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16. 掘り出し物を探そう

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 物語の中心舞台となる魔法都市エスセナリオは、主に2つのエリアに分かれている。


 イルミナティオ教団の総本山である「エスセナリオの斜塔」を中心として自然発生的に作られた旧市街と、旧市街の外側に計画的に築き上げられた新市街である。


 さらに新市街は7つのエリアに分類されており、魔法学校もその7つのエリアのうちのひとつである(そして最も敷地面積の広いエリアでもある)。


 さてそんなエスセナリオの街で魔石やら魔導具やらを買うとしたらどこになるのか。

 魔法を統括している存在が教団ということもあって、旧市街にそういうものが集まりやすい。


 一方でギルドや宿屋など、冒険者が集まりやすい新市街の「第二商業街区」にも冒険者向けの道具が集まりやすかったりする。

 つまり、用途に沿って街を選ぶのが良い。


「で、どちらへ行くのですか? 信頼性という面では旧市街ですが、実用性という面では第二商業街区が良いと思います」

「まぁ、今回は実用性重視かな。旧市街の方だと『アンティーク』っていう感じのが多いし」

「畏まりました。では御者さん、第二商業区までよろしくお願いします」


 今日は急遽買い物をすると決めた故に、馬車と御者はヴァルトハイム家所有のものではなく、近代ロンドンの街を駆けていそうな辻馬車を使うことになった。


 見た目はかなりカッコイイのだが、貴族の嫡男が乗る物としては余りにも格好がつかないものである。

 まぁ今回は見栄を張るために出かけるわけではないのだから大丈夫だろう。


 馬車は旧市街を抜けて最短距離で第二商業街区へと向かう。

 道中揺れが少なくなるよう御者が上手く馬車をコントロールしていた。これはだいぶチップをあげないといけないなぁ。


「しかしクルト様、いったいどんなモノをお望みなのでしょうか? それによって何を買うかが決まってきますが……」


 2人乗り横並びの辻馬車で俺の隣に座るカリナは、背後に立つ御者に聞こえないよう、且つ走行音に負けないような声で話しかけてくる。

 なんとも器用だと感心する。


「まぁ――だ魔――は――――」


 俺はそんな器用な事が出来ないので、自分の言葉が自分で聞こえないくらいに声を抑えてしまった。

 当然、カリナは聞こえないアピールをする。


 仕方ない。少し恥ずかしいが、カリナの耳元まで寄って話すとしよう。


「って、近いですよ!」

「近くまで寄らんと聞こえないだろ?」

「もっと大きな声で話せば……」

「いい感じに音量調整ができないもんでね」


 そんなことより魔導具の話だ。


 俺は今、そんなに多くの魔法を使えない。

 これから習うのだから当たり前の話ではあるが、基本的な生活魔法や攻撃魔法しか使えない。


 ヴォルフやジュベイル、ましてやメルヴィのような高度な魔法は使えないし、たぶんキャラ設定的に一生使えない。

 だから魔力量を補助する魔石ではなく、それ単品で魔法が発動する魔導具やアーティファクトを買い漁ることになるだろう。


「し、しかしそういった便利な魔導具やアーティファクトは需要が高いため価格も必然的に上昇します。手持ちの資金だけでは――」


 少々声が上ずっているが、カリナの言う通りである。が、無用の心配でもある。


「カリナ。俺を誰だと思ってる? 俺はヴァルトハイム選帝侯家の嫡男だぞ?」

「……つまり?」

「俺に金がなくても親父の金でなんとかなる!」

「あぁ、やっぱりそうなるんですね……」


 カリナの目が若干……というかだいぶジト目になった。

 親の脛をしゃぶりたい年頃なのだ、許してくれ。


 しかしまぁこの手の話は貴族の中では普通だと思う。

 元一般庶民だった身としては罪悪感あるけれど、クルトの良い所はこれくらいしかないのだから本当に見逃してほしい。


 そんなことを話しているうちに、馬車は第二商業街区へと到着した。


 学園からここまで俺たちを運んでくれた御者に運賃とそれなりのチップを握らせた後別れを告げ、第二商業街区と対面を果たす。


