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1. 事実は小説なり

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 ところがどっこい、夢じゃありません! 現実です、これが現実……!


 え、嘘だろお前。いや本当に嘘だと言ってほしい。

 事実は小説より奇なりとよく言うが、事実が小説と融合してしまった場合はどう表現されるのだろうか。


 ちなみになぜここが自分の作品の世界だとわかったかと言えば、窓の外に作品内世界において超重要で特徴的な建築物があったからである。


 原作者としてここは「やったー! 憧れの異世界転生に俺も巻き込まれたー!」と喜ぶべきなのだろうか。

 いやいや、それが成立するのは主人公とかヒロインとか、あるいはボス級の敵役に転生した時の話であって、まさかこんな……、


「こんな、名前も憶えてないようなキャラに転生するのか俺!」


 新しくなった身体で早速頭を抱える俺の姿が、ベッド脇の鑑に映っていた。


 俺の今の姿は、白い肌に白金の髪、碧眼。


 天蓋付きベッド、やたら広い自室。

 窓の外はやや明るく、見ればだだっ広い庭園がある。


 かなりの大貴族のお屋敷であり、そしてこの時点でメインキャラでないことが確定する。


 主人公は孤児院出身だし。

 ワンチャン主人公の友人という可能性もあるが、そいつは王族なので、この場合は内装・外装がしょぼいということになるので違うかな……。


 そんでもってよくあることだが、同年代の男キャラというのが女キャラの数に比して少ない俺の作品において、主人公とその友人くらいしかメインキャラはいないのである。


 ほら、女キャラって書いてて楽じゃない?


 となるとサブキャラ……けど、こんな設定のキャラいたかな……?


 俺がベッドの上でうんうんと唸りながら自分の小説を思い出そうとしていた時、扉がノックされた。

 なお、当然のことながら扉も無駄に豪華だ。


『おはようございます。朝です。起きていますか?』

「……誰?」

『おや、今日は早起きなのですね。いつもは全然起きませんのに。やっぱり、今日は特別な日だからでしょうか?』


 なんだろう。このちょっときつめの言い方のキャラ。

 でも記憶があるような気が……って思い出した。確か第四章あたりで主人公に仕えることになったメイドだ。名前は確か――


「カリナか?」


 カリナと言うのは、物語中盤に主人公に雇われたメイドだった。


 もともと貴族のメイドだったのだが、主人からの扱いが悪かったために逃げ出すような形で退職し、路頭に迷っていたところ主人公に拾われた……。


『そうです。カリナでございます。もう起きているということは入室してもよろしいでしょうか?』

「あ、あぁ、構わない……」


 扉が開けられ、メイドが数人入ってきた。

 どれがカリナかはすぐにわかった。一人だけ子供のように背が小さい。

 年齢的には主人公勢より年上なのに低身長。それがコンプレックスになっているという設定だった。


 そんでもってキャラの造形を深めるために色々と後から付け足した設定で、カリナが元いた職場というのが確か、大昔に登場した貴族で主人公に喧嘩売って返り討ちにあったっていう……。


 オイオイオイ。死んだわ俺。いやでも異世界転生してるのに、まさかそんなことあるわけ――


「クルト様、呆けた顔をなさっていますが……どうしたのですか?」

「……そんなことあった」

「はい?」

「なんでもないです……」

「なぜ敬語……?」


 ここに来て、俺の名がわかる。


 クルト・エードラー・フォン・ヴァルトハイム。

 ヴァルトハイム選帝侯家嫡男であり、主人公の強さを見せつけるための当て馬である。


 いや、ほら、よくあるでしょ? 主人公がどれくらい強いかを示すために物語序盤でそこら辺の貴族(作品によっては盗賊・山賊・粗暴な冒険者など)をけしかけて喧嘩させるやつ。


 あれだよあれ。あれのリーダー格だったのが、今の俺。


 原作の第4話目くらいに、他の貴族のバカ息子共と一緒に、後にメインヒロインとなる子にちょっかいを出し、そこをたまたま通りかかった一般通過転生チート主人公にボコられ、主人公はメインヒロインとフラグを立てる。


 ある意味記憶に残るキャラであり、ある意味記憶に残らないキャラである。


 そんなキャラなのに設定がしっかりしているのは、目の前にいるカリナのキャラ設定のせい。


 つまり「元選帝侯家のできるメイドだったんだけど主人が荒み始めたから辞めた」という設定の余波で、やたら恵まれた設定がこのモブキャラにつけられた。


 ちなみに、上記の喧嘩の件以降の出番は一個もない。マジでただのモブ以下の負け犬貴族の敗北者。


「いや、ほんとになんでもないんだ」

「なら良いのですが……。本日からクルト様は王立魔法学校の生徒となりますので、準備願いますでしょうか」

「行きたくねぇなぁ……」

「は?」

「なんでもない……準備しようか……」

「本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫大丈夫。問題ないデース」

「…………はぁ」


 大丈夫そうに見えない、ご主人様に言った方が……という言葉がちらほら聞こえる。

 まぁ、でも許してほしい。


 本日から俺は王立魔法学校の生徒となる、ということは今日が入学式ということ。


 そんでもって、さっきの「主人公にボコられる」のくだりは入学式に行われるイベントなのである。

 嫌だなぁ、行きたくねぇなぁ……。


 ……いや待てよ。別にメインヒロインにちょっかい出さなければイベント発生条件を満たさずボコられイベントを回避できるのではないか?


「よし、じゃあ早速行くか!」

「あの、そのテンションの乱高下はなんなのですか? あと、せめて着替えてください」


 カリナの表情は躁鬱の激しいバカを見る目をしていたが問題ない。


 俺は原作者である。

 原作者なのだからこれから先起ることを予知できる。予知した上でフラグをへし折り、なんだったら俺ことクルトを主人公にすればいいじゃないか。


 わっはっは。勝ったな!


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