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14. 想定外です

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「……よくぞやってくれた」

「え、あぁ、……どうも」


 ぎこちない挨拶と共に、両者ともに決闘台から降りる。

 この決闘を見ていた生徒たちは両者の健闘をたたえるなり、王族に対して「勝ち」を取ってしまったヴォルフを非難する声も密かに上がる。


 けれども当の本人たちと言えば、


「君はなかなか面白い術を使うな。それに剣技も十分にある。誰の師の下でそれを学んだ?」

「あぁ、いえ、俺――じゃなくて、自分は――」

「そんなに畏まらずとも良い。余の前では、他の同級生と同じように接したまえ」


 原作とは違った展開で親友フラグを立てることに成功している。

 ……いいなぁ。


 しかしこれなら俺の、というかヴァルトハイム家没落フラグが立たないことは間違いない。

 ちょっと展開が予想外だっただけで。


「いやぁ、予想外でしたね。ラインフェルトくんができる子だということは入学試験のときにはわかっていましたがこれほどとは」


 決闘が終わり、先生の教えが再開する。


 ここからちゃんとした授業であるからちゃんと講義を聞かないといけない。

 なにせジュベイルとクルトとの没落フラグがオチになったせいでこの後の描写はカットされてるし。


「しかしこの決闘にはある盲点があります。何かわかりますか?」


 先生は生徒たちに、その盲点とやらが何かを聞く。

 2、3人に聞いて回るのだが流石に実戦経験の乏しい、入学したばかりの生徒には難問だったようで正解者なし。


「んー、ではヴァルトハイム卿。わかりますか?」


 しかし俺にとっては赤子を捻るよりも楽な質問である。


「それは身体保護魔法の存在が、ヴォルフラム・ラインフェルトの勝因であるからだと思います」

「ふむ……続けてください」


 好感触。まぁ当然だね。これ原作でも描写したから。


「身体保護魔法は致命傷を受けるダメージを身体が受ける時に自動的に発動し、そのダメージを肩代わりする魔法である、かなり高度で強い魔法です。しかしこれは同時に制約の大きい魔法であるということを意味します」


 WEB小説系のファンタジーではこういう決闘で多用される身体保護の魔法だが、他の物語でもままあるように、その魔法が決闘(あるいは実験)以外の場で使われることはない。


 それは身体保護魔法がかなり大ざっぱな設置型の魔法であるということに由来する。


 つまり任意のタイミングで任意の対象にいつでも発動できる魔法ではないため、自由度が低いといのだ。

 範囲の指定が難しく、また出来たとしても術者の集中力や環境次第で範囲の増減が激しい。


 その結果、敵味方入り乱れて戦う実戦の場では、身体保護魔法が敵の身体も守ってしまうという事態が起きる。

 しかし、双方共に身体保護を必要とする戦場以外の場所、つまり決闘や実験においては問題とならないため多用される。


 多用されるが、しかしここに一つの「盲点」が生まれる。


「身体保護魔法が発動している限り、どんなことをしても致命傷を負わないという保障があるために思い切ったことが出来てしまうんです。つまり、実際の戦場では難しい『肉を切って骨を断つ』を容易に行えてしまいます」


 さっきのヴォルフの近接戦闘がまさにそれ。

 死んでしまうかもしれない戦場では安全策を取るものだが、死ぬ危険性が0であるなら人間は容易く冒険をする。


 ヴォルフは魔法戦の最中に白兵戦を選ぶという冒険をすることが出来たのだ。


「その通り、流石ヴァルトハイム卿です。また身体保護魔法は設置自体が難しく、大量の魔力を消費するため大魔術師が設置するか、あるいは大量の魔石を使用する必要があるという欠点もあります。この決闘台の場合は魔石によって賄っています」