「思ったより……なんと言うべきか……活気がありますね」

「そこは『五月蠅い』でいいんじゃない?」


 第二商業街区は、第一商業街区に並び街の玄関口としての機能もある。


 第一との違いはターゲット層であり、第一が中・高所得者向けで、第二が低所得者・冒険者向けである。

 それ故か、第二は第一に比べて活気があり、いい意味でも悪い意味でも(かまびす)しい。


 イメージ的には「下町の商店街」という感じ。

 今はまだ昼間だからいいが、これが夜になると工業区からの帰宅ラッシュと酒場の開店時間、冒険者の帰還が重なりかなりカオスなことになる。という設定。


「とりあえずはメインストリート沿いに適当な店を探して行こうか? それともカリナはどこか良い店知ってる?」

「いえ、私は魔道具と言った分野は専門外ですので、適当に歩き回った方がいいかと」


 と言うことでカリナと一緒にぶらぶらと買い物。

 字面だけだとデートに見えなくもないが、しかし学生服とメイド服のコンビなので当の本人にはその意識がない。

 少なくとも俺にはない。


 こりゃ着ている服間違えたな。

 魔導具無視して服屋にでも寄るか? でもそれをするだけの時間はないだろうから、次に生かすとしよう。


「はぐれないでくださいね、クルト様」

「そんな子供じゃあるまいし」

「子供ですよ」


 そりゃカリナから見ればそうかもしれないけど、身長的にはカリナの方が子供だと思います。

 しかし彼女の言う通り、商店街はまだ明るい時間にも拘らず混んでいる。今日は祭かと勘違いしてしまう田舎者がいるかもしれない。


 やはりエスセナリオの入り口ということで発展してるのだろう。


 見やれば、屈強な男達や様々な魔導具を装備している魔術師たちも多くいる。

 第二商業街区はまさにエスセナリオにおける「冒険者の街」だ。


 だからこそ実用的な魔導具が、まるで野菜でも売るみたいに露店で並んでいたりする。


「よう、そこの魔法学校の坊主! 興味あるなら見てくかい?」

「そこの御嬢さんはメイド……? つことは貴族さんか!? ならこっちに――」

「おい俺が最初に声をかけたんだぞ!」


 やはり服装を間違えたか……?


「クルト様。このような露店では紛い物も多く混在していると思います。店舗の方に行った方がある程度信用に足るかと……」

「気にしすぎじゃない? ブランドもののバッグじゃあるまいし」


 冒険者相手の商売だと、相手が命に係わる仕事をしていて、且つ冒険者同士の横の繋がりの強固さから信用が本当に大事である。


 相手が死んでしまえば情報が漏れることはないと考えて偽物を売ることを専門にする奴がいないとは言わないが、だいたいそういう奴は身内からも商売相手からも排斥される運命にある。


 それ以外の宝飾品やら奢侈品となると、偽魔導具のような排斥リスクが減るので、詐欺師のみなさんはだいたいそこの業界で働いている。


「今回は下見程度にして、買うのは後のことにしておこう。現金の持ち合わせがそんなに多くあるわけじゃないしね」

「旧市街や卸商に行けば、信用払いができますよ。このような露店商だと無理ですが……」

「……その情報は最初に欲しかったかもしれない」


 今から旧市街に行くのも面倒だし、卸商を見つけるまではぶらぶらとウィンドウショッピングを楽しむことにしよう。


 魔導具は、他のファンタジー作品に見られるように「杖」やら「ローブ」やら「宝飾品」やら「刀剣」の形を取っている。


 どのような形をしているかは魔導具にとっては重要ではなく、本来の使い方に付属する形で魔法効果が付与されていると考えていい。

 つまり刀剣型の魔導具ならば、刀剣として白兵戦などに使う傍らに魔導具として魔法戦を行えるようにしている、ということ。


 この傾向は特に現代の工場で生産される魔導具において顕著である。


 一方で、300年前の最終戦争以前に作られた魔導具は「アーティファクト」と呼ばれ区別される。

「アーティファクト」も魔導具であるのは間違いないが、最終戦争によって西方大陸(ウェステリア)が荒廃し、かつ魔法関連技術をイルミナティオ教団が独占したことによっていくつかの魔法技術が逸失――つまりロストテクノロジーとなっている。


