつしか主人公のものになると思うと別の意味で涙が出てくる……。


 しかし、まだ主人公とのフラグは立っていない。


 そうだ。この物語の正義は原作者にある。

 今ここでリリスに接触し、主人公とのフラグを俺の者にすり替えるのだ。


 そしてゆくゆくは……フゥーハッハッハッハッハ!


「あの……あんた、そこで何してんの?」

「……ハッ」


 しまった。色々と妄想に花を咲かせていたら隠れることを忘れていた! バカか俺は!


「や、やぁ。リリス。初めまして」

「…………なんで私の名前知ってるわけ? あんた一体何者?」


 しまった。ついやってしまった。


 これじゃあまるで悪役じゃないか。

 いや悪役なんだけど。原作通りだけど。三下なんだけども。


 いや待てよ?

 ここで印象的な出会いをすることが出来ればヒロインとの恋愛フラグが此方に来るのではないだろうか。


 よし、その路線で行こう。


 初っ端から悪役ムーブしてしまったから方向性としては、悪役しつつ実はいい奴……うん、ある意味王道だ。


「特に深い理由はないよ。俺の名はクルト。クルト・エードラー・フォン・ヴァルトハイム。君を一目見た時から素晴らしい才能を持っていると――」

「え、なにそれ気持ち悪いんだけど。頭大丈夫?」


 心がしんどい。


 こういうキャラにしたのは俺なんだけど今全力で過去の俺を右ストレートでぶっ飛ばしたい。

 ここで「なんて素敵な人!」って言うキャラにしたかっ……いやよく考えたらそれはそれで気持ち悪いわ。


 どうしよう。一気に三下ルートに飛び込んでいる気がする。


 いや、原作じゃあリリスに絡みに行ったのはクルト含め3人。

 しかし今は1人。大丈夫、ちゃんと原作とは違う展開出来てる。言動は悪化しているけれどまだ挽回可能! だと信じたい。


「端的に言うと一目惚れしたんだ」

「は? それで人の名前調べたりしてたわけ? バカってレベルじゃないわね、ただの犯罪者じゃないの。どこの貴族様かご存知ないけど、あなた、庭の石に同じこと言った方がまだ生産的だと思うわよ」

「…………」


 俺は原作者であり、ある意味この世界の創造神である。


 だからこそ自分の作ったキャラには、それがどんな残念な性格でも責任もって愛してあげるという意思を持とうと今決めたのに……!


「んだとゴルァ! それが初対面の奴に言う言葉かぁ!」

「あんたが言う台詞じゃないでしょうが!」


 なんか言っているが堪忍袋の緒が切れた。


 ふふふ、ここまで私を怒らせたのはこの世界に来てからあなたが2番目ですよ(ちなみに1番目は原作者である)。


 気付けば俺は怒りに任せてリリスの肩を掴んで、壁ドンしていた。

 いや背後が大樹なので大樹ドンである。


 クルトは貴族的交配をし続けた結果かなりの美少年となっているので、絵面的には女性向けノベルゲームの一場面じゃないかと自負している。


「おい、そこで何してる!」


 だが現実は、WEB小説第4話目あたりで主人公の優れた力を示すためにこき使われる三下っぽい性格の貴族のバカ息子である。


「結婚したのか、俺以外の奴と」と言う暇すら与えてくれない。


「か弱い女性に対してそのような事をするなんて断じて許せない! 彼女から離れろ!」


 どこからともなく現れた人物。


 背はクルトより高い。

 黒髪で黒眼、某アイドル事務所で活躍してると嘘をついてもばれないだろう容姿を持つ男。


 ぶっちゃけ目の前にいたら一発ぶんなぐってやりたいと思えるほどに完璧な外見だけれども本人曰く「普通でしょ」とか平然と言う。よし、殴る。


 彼こそ、原作主人公ヴォルフラム・ラインフェルト、略して「ヴォルフ」である。後につけられる二つ名は「漆黒のヴォルフ」だ。


 元日本人の転生者であり、性格は若干オタク気質だがモテる。


 故にハーレムもする。

 ……が、自分の理想像を押し付けたキャラに面と向かって会うとこんなに腹立たしいものだとは知らなかったよ。


「聞こえなかったか、彼女から離れろ!」


 ここまで原作通りの台詞回し。

 目の前の女性を救うことに全力を尽くす男だ。いいね、惚れちゃうね。


「…………」

「なんで目を逸らす!?」

「い、いや、破滅の音が聞こえたから……」


 目を逸らすこと以外はここまで原作通り。


 つまり原作通り、クルトはココでボコボコにされる運命にあるのではないだろうか。

 俺がどんなに頑張っても運命と言う神様は俺を敗北させたいらしい。


 なんて恐ろしい歴史の修正力だ。


「か弱い女性を追い詰めるなんて男として恥ずかしくないのか!」


 原作と同じ展開に至ってしまったことに原作者として恥の極みでございます。

 一発逆転の道はもうないのだろうか……いや、まだある!


