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25. 二人目の失踪者

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 異変が起きたと感じたのは、それから数日後のことだった。

 それはあまりにも自然であり、だけれどあまりにも不自然なことだった。


「最近、メルヴィ様がこの部屋に来なくなってホッとしています。いつあの不審者が我々の部屋に出入りしているところを見られたらと思っていたところでしたので……」

「…………そうだな」


 カリナのその言葉がなければ気付かなかったかもしれない。


 そう、メルヴィが来ないのである。

 あのふかふか布団と借金の取り立てに来ていたあのメルヴィが、ここ数日姿を現していない。


「なんかあったのかな?」

「あったのかもしれませんし、ないのかもしれません。あの手の人間は何か適当な理由で姿を現さなくなることもありますから」


 確かにあいつは自由人だ。本当に人間かはともかく。


 しかしそれ以上に、興味のある対象に執着する性格でもある。

 現に、結構な頻度でこの部屋に出入りしていた。興味を持たれたことが良いか悪いかはさておき……。


 借りを返す前に行方不明となったのは、いったいどういうわけだろうか。

 そういう貸し借りを重んじるキャラじゃないのは俺もメルヴィも同じだが、かと言ってつい先日までしつこいくらいに絡んできた奴がいなくなるのはおかしい。


 ……と思う。


「……クルト様」

「なんだい?」

「最近、姿を見せない人物と言えばメルヴィ様ともうひとりがいますよね?」

「…………そうだな」


 んでもってそいつは、選帝侯家の調査により黒確定とされている人物である。

 ついでに言えば、第Ⅰ章ラスボスキャラであり、メルヴィとの関係性はハッキリしている。主人と部下だ。


 アイツらが結託して何かをしようとしてる、ということか?


 その場合、真っ先に思い浮かべるのは主人公ヴォルフである。

 だって第Ⅰ章でマース先生と戦ったのはコイツなんだから。


 そりゃ、なんて言うかまずい。

 マース先生1人だけなら成長前の主人公でも勝ち目はあるのだが、メルヴィと共闘となったら主人公に勝ち目はないだろう。


 ヴォルフはまだ授業に出ていたので生きているだろうが、今後どうなるかは不明。

 もし戦えば、まぁ死んでしまうだろう。


 そうなれば、メインヒロインのリリスは解放されクルトとのフラグが立つのでは……?


「クルト様? どうなさるのですか?」

「……これ以上借りは作りたくないんだがな」


 しかし俺はNTR展開が嫌いなのである。

 いやそうじゃなくても、さすがに主人公が死ぬのは忍びない。


 それに多分、ここまでシナリオがぐちゃぐちゃになったのは俺のせいでもあるだろうし。


 そういうわけなので、どうかヴォルフを殺さないでくださいお願いしますの土下座をするためにメルヴィを捜すことになった。


 貴族の誇り? 関係ないから!


 アテはあるのか?

 そう問われれば「ない」と答えるしか……いやひとつ、いやふたつ……いやもっとあるな。意外とアテがある。


 そのうちひとつが第7街区にある店「モンタヴァル」である。


 しかしここは第7街区というのが難点。

 またあの街に行けば再び誘拐されること間違いなし。これは後回しにしよう。


 同様に「アトラス」も考えたが、まずは学園内のアテを優先ということで先送り。


 一応、すぐに必要になるかもしれないのでカリナに頼んで馬車を用意させた。


 というわけで、まずはメルヴィと初めて会った時に貰った地図を基に捜してみるわけだが、しかしながらメルヴィ画伯の地図は非常に独特であり、読解には時間がかかるシロモノだった。


 途中、ヴォルフに出会ったが話がややこしくなりそうだったので適当にあしらった……が、これがまた骨の折れる作業であった。


 いやなんでアイツ俺を視認した途端不審者扱いしてストーキング始めるの?


「もしかしてお前、俺のことが好きなのか?」

「そ、そんなわけあるか! だいたい君は男だろ!?」

「お前が同性愛者かもしれんだろが」


 まぁそんな設定はない(後にサブヒロインとして男の娘が参入するがそれはだいぶ未来の話)のは知っているけれど。


「で、君は結局何をしているんだい?」

「そりゃこっちの台詞だが……まぁいい。教えてやるついでに教えてくれ。これ何処だと思う?」

「え? なにこれ?」

「地図だよ。待ち合わせ場所の地図だが見ての通りだからな」


 実はヴォルフには字も絵も下手くそという設定がある。

 庶民としての才能のなさと野蛮さ(貴族的価値観表現)を象徴する特徴であるが、途中で死に設定となる。


 原作者自身も忘れかけている。ていうか今の今まで忘れてた。

 だがこの時は思い出せた。同じ画伯同士、解読が可能かもしれない。


「……これどうみても図書館だ」

「は?」

「……え、君そんなこともわからないの?」


 待て待て待て。半分冗談で「画伯同士、解読できるだろう」ということで頼んだのに本当に一瞬で解読するの?