 しかし技術が失われても道具が現代にまで残り、遺跡で発見・発掘されることがある。


 それがアーティファクトである。


 アーティファクトは魔道具としての価値に蒐集品としての価値と研究素材としての価値が付与されて、概ね現代魔導具の5倍から10倍は高値となる。


 当然、そんなアーティファクトが露店で堂々と売られている事なんてあり得ず――、


「よう兄ちゃん、最近デグラノ大森林遺跡で見つかったアーティファクトがあるんだが見てみないか?」

「あんのかよ……」


 おかしいな、希少設定が死んだのだろうか。

 しかしこの露店で売られていたアーティファクトはどうやら実用性に乏しく、どちらかと言えば珍妙な芸術品としての価値しかない模様。


「このアーティファクトは見ての通り嵩張るんだけども、なんと……」

「なんと?」

「でっけえ花火を打ち上げることができるんだ!」

「花火買った方がいいわ」


 ちなみにこの世界での花火は火薬ではなく魔導具によるものである。

 そして工場で量産できる程度の代物である。


 露天商が勧めているアーティファクトは大きさがラグビーボール程度ある。

 工場生産品のものはテニスボールサイズが普通なので、どう考えてもこのアーティファクトは粗大ごみとしての価値しかないだろう。


「いやいや腐ってもアーティファクトだぜ? 芸術品としての価値は勿論のこと、なにか普通の魔導具とは違う得体のしれない効果があるやもしれん」

「あったら困ると思うんだけど……」

「だからこのアーティファクト、今ならなんと300統一マルクでどうだ?」

「高いわ」


 この露店商、どうやら倉庫の肥やしになっているアーティファクトを処分したくて仕方ないらしい。

 300統一マルクはアーティファクトとしては破格の値段だが、花火としてはぼったくり価格である。


 なお、通貨価値は作者にとっても読者にとってもわかりやすく1マルク=100円。

 補助通貨としてペニーがあり、そちらは1マルク=100ペニーとなる。


 まぁ前世におけるドルとセントみたいな感覚だと思って結構。1マルク=1円にしなかったのは作者の妙なこだわりだが、ペニーが作中登場することは殆どない。


 値段と実用性を理由に露天商からの誘いを丁重に拒否。またぶらぶらとその辺を歩く。


 しかし俺らを世間知らずのカモと見れなくなった露天商たちの反応が薄くなり、なかなか声をかけられなくなった。その方がぼっちとしては嬉しいけれど。


「クルト様、意外と金銭感覚が庶――正常なんですね……」

「『意外と』は失礼じゃないか?」


 確かに貴族のバカ息子的には金銭感覚に疎い方がキャラ的にはいいかもしれんけど。

 いいじゃないか、庶民感覚貴族がいても。こちとら元庶民なんだし。


 その後商店街を適当に歩き回るものの、これと言った掘り出し物はなかった。

 実用性のあるモノは全て工場生産品の現代魔導具で、アーティファクトでは花火以上の実用性を持つものはあまりなかった。


「やはりそういう掘り出し物を買うのに我々の信用が足りないということでしょうか……」

「選帝侯家の嫡男がそんなに信用できないのか?」

「そういうお話ではないと思います。『一見さん』であれば、相手が貴族だろうが浮浪者だろうが信用しろと言うのが無理な話。それに取引と言うのは、相手と仲良くなって信用を得ることからが本番と言いますから」

「そっかー……」


 意外と貴族の権威って通じないんだなぁ。

 だとしたらなんでこいつは原作で権威でゴリ押ししようとしたんだろうなぁ。まぁ、フラグ立てと主人公の見せ場を作る土台として貴族の大馬鹿野郎は便利だから酷使されているだけだけど。


 けど自分で作った世界のはずなのに、世界の不条理に悶えるのはこれで何度目だろうか。


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