 そうだ、ここでヴォルフを倒してしまえばいい。


 なんてたって俺は原作者である。


 物語開始時点でのヴォルフの能力は当然知っているし、弱点も言わずもがな。


 後に第Ⅳ章の敵キャラにその弱点を突かれて主人公惨敗のシーンを書いたら結構ブクマ外されて一週間くらい立ち直れなかったことあるからよく覚えてるぜ!


 ヴォルフラム・ラインフェルトの能力。


 それは、精霊魔法である。


 先述の通り、この世界の魔法は墜落した宇宙戦艦からもたらされた科学技術で、それをイルミナティオ教団が解析、広めたものだ。


 故に魔法と言った場合はみんなが使う魔法となるわけだが、読者から紛らわしいという感想を貰ったため、宇宙戦艦由来、教団が普及させた魔法は「教団魔法」と呼ぶようになった。


 しかしその教団魔法とは違う、この世界独自の土着の魔法が存在する。


 それが精霊魔法。

 その名の通り精霊の力を借りる魔法で、宇宙戦艦由来の魔法とは違う効果、性質を持っている。その代わりヴォルフは教団魔法を一切使えない。


 だが彼は、魔法の性質の違いをうまく使って数多の魔法使い倒していくのである。


 その倒される最初の一人が、俺ことクルトのはず。


 クルトは、彼が精霊魔法使いであることを知らなかった。当然である。精霊魔法自体が世間に知られていないのだから。


 三下仲間たちの教団魔法が効かないことに動揺したクルトは、幼いころから習っていたという剣を使って勝利を掴もうとしたが……、何もできず敗北した。


 でも……、


「ふんっ、田舎出身のお前如きに倒される原作者オレじゃねぇぜ!」


 中身が原作者ならば問題ない!


「貴様、貴族か……! 貴族の癖に、こんなことをして……!」

「え、貴族ってだいたいこういう感じだろ?」

「えっ?」


 少なくとも俺の知ってる貴族の男って無駄に誇り高くてバカでコネとカネと血統しか取り柄のないって感じだけど。

 女によってはそれがプラスに働いたりもする。


 というのはさておき。


 今は主人公を倒す。今後の展開とかフラグとか関係ない。

 今は原作通り悪役を演じ、そしてヴォルフを倒してヒロインを奪うのみ!


 精霊魔法の欠点は知っている。

 まず精霊との契約を必要とするから、精霊のいない場では使えない。また契約の為に時間を必要とすることも挙げられる。


 その契約の為の儀式は他人から見れば「聞いたことのない詠唱」「見たことのない魔法陣」を使う奴だと認識される。


 だがその儀式は低レベルの弱い精霊魔法の場合であっても、同レベルの教会魔法より発動が遅いのである。

 つまり、速攻戦に持ち込むと精霊魔法は弱い!


「炎よ、彼の者を射貫け! 『炎矢ファイアアロー』!」


 炎矢は火属性攻撃魔法では最下級の魔法で威力は弱い、が速射性に優れる。


 第Ⅳ章の敵もこの炎矢を速射、というより乱射して精霊魔法の契約を妨害しつつ、接近戦によってヴォルフを混乱させた。

 また精霊がいない場所に誘導して、最終的な勝利を収めている。


 さすがに精霊がいない場所に誘導なんてできないので、俺は前者の戦法だけで勝つことにする。


「くっ!」


 ヴォルフが炎矢を避ける。最下級魔法だから避けやすい……だがそこに隙ができる。

 その一瞬の隙をついて、接近戦を仕掛ける!


 勝った! 第一章、完!


「ふんっ」

「えっ? あっ……」


 振りかざした剣は普通に避けられた。

 あっるぇー? 打ち合わせと違くないですかねー?


「ちょっとびっくりしたけど……これで終わりにしよう」


 そしてこの瞬間、契約が終わったらしい。

 彼の言葉の後半部は原作でクルトを仕留めたときの精霊魔法完成時の台詞だ。


「《契約パクトゥ》《フラウ》、彼の者に、凍てつく鉄槌を」


 原作通りに氷の精と契約完了。

 そう言えば教団魔法と精霊魔法とで括弧の種類変えてるけどこれ台詞に反映されてたりするのかなー。


 と、呑気な事を考えていたら身体の一部か凍り始めていく。


 死ぬほど痛い。死ぬほど痛いということは、夢ではないということでもある。

 夢であってほしかった。


「~~~~~~~~~ッ!?」


 俺は声にならない悲鳴をあげた。そしてヴォルフはそんな俺を助けるわけでも悪態を吐くわけでもなくリリスの手を引っ張り、何処かへと去る。


 お、終わった……。


 立った立った! フラグが立った! 破滅フラグが立った!

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