 そう言って先生は、懐から魔石を取り出した。


 先生はその魔石の魔力を使って身体保護魔法を発動したらしい。

 身体保護魔法は魔法陣による発動なので、魔法陣の形を覚えてしまえば理論上、だれでも使える。だが、魔力の問題があるので誰でも使える代物とはならない。


「そして彼が言ったように、身体保護魔法発動下の戦闘――というより決闘では、『どれだけ冒険するか』が勝利の鍵となり得ます。無論、実戦と同じく慎重に事を運んだジュベイル殿下の選択も間違いだったというわけではありませんが――」

「いや、それは違います先生。あとヴァルトハイム卿も」


 と、ジュベイルがここで発言。


「いくら身体保護魔法があって身体は傷つかないと言っても、痛覚は通常通り働く。それなのに思い切って白兵戦を挑むのは相当の勇気が必要かと。これは怖気付いた余の判断ミスでもあり、彼の勇敢さを褒めるべきところである」


 そう、彼は言い切った。カッコイイ。主人公みたいだ。


 しかし当の主人公さんは身体保護魔法についてよく知らないので「えっ、そうだったの? マジで?」みたいな反応をしているのは見なかったことにしよう。


 とは言え、ここまでジュベイルが傷心する必要もないと思う。

 武人気質とは言え、ここは少しでも彼の為になること&コネの維持の為にも何か言っておこう。


「しかし殿下が健闘したことは間違いないかと思います。そう自分を卑下せずとも――」

「健闘? 負けて健闘など嬉しくはない。そんなことで勇敢なる戦士の評価を下げたくはない。だから下手な慰めはよしてくれないか、ヴァルトハイム卿」


 ピリリ、と何かが走る。

 ……あれ? もしかして地雷踏んだ?


 いかん、このままでは没落フラグだ。地雷を踏んだとしてもその場で解除すればまだ致命傷で済むかもしれない!


「……配慮に欠けた発言でした。申し訳ありません」


 相手が王族ということもあって素直に頭を下げた。

 ちらりとジュベイル殿下を見やると、ふんと鼻を鳴らして、こちらから興味をなくしたように視線を外した。


 ……これってアウト? セーフ? ヨヨイのヨイ?


 なんだかアウトな気がするが、これ以上はどうしようもない。

 気まずくなった雰囲気をどうにかしようとしたのか、解説役となるはずだったけど俺にお株を奪われたアストラル・スピードワゴンが手を挙げた。


「あ、あの、質問よろしいですか?」

「なんでしょう、スピードワゴンくん」

「はい。身体保護魔法が現実では使えないのはよく理解できましたが、では現実で同じことをするのは全くの不可能なのでしょうか?」

「つまり、何かをして身体保護魔法と同等の効果を得られないのか、ということですか?」

「はい、そうです先生」

「魔法防壁を展開しての近接戦闘というのはあり得ます。しかし同一人物が魔法防壁を展開しながら白兵戦を演じるのは集中力の問題から難しいです。故に魔法防壁を行う魔術師と白兵戦を行う前衛職と役割分担をするのが普通です」


 他にも、単純に防具だの魔導具だのアーティファクトを使って防御力を底上げするとか色々方法はある。が、いずれにしても魔法防壁以上の働きはない。


 身体保護魔法が強すぎるだけとも言う。


 もっとも、改造人間になって身体の半分をゴーレムにするという奥の手は一応存在するし、それを実行する者が第何章だったかに現れ主人公勢の前に立ちはだかる。


 失った肉体と手間と金を気にしないのであれば、考慮に入れることも可能だ。

 やる奴は限られているだろうが。


「とまぁ、多対多の集団戦の場合は魔法防壁、その他道具による防御力の引き上げで身体保護魔法と似たようなことはできるかもしれません。ですが、基本的に『魔法戦は攻撃側優位』と言うのは覚えておいてください。

 ですので、実戦では如何に先手を取るか、そして先手を取られた場合の防御策の構築、そして白兵戦の挑み方、乃至挑まれた場合の対処法などが重要となります。ま、それを教えるのが私の役目なんですがね」


 先生はそんな感じで総括して、いよいよ本格的な実習を行った。


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