 どういうことだよ、これが主人公補正なのか? そんな補正いらねえだろ。


「あー、そうか。サンキューな」


 んじゃこれにして失礼……しようとしでも出来ない。

 なぜなら相手がウザいくらいに絡んでくる主人公だから。君はもっとやれやれ系主人公を見倣ってほしい。


「おい待て。これはなんの地図なんだ? 君は一体――」

「お前は女子からこの地図を貰った男に対してそんなに詰問をするのか?」

「なっ――」


 ヴォルフが固まった。愛の告白のための呼び出しと解釈したのだろう。

 実際そんな雰囲気の発言だが、現実は違うのである。悲しい。


 女子から地図を貰ったというのは事実だけど……いやあいつは女子でいいのだろうか。長寿の天人族でアイツも結構な年齢だぞ?


「し、失礼した。あの、俺はちょっと用事思い出したんでここで……」

「おう、さっさとどっか行け」


 いい感じにヴォルフを追い払えたので、捜索再開。


 地図の場所が図書館ということは、つまりは図書館の転移魔法陣を使え、あるいは秘密の魔法陣を使ってメルヴィが現れるということだろう。


 図書館には――というか学園内にはいくつかの秘密の転移魔法陣があり、その全てはメルヴィが住む秘密の地下室へと通じている。

 代表的なのは、図書館の恋愛小説コーナーにある売れない作家が書いた三流恋愛小説の挿絵。


 図書館の中は静まりかえっていて、司書を除けばあまり人はいない。適当に挨拶した後にお目当ての恋愛小説コーナーを目指すが……。


「あれ?」


 しかし、件の恋愛小説は見つからなかった。

 貸し出し中なのかと思い司書に問い合わせてみると、


「あぁ、その小説なら先程マース先生が借りていきましたよ。あの人が恋愛小説好きなんて、ちょっと意外ですね」


 とのことである。


 マース先生がメルヴィの部下であることを考えると、安全の為か利便性の為か、図書館の本を持ち出したと考えるのが自然だろう。

 しかしながら、なんだかちょっと嫌な予感がする。


 俺は原作者だ。恋愛小説以外にも秘密の転移魔法陣の在処を知っている。


 もう一つの場所は、第Ⅳ章でヴォルフがメルヴィに誘い込まれた場所であり、つい最近俺も生でその存在を確認した場所。


 俺が負け犬貴族敗北者であることを改めて自覚した、大樹がある校舎の裏手である。

 というか、その大樹に転移魔法陣があるのだ。


 体力がついたおかげか図書館から大樹へと向かっても疲れはなかった。

 そして大樹の下へとたどり着く。相変わらず大きく、そして人気のない場所。転移魔法陣を仕掛けるのに最適だろう。


 ……あぁ、自分で設定しといてなんだけど、メルヴィはここの転移魔法陣を使って地下室から転移してきて、俺とヴォルフの決闘を見てたのか!

 はえー、儂ながら凄い伏線回収だ。この文才褒めて欲しい。


「ま、感動するのは後にして、いざ鎌倉――いや地下室だ」


 魔法陣は基本的に魔力を流し込むだけで発動する便利なアイテムだ。魔法の才悩がなく魔力のない人間でも、魔石を使って補助すれば発動できる。


 この魔法の才能のなさなら作中一、二を争えるクルトでも発動できるのだから、世の中便利になったものだ。いやこの世界に来たのつい最近だけどね。


 魔法陣に魔力を注ぎ込むと、視界が白一色に包まれる。

 そして次の瞬間には、目的地へと到着する。――そのはずだった。


「……えっ?」


 いや、ああいう風に書いてしまうと転移に失敗したように思っちゃうよね。

 これは書き方が悪かったかもしれない。


 正確には目的地にはちゃんと到達したのだ。予想通り、秘密の地下室に。


 そしてそこにはメルヴィが、古今東西から集めた書物に囲まれたり、書物の上で胡坐をかいていたり寝ていたりする姿を想像していた。


 けれど俺が見たのは、想像とは遥かに違う光景だった。


「……ったく、遅いわい。儂をこんな姿で何日待たせるんじゃ」


 そこにいたのは、縛られ、ボロボロになったメルヴィの姿だった。


 ……どうしてこうなったんだ?

たぶん週内で第一章が完結すると思います。

ですが第二章以降はまだ執筆すらしてないので期間が開くと思いますので、第一章終了後は気長にお待ちいただければと思います。

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